白球つれづれ2022~第42回・大物不足のドラフトで問われる球団の戦略とスカウトの「眼力」
運命の一日。プロ野球のドラフト会議がいよいよ20日に迫ってきた。
すでに6球団は、早々と1位指名を公表している。
下位からの指名選択順とすれば、日本ハムは矢澤宏太(日本体育大、投手兼野手)、広島・斉藤優汰(苫小牧中央高、投手)、巨人・浅野翔吾(高松商高、野手)、西武・蛭間拓哉(早稲田大、野手)、ソフトバンクがイヒネ・イツア(誉高、野手)に、オリックスが曽谷龍平(白鴎大、投手)と、いずれ劣らぬ逸材の名が挙がる。
上記の6選手は16日時点の確定で、今後の数日間でさらに、数球団が事前公表に踏み切る可能性もある。
こうなると、例年のように当日までどの球団が誰を1位指名するのか? 誰に何球団が競合するのか? と言った興味は薄れて来る。現時点の予想では巨人がいち早く手を上げた浅野選手に複数球団の重複も見込まれるが、それ以外に大きな波乱はなさそうだ。その因は“不作ドラフト”にある。
各球団のドラフト戦略は夏の終わりから本格化する。
社会人なら都市対抗大会、大学なら各地方のリーグ戦や全国大学選手権、高校では夏の甲子園大会の地方予選から本大会をチェックして、本番に向けた絞り込みが行われる。
チームごとに補強ポイントを確認、他球団の出方も検討したうえで、ドラフト当日に臨むわけだが、今年の特徴は図抜けた逸材が少ないこと。ある球団のスカウトは「1位指名確実の12人をリストアップするのも難しい」と嘆いた。
それが早くからの1位指名公表につながった。スカウト心理からすれば、今年の場合、複数で競合して抽選に敗れた場合は「替え」が効かないのだ。したがって、早めに名前を公表すれば、他球団は敬遠してくる確率も高くなる。それほどまでに大物不足が現状である。
だが、ドラフトは1位選手だけがすべてではない。むしろ、こうした年ほど2巡目以降の球団の戦略とスカウトの「眼力」が問われてくる。
一例として、今季両リーグを連覇したヤクルトとオリックスのレギュラーたちのドラフト指名順を調べてみた。
<ヤクルト>
塩見 社 17年④
山崎 大 15年⑤
山田 高 10年①
村上 高 17年①
オスナ ―――
中村 高 08年③
サンタナ ―――
長岡 高 19年⑤
小川 大 12年②
<オリックス>
福田 社 17年③
宗 高 14年②
中川圭 大 18年⑦
吉田正 大 15年①
杉本 社 15年⑩
安達 社 11年①
紅林 高 19年②
若月 高 13年③
山本 高 16年④
※日本シリーズ第1戦先発予想(神宮、DHなし)
氏名の後は、社が社会人、大が大学、高は高校出身。次にドラフト年度と順位。
まず、驚くのはオリックスの杉本、中川圭太の指名順位だろう。いずれもドラフト会議の最終盤になって名前を呼ばれた選手がクリーンアップを打っているのだから、上位指名ばかりが活躍するわけではない。
今や日本一の大エース・山本由伸もドラフト4位指名。名スカウトは各選手の現状だけでなく、細部にわたっての調査を怠らない。両親や兄弟の骨格から将来、体力面で大きくなっていくのかまで調べ上げるのは当たり前。日頃の練習態度だけでなく、日常生活から性格面もチェックしていく。
こうした細やかな観察とプロ入り後の育成、さらには本人の努力によって花開く。まさに担当スカウトの慧眼と言うべきだろう。
ヤクルトでは山田、村上と言った主軸打者はドラ1組だが、前後を固める日本人野手には塩見が4位、山崎と長岡が5位と下位指名が目立つ。
一般的にドラフトでは投手の上位指名が多く、野手の場合は一部の逸材を除いて下位指名となるケースが目立つが、ヤクルトの育成力もまた、チーム強化を支えている。
さらに近年は育成枠から伸びて来る選手も多い。オリックスなら今季、中継ぎとしてブレークした2年目の宇田川優希投手(仙台大)が代表例だ。千賀滉大や甲斐拓也らを輩出するソフトバンクの育成出身は、もう珍しくない。同チームでは来季から4軍の創設に着手すると言う。球界全体も若返りが進み、育成の時代だ。
毎年ドラフトでは、育成も含めて100人以上の選手がプロの世界に飛び込んでくる。当初の注目度ではドラフト1位組に譲っても、雑草のように這い上がって来る選手もたくさんいる。
“不作”と呼ばれる年ほどスカウトの底力が問われる。いざ、勝負の時である。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)