コラム 2022.12.31. 07:08

野村克也に大野豊、栗山英樹も…「テスト生」から這い上がった名選手列伝

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侍ジャパンを率いる栗山監督も“元テスト生”

近年はレアケースも…?


 FAの近藤健介の獲得に加え、前ロッテのロベルト・オスナに前阪神のジョー・ガンケルといった大物を次々に獲得しているソフトバンク。今季ギリギリのところで競り負けて優勝を逃した悔しさを晴らすべく、積極的な動きが目立っている。

 そんな中、22日に入団が発表されたのがコートニー・ホーキンス。こちらはバリバリのメジャーリーガーではなく、アメリカの独立リーグで活躍を見せていた選手。今秋の宮崎秋季キャンプにテスト生として参加をし、アピールが実って契約を勝ち取った。


 近年はレアケースとなりつつあるが、かつてはテスト生から這い上がって球史に残る名選手まで登り詰めるという例も珍しくなかった。

 現在の育成選手制度もそうだが、そんな「大出世物語」もプロ野球の大きな魅力のひとつ。今回はファンの記憶に残る「テスト生出身選手」を振り返ってみたい。


“無名選手”がプロ入りを後押し


 現役時代にNPB歴代2位の通算657本塁打を記録し、監督として優勝5回・日本一3回を達成した野村克也も、実はテストから這い上がった名選手の一人だ。

 京都・峰山高時代は予選で1勝するのが精一杯で、華々しい実績とは無縁だった野村。1953年に、配達していた新聞の「テスト募集」の告知を見たことで、南海の入団テストを受けることになる(一説では、野球部長が全球団に手紙を書き、唯一夏の予選を見に来てくれた南海・鶴岡一人監督がテストを受けるよう指示したともいわれる)。


 11月23日に行われたテストには300人以上が参加したが、野村は自信のない遠投で第1投を失敗。第2投も失敗すれば不合格という崖っぷちで、たまたま球団スタッフとしてテストに立ち会っていた1年先輩の内野手・河知治が「もっと前から投げちゃえよ」とアドバイスした。

 合格したい一心で白線を5メートル踏み越えて投げると、ボールはなんとか合格ラインを越えた。この結果、野村は見事合格を勝ち取ったのだった。

 恩人にあたる河知は1週間後、南海の保留名簿から消え、野村と入れ替わりで退団(1955年は東映に在籍)。後の名将のプロ入りを“無名の二軍選手”が後押ししたというのは、不思議なめぐり合わせと言わざるを得ない。


信用組合からプロの世界へ


 テスト生出身ながら、同世代の江川卓や掛布雅之より早く野球殿堂入りをはたしたのが、広島の先発・抑えとして43歳まで現役を続けた大野豊だ。

 出雲商時代は島根県内でも屈指の好投手で、プロからも声がかかったが、力量と体力面で不安を感じたため、強豪社会人チームの誘いも断り、地元の出雲信用組合に就職した。

 だが、同社で軟式野球を続けていた1976年、高校時代に投げ合った1学年下のライバルが阪神にテスト入団したことを知ると、「ひょっとすると、自分も通用するかもしれない」とプロへの思いが一気に高まった。

 1977年初め、高校時代の監督を通じて広島・山本一義コーチに希望を伝えると、季節外れの2月中旬にもかかわらず、テストを受けさせてくれた。会社には辞表を出しての受験だったが、不合格の場合に備え、上司が辞表を預かってくれていたことを後に知ったというエピソードもある。

 高校時代から大野の素質を評価していた木庭教スカウトは、堅実な仕事に就いているのに、将来の保証のない世界に身を投じることを案じ、「一応採用の方向で考えているんだが、お前さん、信用組合で金を数えているほうが安全なんじゃないか?」と再考を促した。これに対して、大野は迷うことなく「よろしくお願いします」と答えた。


 1年目の一軍デビュー戦で5失点、防御率135.00の屈辱を味わったことをバネにした大野は、1978年に先発兼リリーフとして一軍定着。1988年と1997年に最優秀防御率、1991年には最優秀救援投手に輝くなど、通算148勝100敗138セーブを記録し、2013年にプレーヤー部門表彰で野球殿堂入りをはたした。

 ちなみに、前出の掛布もドラフト6位で阪神に入団しているが、ドラフト直前に甲子園で行われた二軍秋季キャンプでテストを受け、採用されたことで知られている。


「オレに預けてみてくれ」


 国立大からテスト入団し、後に監督として日本一を実現するという異色の経歴を持つのが栗山英樹だ。

 東京学芸大時代に全日本大学野球選手権に2年連続出場するなど、“投打二刀流”として活躍した栗山。「学校の先生」以外の職業は選択肢になかったというが、3年の秋ごろから「卒業後も野球を続けたい」と考えはじめた。

 自著「栗山英樹29歳 夢を追いかけて」(池田書店)によれば、1983年春の静岡キャンプ中、玉川大との練習試合で快打を連発し、たまたま息子の試合を見に来ていた佐々木信也氏に「君ならプロ野球でやっても面白いかもしれないね」と褒められたことがきっかけで、プロのテストを受けてみる気になったという。佐々木氏は冗談で言ったそうだが、これが運命の転機になった。


 業後の進路を野球一本に絞った栗山は、社会人・朝日生命のセレクションに合格したあと、「先生になるほうがいい」という両親の反対を押し切って、佐々木氏の紹介で西武とヤクルトのテストを受けた。

 西武は不合格。ヤクルトも「せっかくいい大学を出ているのだから、地道に就職したほうがいいんじゃないか?」(片岡宏雄スカウト)と1度は断られてしまう。

 だが、野球に真剣に取り組む姿勢を評価した内藤博文二軍監督が「ひょっとしたら、モノになるかもしれない。オレに預けてみてくれ」と周囲を説得し、再テストが決まる。

 2度目に合格をかち取った栗山は、1986年に一軍定着をはたしたあとも、「内藤さんがいたから、今の僕がある」と感謝の心を忘れなかった。

 現役引退後、2012年から日本ハムの監督を10年間務め、2016年に日本一を達成したのは、ご存じのとおりだ。


 近年では、DeNAのネフタリ・ソトもテスト入団を経て、2018・2019年と2年連続で本塁打王(2019年は打点王と二冠)を獲得。

 たった1度のチャンスを掴んで、努力の末、成功を収めた男たちに共感を覚えるファンも多いはずだ。


文=久保田龍雄(くぼた・たつお)

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