白球つれづれ2022~第43回・チーム作りの視点から見たヤクルトとオリックスの共通項
3時間48分と、5時間3分。今年の日本シリーズも期待に違わぬ熱戦を繰り広げている。2戦合計で9時間近い攻防はスリリングな展開の連続で、見ている者を飽きさせない。ヤクルトとオリックス。両軍選手は、よっぽど野球が好きなようだ。
若き三冠王、ヤクルトの村上宗隆VS投手四冠の山本由伸の黄金対決に注目の集まった今シリーズだが、第1戦で先発した山本は5回途中に左わき腹に違和感を訴えて、まさかの緊急降板。対する村上も初戦で一発こそ放ったものの、その後は徹底マークにあって怪物の姿には程遠い。
オリックスの主砲・吉田正尚も申告敬遠されるケースが目立つ。短期決戦では看板選手よりも、その前後を固める脇役や、意外なヒーローの誕生が流れを変える事が多い。
2年連続の対決となった両チーム。まだ勝敗の帰趨は予断を許さないが、ともかく接戦の連続なのが興味深い。
昨年は4勝2敗でヤクルトが日本一、今年は2戦を終了した時点でヤクルトの1勝1分けだが、計8戦すべてが2点差以内のクロスゲームが続いている。
今年のチームで見れば、“打”のヤクルトと“投”のオリックスと色分け出来るが、それでいて大差がつかないのは、なぜなのか?
実はヤクルト・高津臣吾、オリックス・中嶋聡両監督のチーム作りが非常に似ている。言ってみれば“似た者同士”のシリーズと言っていいかも知れない。
延長12回引き分けで終わった第2戦のヒーローは9回に起死回生の代打同点3ランを放ったヤクルトの内山壮真選手である。弱冠二十歳の初打席本塁打はシリーズの最年少記録を塗り替える離れ業だ。
若手を大胆に使う育成策
この場面を振り返ると二つの大きなポイントがある。
一つは9番で途中出場していた宮本丈選手の存在。今季は不振の山田哲人選手に変わって3番も任された成長株は9球粘って右中間二塁打を放つ。このしぶとさが塩見泰隆選手の四球につながり、内山の同点弾を呼び込んだ。
二つ目は、この重大場面で内山にすべてを託した指揮官の腹の据わり方である。確かに青木宣親、川端慎吾選手ら代打の切り札は使い切っている。それでも無死一・二塁で後続はクリーンアップ。戦術のひとつとしては送りバントや右方向への進塁打と言う策もあったはずだ。しかし、高津監督は内山にすべてを託した。
「一年間、試合に出させていただいた経験が、今日の1打席に詰まっていたかなと思います」と語ったヒーローは高卒2年目。レギュラー捕手の中村悠平選手が故障で開幕に出遅れると、チームはこの“未完のホープ”に一軍切符を与えている。多少の失敗には目をつぶってでも、育成に心を配るチーム作りが大一番で光った。
「(彼は)配球を読んで打席に立つし、思い切りがいい」とは試合後の監督談だが、宮本のしぶとさと、内山の勝負強さに加えて、若手を信頼して使い切る高津流の神髄が見える。
「いやらしい」脇役陣と、若手を大胆に使う育成策は中嶋監督にも共通する。
第2戦で一番に先発起用した安達了一選手はファウルで粘りながら、2安打1四球。途中出場の西野真弘、小田裕也選手らも自分の役割を心得ている。
今季のオリックスのもう一つの特徴は中継ぎ投手陣の強化にある。
先発から配置転換された山﨑颯一郎を筆頭に、育成出身の宇田川優希や本田仁海、阿部翔太ら150キロ超の快速球投手がズラリ。第2戦では阿部が抑えに失敗したが、守護神・平野佳寿に代わる適任探しは続いている。これらも名前と実績だけにこだわらない2軍監督出身らしい思い切りのいい用兵と言えるだろう。
このシリーズと同時期に巨人は23日、梶谷隆幸、髙橋優貴、中川皓太、平内龍太ら大量11選手の自由契約を発表した。多くは故障者で来季は育成契約を結ぶ方針だと言われる。しかし、一方ではFAやトレードで選手獲得のために支配下枠を空けたのでは? とも指摘される。
ペナント奪回のために、なりふり構わず戦力補強に励むのも一理ある。だが、4番やエース候補だけを集めても強い集団にはならない。
機動力でかき回す。生きのいい若手を辛抱強く育てる。現代野球で重要性を増す中継ぎ投手陣の整備に、ここ一番できっちりと役割を果たせる脇役たちがいて、チーム全体が機能する。
ヤクルトとオリックスのシリーズをチーム作りの視点から見ても、学ぶべき点は多いはずだ。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)