第38回:若手の底上げでリーグ3連覇へ
「また来年どういう形で2月1日に入ってくるか楽しみですね」
ヤクルトの松元ユウイチ作戦コーチが、秋季キャンプで期待を込めて話したのが、将来のレギュラー候補である、捕手の内山壮真と外野手の丸山和郁だ。彼らは今季、一軍の舞台で輝きを放った。
内山壮はコロナ感染で離脱してしまった以外は1年間一軍に帯同し、57試合でマスクを被った。打撃でも勝負強さを発揮し、得点圏打率は.278をマーク。3割を超えることもあった。
内山壮はシーズン中「得点圏はいろいろ自分で勝負を仕掛けにいったりして、いい結果につながっている」と話していただけに、日本シリーズ第2戦の9回に放った代打同点3ランは、その言葉通りの一発となった。
丸山和も途中出場がメインながら攻守に貢献。9月25日にはリーグ優勝を決めるサヨナラ打も放つなど、来季へさらなる飛躍を感じさせる1年だった。
松元コーチは「僕も含めてコーチ陣が、できるだけいいアドバイスとか、本人たちにはひとつでもふたつでも引き出しを増やせるアドバイスをしていきたい」と、目を輝かせた。
そんなコーチの“親心”に応えるためにも、来季さらに成長した姿を見せることが必要だ。
ヤクルトはリーグ3連覇、日本一奪回へ向けて、若手の底上げを図っていく。松元コーチは打線のつながりをポイントに挙げていたが、リードオフマンである塩見泰隆の後を打つ2番打者は、クリーンアップへの重要なつなぎ役を担うことになる。
松元コーチは「2番はいやらしさがあるバッター。ちょっと贅沢ですけど、長打を打てるバッター」と理想を掲げ、その中でも「一番思っているのが出塁率の高いバッターを置いておきたいイメージがあります」と話した。そこに新たな若手の台頭はあるだろうか。
「(若い選手は)振れる力が非常にレベルアップしている。僕の中では楽しみ。元山(飛優)は去年ずっと一軍で経験して(今年の)悔しさがあると思う。すごく頑張っているし、アピールしている。武岡(龍世)も走塁面、守備面、攻撃面でもすごく成長している。センターラインはその2人がいるだけで、長岡(秀樹)ものんびりできないと思う」
生存競争が激化…背番号6元山には危機感も
若手の生存競争は激化している。昨季は遊撃で77試合に出場した元山は、長岡の台頭で今季はわずか3試合の出場に終わった。元山は秋季キャンプでの取り組み方について、こう明かしてくれた。
「プレー全体的に力強さが今までなかったので、力強さを意識してやっています。打球を飛ばす、強く振る、強く投げるもそうですし、(走塁面で)一歩目のスタートも強く踏み込むとか、強くというのを意識しています」
キャンプ中のロングティーでは、逆方向へも強い打球を放っていた。「(10月の)フェニックスリーグで宮出コーチ、畠山コーチと、逆方向へ強い打球が打てるようにというのを3週間みっちり取り組んできた」と、成果を実感している様子だった。
「今年は入りが悪くて自分の管理不足だった。オフシーズンの過ごし方というのをいま考えている。しっかり体をつくって、(来年)2月のキャンプで100%の状態で入れるようにやっていこうと思っています」
来季の目標については「来年は全部一軍にいることと、今年、長岡がほぼ1年間ショートで出ましたけど、来年は僕がそうなりたいと思っています」と、その言葉から並々ならぬ決意を感じた。
高津臣吾監督はそんな元山について「1年目頑張って、今年に懸ける思いも強かったでしょうけど、ケガでちょっと出遅れてそれが1年響いた2022年だと思う」と話したあと、こう続けた。
「競争なのでプロなので、やっぱり結果が求められるところで結果がなかなか出せないと、次から次へ新しい人が入ってきてというところで、多少の危機感も感じてくれればいいなと思っています。のんびりしている暇はないですからね」
これは、すべての若手選手に共通した激励の言葉にも聞こえる。
7月に育成から支配下契約を勝ち取った赤羽由紘もそのひとりだ。赤羽は、内外野どこでも守れる武器を生かして一軍定着を狙う。打撃面では「下半身の土台をしっかりつくってバッティングする」ことを念頭に秋季キャンプに臨んだ。
9月28日にはプロ初先発で初安打もマーク。ポストシーズンでもベンチ入りし「自分の中でもかなりいい経験ができた」と話し、さらなるレベルアップを図って、来年は「開幕一軍を目指してやっていきたい」と意気込む。
球団初のリーグ3連覇、そして、今年あと少しで届かなかった日本一の座を奪い返すためにも、若手が競い合い、高め合うことが必要だ。熾烈なサバイバルの先に、栄光が見えてくるに違いない。
取材・文=別府勉(べっぷ・つとむ)