大舞台で存在感を発揮した“引退表明選手”
10月12日から幕を開けたクライマックスシリーズのファイナルステージ。
日本シリーズ進出をかけて、セ・パの激闘を勝ち残った2チームによる戦いが連日繰り広げられている。
過去にはレギュラーシーズンで現役引退を発表しながら、“ボーナスステージ”となったCS、またはプレーオフで存在感を発揮。“有終の美”を飾った男たちもいる。
今回はそんな名選手たちの躍動を振り返ってみたい。
敗退寸前のチームを救った初芝清
逆転劇の呼び水となる執念の内野安打で出塁し、敗退寸前のチームを日本シリーズに導いたのが、2005年のロッテ・初芝清だ。
2勝2敗で迎えた10月17日のプレーオフ第2ステージ最終戦。7回を終わってリーグ1位のソフトバンクが2-1とリードしていた。
何とか反撃の糸口を掴みたいロッテは、8回無死の場面で初芝を代打に送る。
凡退すれば、すなわちこれが現役最後の打席に。17年間の選手生活の最後を“優勝”で飾りたいと思いつづけていた初芝は「絶対出塁してやる」と闘志を奮い立たせた。
だが、三瀬幸司が初球にスライダーを投げてくると予期していたにもかかわらず、そのスライダーを見逃し、「どうしよう?」と頭が混乱したまま、カウント2ボール・1ストライクからの4球目に手を出してしまう。
三遊間にボテボテのゴロが転がった瞬間、「やっちゃった……」と悔やんだ初芝だったが、直後に思いもよらぬ幸運が待ち受けていた。
打球を処理しようとした三塁手のトニー・バティスタと遊撃手の川崎宗則が交錯。一塁送球が遅れた結果、初芝は間一髪セーフに。
そこから福浦和也の右前安打で一・二塁とチャンスを広げ、一死後に里崎智也が左越えに2点適時二塁打。3-2と逆転した。
総力戦で内野手を使いはたしていたことから、初芝は代走を送られることなく、同点のホームを踏み、そのままサードを守ってチームの勝利の瞬間を見届けることになった。
その後、阪神との日本シリーズ第2戦でも代打で出場し、人生初の日本一を手土産にユニホームを脱いだ初芝。
当時筆者の取材に「野球の神様が最後の最後で17年間頑張ったご褒美をくれたとしか思えませんでした。(東東京大会決勝で敗退した)高校時代からこれまで相手の胴上げばかり見てきましたが、優勝できたことで、今までのことがすべて楽しい思い出になった」と語っている。
“代打の神様”が44歳3カ月で本塁打
現役最後の打席をCSの舞台で、それも本塁打で飾ったのが阪神・桧山進次郎だ。
2013年、金本知憲の引退でチーム最年長になった“代打の神様”。進退を賭けて全力でチャレンジしたが、夏場以降は気力の衰えを感じ、ついに引退を決意する。
引退試合となった10月5日の巨人戦で先発出場した桧山だったが、3打数無安打。これは「最後に一発打ちたい」の気持ちが先走り、「常に謙虚に」の心構えを忘れたからだと反省させられた。
その後、チームはシーズン2位でCSに進出したが、ファーストステージの広島戦は第1戦で1-8と大敗。第2戦も8回まで2-7と敗色濃厚だった。
だが、9回二死。あと1人でゲームセットというところで、マット・マートンが「ゼッタイ ニ ヒヤマサン ニ マワス」と執念の右前安打で出塁し、まるでドラマの一場面のように、俊介の代打・桧山が告げられる。
マウンドにはシーズン中から苦手にしていたキャム・ミコライオがいたが、「センターへ返す」ことだけを心掛けていた桧山は、1ボールから内角低めの154キロ直球に対し、きれいに体を反転させながら、鋭く一振。
「今もあんな打ち方ができるなんて驚いた」という会心の打球は、ポストシーズン史上最年長の44歳3カ月の新記録となって右翼席に飛び込んでいった。
「日本一という忘れ物を取りにいく」という最後の夢は叶わなかったものの、2011年5月14日の中日戦以来となる本塁打を現役最後の打席で打つことができた“代打の神様”は「野球の神様がいたと思った。22年間で一番のホームラン」と感謝しながらユニホームを脱いだ。
稲葉篤紀が見せた“底力”
引退セレモニーを終えたあとに出場したCSでも、ここ一番での勝負強さを発揮したのが、2014年の日本ハム・稲葉篤紀だ。
ファーストステージのオリックス戦。第2戦で一度は勝ち越し打となる代打タイムリーを放った稲葉は、1勝1敗で迎えた第3戦でも、0-1の6回一死一・三塁のチャンスに西勇輝のフォークボールを二塁後方に運ぶ同点適時打。
「こういうしぶとい安打が出るうちは、調子が良い」という気迫の一打は、延長10回に中田翔の決勝ソロを呼び込み、2勝1敗でファイナル進出をはたす。
そして、ソフトバンクとのファイナルステージでも、2勝2敗で迎えた10月19日の第5戦で、0-4の7回二死一塁で代打・稲葉が登場。1ボール・1ストライクから外角高めの143キロ直球を中前に弾き返し、ベテランの底力を見せた。
直後、「稲葉さんが打つと、気持ちが入る」と大野奨太の右中間二塁打などで3点を返し、8回に中田の同点ソロで追いついたあと、延長11回に中島卓也の2点適時打で劇的勝利を手にした。
勝ったチームが日本シリーズ進出となる翌日の第6戦は1-4で敗れ、稲葉も9回の現役最後の打席で捕邪飛に倒れたが、「思いっきり振れた」と自身のスイングは納得できるものだった。
試合後、両軍ナインの手で胴上げされた42歳は「一緒に戦ってきたホークスの選手にも胴上げしてもらって……幸せです」と男泣きした。
文=久保田龍雄(くぼた・たつお)