国立大に注目株が
今年は20日(木)に開催される『プロ野球ドラフト会議 supported by リポビタンD』。
徐々にドラフト関連の話題が増えはじめると、注目選手とともに“隠し玉”も取り上げられるようになってくる。
そこで注目したいのが、今年は国立大学にプロ志望選手が多いということ。
京都大の水口創太は194センチの長身から投げ下ろす最速152キロのストレートが武器の本格派で、名古屋大の本田健悟は最速151キロを誇る投手だ。また、野手では東京大の外野手・阿久津怜生が今秋のリーグ戦で2本塁打を放ち、スカウト陣の評価を上げている。
一方、地方リーグを見ると、プロから密かに注目を集めている国立大学の投手がいる。それが香川大の平岡佑梧だ。
▼ 平岡佑梧(香川大)
・投手
・178センチ/81キロ
・右投右打
・津名
<主な球種と球速帯>
ストレート:140~147キロ
スライダー(大小2種類):120~126キロ
カットボール:128~132キロ
パーム:120~122キロ
小学生時代は柔道…東京五輪金メダリスト阿部詩と対戦も
平岡は兵庫県の淡路市の出身。父親は野球をしていたというが、平岡本人が本格的に野球を始めたのは中学1年の時からと、他のドラフト候補と比べると遅いといえる。
小学校時代は、野球ではなく別のスポーツでオリンピックを目指していたという。
「小学校の時はずっと柔道をやっていて、5年生の時には県で3位にもなりました。本気でオリンピックを目指していて、阿部詩選手(東京五輪・柔道女子52キロ級で金メダル)と試合したこともあります。阿部選手は当時から目つきが違いましたね。中学校でも柔道を続けるつもりだったのですが、進学する予定だった学校の柔道の先生が、他校に異動になってしまったこともあって、野球部に入ることにしました」(平岡)
中学卒業後は、淡路市内にある兵庫県立津名高校に進学。2年秋からは主戦投手となった。
3年夏にはチームは4回戦で社に敗れたものの、3回戦の夢前戦では被安打2、1失点で完投勝利と見事なピッチングを見せている。
津名のOBには現在オリックスで中継ぎ投手としてプレーしている村西良太がおり、また練習試合では創志学園で1学年下の西純矢(現・阪神)と対戦したこともあって、平岡自身もプロへの思いを強くしていったという。
なぜ、私立の強豪ではなく香川大を選んだのか
プロ入りを目指すならば、大学は私立の強豪校へ進むという考えも当然あるだろう。
だが、平岡はあえて国立の香川大を進学先に選んだ。
「(プロを目指した理由として)村西さんの存在は大きかったですね。高校にも練習にいらしていて、自分と同じサイドスローのピッチャーですし、参考にさせていただきました。(阪神の)西選手は1学年下でしたけど、当時から凄いピッチャーで、これくらいやればプロに行けるんだという目安になったと思います」
「私立で野球という選択肢もあったのですが、小学校の頃から塾に行って、勉強もしっかりしてきたので、それを無駄にするのはもったいないと考え、国立大からプロを目指すことにしました。香川大には野球専用のグラウンドがなくて、環境的に厳しかったですし、1人暮らしの自炊が大変で、最初は体重が減ってしまいました。大学2年までは、SNSなどを参考にいろいろなトレーニングをやっていたのですが、それに限界を感じて、今は週1で神戸のトレーナーさんのところに通っています。その効果もあり、体やボールの質が変わってきました。交通費がかかり、経済的に大変なので、神戸に行った先で、単発のアルバイトをしています」
大学1年の春から、いきなりリーグ戦でデビューした平岡。なかなか勝てない時期もあったとのことだが、着実に力をつけて、今年春には最速147キロをマークしている。
取材当日、ブルペンでのピッチングを見せてもらった。リーグの入替戦を4日後に控えている調整登板ながら、筆者のスピードガンで球速を計測したところ、最速142キロをマークし、コンスタントに140キロを超えていた。
“汚い回転”の球筋が大きな武器
そのスピード以上に平岡の大きな武器となっているのが、『ボールの見づらいフォーム』と『“汚い回転”の球筋』、そして『体の強さ』だという。
「中学校の途中までは外野で、3年生からピッチャーになったのですが、最初からサイドスローの方が投げやすくて、ずっとこのフォームです。160キロを投げられるような力はないので、意識しているのは、ストレートでも微妙に変化させることですね。キャッチャーは捕りづらいと思いますけど、その分バッターも打ちづらいと思うので。この春は、おそらく全国の大学生のなかで最も登板した回数が多かったと思うぐらいよく投げましたが、どこも痛めなかったです。体が強いのは武器だと思っています。小学校の頃に柔道をやっていて、柔軟などにしっかり取り組んでいたことが良かったのかもしれません」
平岡が語るように、今年の春はリーグ戦とその後の入替戦を合わせて、約2カ月の間に12試合・84回を投げている。
東都の一部リーグでフル回転し、その後の大学選手権で優勝を果たした青山美夏人(亜細亜大)でも、この春の登板は11試合・77回1/3だ。これらの数字を比較すると、いかに平岡が多くのイニングを投げたかがよく分かる。
プロのスカウトにも、変則的なフォームから投げ込むボールの評判が伝わり、9球団が視察に訪れているという。
平岡自身はドラフト指名への手応えは分からないとのことだが、仮に指名がなくても、プロへのチャレンジは続ける予定とのことだ。
その一方で、将来のことも考えて教員免許を取得。昨年秋には一般企業への就職活動も行うなど、いわゆる“普通の大学生”としての生活も送っているという。
「ドラフト指名がなかった場合は、独立リーグで野球を続けて、またプロへチャレンジをしようと思っています。教員免許は先々自分の経験を指導者として伝えたいという思いがあって、取得していました。教育実習に行きながら、リーグ戦で投げていたので、今年は大変でした。こういう環境でも、レベルアップができたのは自信になりましたし、まだまだ成長できると思っています」
恵まれた環境で一心不乱に野球に取り組むのも、もちろん効率が良いことは確かだが、アルバイトや教育委実習といった一般的な大学生として生活を送りながら、最高峰のプロ野球を目指す。これも非常に価値が高いのではないだろうか。
こうした環境で力をつけてきた平岡だけに、野球に専念すれば成長スピードが加速することが期待できそうだ。
☆記事提供:プロアマ野球研究所