今オフも注目
西武は19日に張奕投手(28)の入団を発表。オリックスへFA移籍した森友哉の人的補償として、右のパワーピッチャーを補強した。
さらに今オフは日本ハムの近藤健介がソフトバンクと大型契約を結んでFA移籍をしており、日本ハムサイドは提示されたプロテクトリストをチェックしながら補償について熟考しているという。
過去には、来季から巨人に復帰する長野久義がプロテクトから外れて移籍しているように、実績十分のベテランがあっと驚く移籍をすることもあるのが“人的補償”という制度。特にソフトバンクは層の厚いチームだけに、サプライズがあっても不思議ではない。
当事者にとっては青天の霹靂ではあるが、新天地でチャンスを掴み、見事に花開いた選手も多いことからもわかるように、人的補償選手の野球人生は、FA移籍以上にドラマチックである。今回はそんな過去のFA人的補償における大成功例を振り返ってみたい。
「ギッタンギッタンにして見返してやりますよ」
移籍初年度の人的補償の投手として最多の7勝を挙げたのが、2002年に近鉄からオリックスに移籍したユウキ(本名・田中祐貴)だ。
近鉄入団2年目には5勝を挙げたが、チームが優勝した2001年は二軍暮らしが長くなり、オフに加藤伸一の人的補償としてチームを出ることに。
「(近鉄を)ボロボロのギッタンギッタンにして見返してやりますよ」とリベンジを誓ったユウキは、2002年8月16日のダイエー戦から古巣・近鉄戦も含めて7連勝を記録。うち6勝が土曜だったことから、“サタデー・ユウキ”の異名もとった。
ユウキをプロテクトしなかった近鉄は、さぞかし後悔したことだろう。
福地寿樹は初タイトルを獲得!
32歳で人的補償選手になり、そこから移籍先で初タイトルを獲得したのが福地寿樹だ。
広島時代は4年連続で2ケタ盗塁を記録しながらも、レギュラーに届かなかった福地。西武移籍後も2年連続で20盗塁以上をマークしたが、レギュラーまではあと一歩だった。
そんな矢先の2007年オフ、石井一久の人的補償としてヤクルトへの電撃移籍が決まる。
これほどの選手がプロテクト漏れしていたのは不思議だが、同年28盗塁を成功させた福地の足に惚れ込んだヤクルト・高田繁監督のたっての希望で、3球団目のユニホームを着ることに。
また、アレックス・ラミレスが巨人に移籍して外野のポジションが空いていたことも追い風となり、2008年はプロ15年目ながら1番打者として初めて規定打席に到達。打率.320、9本塁打、61打点で42盗塁と自己最高の成績を残し、初の盗塁王に輝いた。
翌年も42盗塁で2年連続のタイトルを獲得。人的補償は、遅咲きの選手にとっても大きなチャンスであることを証明した。
また、福地と同じ2008年に新井貴浩の人的補償として広島に移籍した赤松真人も、阪神時代の3年間は通算出場が36試合にとどまったが、広島移籍1年目にプロ1号を記録するなど125試合に出場。
2009年にはオールスター初出場と5年目で規定打席到達を実現。移籍が野球人生を大きく切り開いた。
成功例多い“元巨人”
FA市場といえば、かつては巨人の独壇場。多くの有力選手を獲得してきた一方で、その裏には人的補償としてチームを去った選手もいた。
2006年に野口茂樹の人的補償で中日に移籍したのが、捕手の小田幸平。中日でも谷繁元信の控え捕手だったため、巨人時代同様、出番は多くなかったが、明るいキャラクターでチームの盛り上げ役となり、17年間の長きにわたって現役を続けた。
現在も中日で二軍バッテリーコーチを務める小田は「今でも『人的補償?あぁ、オレのことね』と思ってます」と自負するほど、自らの運命を劇的に変えた移籍に感謝している。
また、2014年に大竹寛の人的補償で広島に移籍した一岡竜司は、貴重な中継ぎとして2017と2018年にいずれも59試合に登板するなど、チームのV3に貢献。
さらに2017年に山口俊の人的補償で巨人からDeNAに移籍した平良拳太郎も、2018年から3年連続で先発ローテ入りを果たし、2020年には規定投球回数未満ながら防御率2.27を記録している。
楽天からロッテに移籍…セットアッパーとして開花
近年では、2020年に鈴木大地の人的補償で楽天からロッテに移籍した小野郁が3年連続40試合以上に登板。セットアッパーとして素質を開花させた。
西日本短大付時代は最速153キロ右腕と注目され、2015年にドラフト2位で楽天入りした小野。二軍では2年連続セーブ王に輝いたが、一軍の壁は厚く、自己最多の13試合に登板した2019年も18回2/3を投げ、自責点13の防御率6.27と結果を出せなかった。
だが、中継ぎ陣の補強を急務とするロッテに「若くて生きの良い投手を」と白羽の矢を立てられると、「期待をしてもらって(ロッテに)来られるのがうれしくて。(岩下大輝、小島和哉ら)同級生にいい投手も一杯いますので、負けないようにやっていきたい」と心機一転躍進を誓った。
1年目は6月26日のオリックス戦で2回を3奪三振の1失点に抑え、6年目のプロ初勝利を挙げると、40試合で2勝2敗4ホールドと貴重なリリーフに成長。
2021年も澤村拓一が抜けたあとのセットアッパーを任され、150キロ台の速球と光速スライダーを武器に49試合に登板。今季は44試合に登板し、18ホールドで防御率1.99と3年間で最高の成績を記録した。
さらに小野と同じ2020年に美馬学の人的補償でロッテから楽天に移籍した酒居知史も、昨季は54試合に登板して28ホールドを挙げるなど、主にセットアッパーしてチームを支えている。
小野と酒居の活躍により、楽天とロッテの両チームは、FA移籍選手・人的補償選手ともども実のある交換となった。来季もFA移籍選手はもちろんのこと、人的補償選手にも要注目だ。
文=久保田龍雄(くぼた・たつお)