野球ゲームの移り変わりから見るプロ野球史~第18回:日米間プロ野球 FINAL LEAGUE
2000年代前半はプロ野球、いやプロ野球ゲームの危機だった。
イチロー(オリックス)、新庄剛志(阪神)、松井秀喜(巨人)、松井稼頭央(西武)といった野手のスーパースターたちが続々と海を渡りメジャーへ移籍。それは同時に国内を舞台にしたプロ野球ゲームから、看板選手の彼らがいなくなることを意味していた。
『メジャーリーグベースボール トリプルプレイ2002』の日本版メインビジュアルには、マリナーズのイチローや佐々木主浩、ドジャースの野茂英雄や石井一久ら日本人選手が集結。『MLB2003』の国内版ジャケットには、ヤンキースのピンストライプ姿の松井秀喜が登場した。
結果的にあの頃のプロ野球ゲームは、急増するサッカーゲームだけでなく、メジャーリーグゲームとも戦うハメになった。2000年代初頭、中邑真輔はプロレスラー同士が総合格闘技で戦うことをレスラーの“共食い”と表現したが、国内野球ゲーム市場もまさに日米“共食い”状態だったのである。
そんな冬の時代の真っ只中、2002年4月25日。ならば日米球界の夢の架け橋になろうと一本のソフトが世に出る。プレステ2の『日米間プロ野球 FINAL LEAGUE』(スクウェア)である。
「究極のドリームチームを創るのは。キミ自身だ!」
同日には日韓W杯人気で販売100万本を突破する『ワールドサッカー ウイニングイレブン6』(コナミ)も発売。
なお、プレステ2ではその1週間後の5月2日に『2002 FIFAワールドカップ』(エレクトロニック・アーツ・スクウェア)、5月16日には『実況ワールドサッカー 2002』(コナミデジタルエンタテインメント)が立て続けにリリースされ、ついでに『週刊プレイボーイ』の表紙は日本代表のブルー特別仕様で白石美帆が飾り、世間もゲーム業界も開幕直前の自国開催のW杯一色だった。
……ってあれ? 当時ウイイレ6を発売日に店頭へ買いに行ったら『日米間プロ野球』のパッケージを発見して、妙な違和感を覚えた。
3年前にスクウェアが出した『劇空間プロ野球』の進化系かと思ったら、JPBPA(日本プロ野球選手会)やMLBの公式マークはあるものの、肝心のNPBマークがどこにもない。
裏面を確認すると、「究極のドリームチームを創るのは。キミ自身だ!」「日本プロ野球+大リーグ真・夢の球宴、此処に開幕!」なんて勢いはいいけど、よく意味が分からないぼんやりしたキャッチコピーが並んでいる。あらためて、説明を読むとこうだ。
「日米の国境を越えたオールスター戦はもちろん、オープン戦ではプレイヤーの作成したチーム同士での対戦まで楽しめる! 更に、シーズンを通して戦うリーグ戦では、獲得したポイントを使い、フリー選手の獲得・交換トレード・指名トレードなど、様々なトレードでチーム強化も可能! キミだけの「究極のドリームチーム」を目指し、ファイナルリーグを戦い抜け!」
……いやゴメン、ファイナルリーグって何?
店頭試遊台はウイイレ一色で、プレイして確かめるわけにもいかない。とりあえず後日、定価6800円よりかなり値下げされてから購入して、遊んでみると驚愕した。
ゲームを始めると10-FEETの軽快なBGMに乗って、唐突にオリジナルチーム作成画面へ。オート設定にすれば選手も自動で選んでくれるが、愛知イーグルスがマイチームに決定。佐賀シャークス、岡山コンドルズ、福島タイタンズといった面々とリーグ戦を争う。つまり、プレイヤーは何の思い入れもない架空チームを操作し、聞いたこともないチームと戦い続けるわけだ。
当時はコナミがNPBから球団・選手名含む知的財産権を独占取得しており、スクウェアは苦肉の策として球団ではなくプロ野球選手会から許諾を取った。
つまり、選手は実名で使用できるものの球団名を使えず、かといって昔のファミコン時代のように元ネタが分かる「ガイアンツ」とか「ライオネルズ」のパロディでお茶を濁すわけにもいかず、まったくの架空チームで戦う設定にせざるをえなかったのだ。
球場もモデルは判別できたが、グリーンパークにサンダードーム、メトロスタジアムと偽名13球場を用意。あらゆるものがフェイクでリネームも不可という厳しい設定である。
そんなゲームの弱点をカバーすべく、集められた「実況クリス・ペプラー、解説陣にダンカン&林家ペー、伊集院光&松村邦洋、浅草キッド」という異色の面々。力を入れるところが間違っている気がしないでもないが、とにかく彼らは試合中によく喋った。
「(三者凡退に終わりました)いやーいいテンポがでてきましたねぇ。さすがだなあ、フランクフルトかなあ。今月も新しい店舗いってきますよ」的な浅草キッドの兼ね合いに、「東京ドームの完成のためその目的を終了し取り壊された球場はどこ?」という試合の流れ無視の伊集院の野球クイズ。
「1985年6月15日、阪神の木戸が1試合3本塁打を放ちました」とか「1976年、満塁を舞台に天国と地獄を味わった選手がいます。6月8日、巨人末次は9回満塁サヨナラホームランを打ち、その91日後の9月7日逆転満塁大落球を演じてしまいました」なんて隙あらば阪神&球界トリビアをかます松村邦洋とダンカン。
「(打線に火がつかない?)ついちゃいましたよ。1950年7月2日、京都の金閣寺が全焼しちゃったんですよ~」と1秒も笑えない時事ネタジョークをぶっこむ林家ペー。
台詞が多く全員早口で聞き取りにくいが、とにかく情報量で勝負する。さらに草野球最強のたけし軍団メンバーの登場とネタゲー扱いされがちな本作だが、大きなウリもある。メジャーリーグの一部スター選手を実名で収録しているため、JAPAN対USAの「2002年ガチンコ日米対抗戦」をプレイできるのである。
夢の「ガチンコ日米対抗戦」
全米チームの先発は野茂、捕手はマイク・ピアッツァ。外野を守るのはイチロー、新庄、田口壮といった面々。指名打者には全盛期のバリー・ボンズだ。
日本はプロ野球連合なので、ロベルト・ペタジーニやオルガ夫人……じゃなくて前年55本塁打を記録したタフィ・ローズもジャパン入り。
実際に2002年の秋、西武のアレックス・カブレラが日米野球の日本チームに参加して特大アーチを放ち話題となったが、それをこのゲームが先取りしていたのである。
現役生活の最後までWBCには参加できなかった松井秀喜も、ジャパンの4番を打っている(赤いユニフォームは晩年のエンゼルス風)。
まだオールプロの代表チームにリアリティがない時代、架空のNPB日本人選手組だけの02年版侍ジャパンを作るのもよし。若きエース松坂大輔(西武)でボンズ、サミー・ソーサ、アレックス・ロドリゲスのド迫力クリーンナップに挑むのもまたオススメだ。
▼ 野茂vs.ローズの"元近鉄"日米対決も
ゲーム中の選手の顔は……置いといて各選手のフォームの特徴はさすがスクウェアという表現力だし、音楽含めた効果音のクオリティも当時から評価は高かった。ホームランを放った瞬間のミート音や演出は快感で、死球がヘルメットに直撃した時のポコンという間の抜けた音も再現性が高い。
一方で、解説陣のしゃべりすぎで試合時間が異様に長いため友人との対戦には向かず、守備操作の難しさは野球ゲーム史上でもワーストクラスの凶悪な操作性なので、久々に遊ぶ場合はまずはオート設定にするのが無難だろう。
USAユニフォームのイチローに新時代を感じ、ジャパンの幻の4番松井に時の涙を見る。贔屓球団を使えないどころか、存在しない無理ゲー。どうする、どうなる俺らのプロ野球?その先には球界再編待ったなしだ。
『日米間プロ野球 FINAL LEAGUE』は2002年の野球ゲーム事情だけでなく、当時の混迷した球界事情が凝縮した1本なのである。
文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)