最終回:立浪監督が今オフに「真逆のカード」を切り続ける理由
監督とは因果な商売である。
23日、日本中を熱狂させたサッカーW杯では日本が強豪のドイツを撃破。森保一監督の采配に賛辞が送られた。しかし、アジア地区予選で連敗スタート時には更迭論が報じられ、批判の矢面に立たされたのも記憶に新しい。
野球界なら2年連続でセリーグを連覇したヤクルト・高津臣吾監督でさえ、日本シリーズでオリックスに敗れると悔し涙を流している。最後に勝った者だけが勝者。ましてや、最下位に沈んだ指揮官の悔しさは計り知れない。
中日の立浪和義監督がチーム再建に向けて、激しく動き回っている。
シーズン終了直後に、かつては主力だった平田良介選手や、今季クリーンアップも任せたアリエル・マルティネス選手らに退団通告。
今月に入ると内野の要である阿部寿樹選手を放出して、楽天から涌井秀章投手を獲得すると、わずか3日後には17年の新人王である京田陽太選手とDeNA・砂田毅樹投手の交換トレードが発表されている。
いずれも中日側から仕掛けたトレードだと言われているが、ファンも含めてなぜ、最大のウィークポイントである打線を弱体化させてまで、投手を獲得に動いたのか、が解せない。「立浪は一体何を考えているのか?」と指揮官への風当たりはシーズン中以上に強まっている。
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■2021年
55勝73敗16分⑤
打率 .237⑥
本塁打 69⑥
防御率 3.22①
■2022年
66勝75敗2分⑥
打率 .247④
本塁打 62⑥
防御率 3.28①
※○内の数字はリーグ順位
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これが与田剛前監督最終年の昨年と立浪新監督を迎えた今季の成績比較となる。チーム打率はわずかに上向いたが、依然として“投高打低”は一目瞭然だ。
チーム本塁打に至ってはヤクルトと112本差、得点でも同じく200点以上の差がある。これではリーグ屈指の投手力を誇っても立ち行かない。誰の目から見ても打線の大幅強化は喫緊の課題であるはずだ。
信念を曲げないチーム作りと守り勝つ野球
では、なぜ立浪監督は「真逆のカード」を切り続けるのか?
本人の口から真意が語られない以上、憶測の域を出ないが、やはり勝利への哲学が見え隠れする。
高校球界を席巻したPL学園から中日入りすると、星野仙一元監督に素質を見出されて、1年目からレギュラーの座を手にしている。その後も俊足巧打の内野手として球界を代表する選手に成長。晩年は落合博満監督の下で控えに甘んじる期間もあったが、星野、落合両監督時代の信念を曲げないチーム作りと、ディフェンスを前面に出した守り勝つ野球がバックボーンにあるのだろう。
覇気を感じない京田をシーズン中、強制的に2軍送りにしたり、自身が打撃再建のために招請した中村紀洋コーチを突如、配置転換したりと強権的な管理術には一部から疑問の声も上がっていた。
今の時代はワンマンより、対話型の指揮官が主流になりつつある。それでもかつて「ミスタードラゴンズ」と呼ばれた立浪監督には劇的な改革でチームを再建すると言う強固な信念があるはずだ。
今月中旬には自らドミニカ共和国に足を運んで新外国人選手の獲得にあたった。その結果、ソイロ・アルモンテとオルランド・カリステ両選手の入団にこぎつけた。3年ぶり中日復帰となるアルモンテは18年に打率.321を残した左右両打ちの外野手で、カリステは内外野どこでも守れる万能選手の触れ込み。さらに新たな大砲も獲得に動いている。
ドラフトでは2位指名の村松開人選手(明大)以下、7人中4人の即戦力内野手を獲得。大幅な血の入れ替えで新シーズンに挑む。阿部や京田の抜けた穴は若手の底上げと、助っ人のパワーでレベルアップを図る算段だ。そこに投手陣をより強固にすることで守り勝つ野球の完成度も上がる。
『嫌われた監督』と言うベストセラーが話題を呼んだ。元ドラゴンズ番記者である鈴木忠平氏が落合監督時代、いかにしてチームを強くしていったか。その内実を綴った名著は今年、大宅壮一ノンフィクション賞も受賞している。
8年にわたる中日監督時に、すべてAクラス、うち4度のリーグ優勝と一度の日本一を果たした落合の“オレ流”管理術も就任当初は批判にさらされた。それでも実績を積み上げることで名将の座を手に入れている。
さて、立浪が落合流の「嫌われた監督」になるのか? 少なくとも来季、Aクラスの実績は残したい。
激動のオフからキャンプの新スタートまで、残された時間は短い。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)