野球ゲームの移り変わりから見るプロ野球史~第19回:プロ野球スピリッツ2004 クライマックス
「忘れられないこのシーズン 本当のクライマックスはここにある」
慌ただしい年末の午後、レトロゲーム専門店のプレイステーション2ソフトの棚で、パッケージ裏にそんなコピーが書かれた野球ゲームを見つけた。コナミの『プロ野球スピリッツ2004 クライマックス』である。
「2004年度前半戦終了データ搭載」という説明を見て、感慨深かった。つまり本作は、あの“球界再編”のど真ん中に世に出たわけだ。
ちなみに、2004年9月16日のソフト発売2日後には、史上初のストライキ決行で試合中止となっている。もしかしたら、このゲームは12球団・2リーグ制が収録された最後のリアル系野球ゲームになった可能性すらあった。
球界の大混乱と巨人の“史上最強打線”
2004年シーズンは、6月13日に近鉄とオリックスが球団合併することで基本合意と報道されて以降は、もはやペナントレースどころではない大混乱へと発展してしまう。
もうひとつの合併計画を含む1リーグ制移行を進めるオーナー側と、なんとか12球団存続を願う選手会側。さらには当時ライブドアの堀江貴文が近鉄球団買収をぶち上げ参戦、7月には巨人のナベツネさんの「たかが選手が」というあの平成球史に残るパワーワードが紙面を飾るリアルとカオス。
当時の各雑誌の表紙を見ると、『Number』611号には「ガンバレ、ガンバレ、野球!」の見出し。04年9月の時点で「2005年からはセ6球団、パ5球団という少しいびつな形になりそうだ」という切実なキャプションに驚くし、『Sportiva』11月号にはデカデカと表紙全面に「野球を救え!」の文字が確認できる。
その混乱の中心にいるドン・ナベツネの存在。巨人選手会長の高橋由伸はのちに「なんで俺が会長の時に……」なんて愚痴り、野球ファンの集いでもG党は微妙に居心地が悪かったのは否めない。
そんな状況で現場を預かっていたのが、堀内恒夫監督だった。
開幕からナイター中継の視聴率低迷を問われ、「俺にどうしろというんだ」とキレたホリさん試練の1年。謎の「捕手・阿部慎之助を三塁コンバート」構想など迷走ぶりが半端ないが、同情の余地もあった。
「投手を中心とした守りの野球を目指す」という堀内新監督の言葉とは裏腹に、集められたのは本塁打王経験者と各チームの元4番打者。守備力無視の超重量打線は、04年にチーム本塁打259本の日本記録を樹立する。
そのケタ違いの破壊力に、ミスターこと長嶋茂雄は“史上最強打線”と名付けたが、セ・リーグは充実の投手力と堅守を誇る落合博満新監督率いる中日が初優勝。対照的に堀内巨人は、チーム防御率4.50と投壊して3位キープがやっとだった。
それにしても、この年の259発メンバーは凄まじい。打線の中心はタフィ・ローズと小久保裕紀の移籍組。ローズは45本塁打でホームラン王を獲得。小久保も41本塁打で、巨人の右打者として初めて40本に到達した。
生え抜きでは高橋由伸と阿部慎之助が3割・30本塁打をクリア。さらにヤクルトで本塁打王2回、打点王1回に輝いたペタジーニが時に6番に座り29本塁打。1番の仁志敏久も28本塁打。加えて2番に清水隆行と8番には二岡智宏がいる切れ目のないオーダーだった。
これに留まらず、ベンチには清原和博や江藤智といったスラッガーが控えているわけだ。まさに長嶋巨人時代から続いた、バランス度外視でひたすら大物を掻き集める補強のピークと限界がこの年だったように思う。
球史に残る259本塁打と90年代からミスターが追い求めた理想が現実になった。でも、巨人は勝てなかった。
堀内巨人でペナント制覇を目指せ!
そんな今となっては、グラウンド内外で“暗黒期”の巨人の象徴として振り返られる冬の時代だが、あれから18年が経ち、『プロ野球スピリッツ2004クライマックス』を手に取り、ふと思った。
もし、球界再編がなく通常のペナントだったらと仮定して、「このゲーム内で、04年の堀内巨人を優勝させることはできるだろうか?」と。
さっそく、レギュラーペナントモードで巨人を選び、プレイボールだ。
当初は基本的に日程オート進行ですぐ結果が出るはずと軽い気持ちでいたら、4月中旬の順位表を見ると、開幕直後から巨人は勝率5割を下回っている。
オーダーを確認すると、どういうわけかスタメン4番の一塁・清原をペタジーニと入れ替えでベンチに。代打の切り札・元木にいたっては隙あらば二軍降格だ。
いったいなぜ……と思ったら、当時の堀内監督と清原軍団の冷戦ぶりを思い出した。すげぇプロスピ、こんなところまでリアルに再現しているのか……と震えながら(恐らく偶然)、3連戦のカードごとに地道に手動でオーダー設定や選手登録・抹消を確認しながら進めることに。
このシーズン、エースはもちろん上原浩治(実際に最優秀防御率を獲得)。直球のノビ、制球力、テンポの良さとまさに全盛期の背番号19を体感できる。
通算200勝目前の42歳工藤公康(04年:10勝7敗)の投球フォームも激似。中継ぎはランデルにコーリー?抑えはシコースキーって懐かしい。名前を聞くと当時の記憶が一気に甦ってくる。
あの頃、就職したばかりでなかなかリアルタイムでナイターが見れなくてさ……なんつって、すべての野球狂にとってプロ野球はいつだって人生の時間軸でもある。
さて、史実と同じで、本作の巨人ブルペンも火の車。試合終盤に逆転負けのケースがやたらと目につく。野手陣はショートの二岡智宏が序盤に故障で長期離脱と、妙なリアルさが怖い。
さらにペナント中にもかかわらず、セ各球団から清原のトレード申し込みが相次ぐ。中日は関川浩一、広島は元ドラ1サウスポー・河内貴哉とそれぞれ1対1でオファーされるが、もちろん断る。
ホリさん、通算2000安打目前の番長とオルガ夫人目前のペタジーニの共存頼みます……。
崩壊ブルペンの意外な救世主とは?
早い段階で判明したのが、『プロ野球スピリッツ2004クライマックス』はオート進行にするとかなりの「打高投低」のゲームバランスになっている。さすがラビットボール最盛期、巨人のプロスピ史上最強打線もホームランを量産だ。
チーム防御率5点台ながらも、5月終了時点で26勝19敗1分のリーグ1位。3ゲーム差以内で中日、阪神、広島と熾烈な首位争いを繰り広げる。
3番のローズがリーグ30号一番乗り。4番・小久保も年間48発ペースで負けじと打ち続ける。しかし、投手陣は木佐貫洋が4月月間MVPを獲得するも、やはり救援陣が苦しい。気が付けば、岡島秀樹や林昌範も抹消をくり返している。
7月に入ると、7連敗もありBクラス転落。7月終了時では45勝39敗2分で、首位の広島と3ゲーム差ながらも4位に沈んだ。
だが、8月に入ると堀内監督も打ち勝つしかないと腹を決めたのか、ペタジーニを「6番・左翼」、清原は「7番・一塁」で固定。特大アーチを放った清原はベンチ前で懐かしすぎるハッスルポーズを連発。クリーンナップのあとに控える、“ペタキヨ”コンビのチャンスに滅法強い恐怖の下位打線は相手投手を震え上がらせた。
さらに夏場、ホリさんはブルペンの救世主としてひとりの若手サウスポーを抜擢する。ルーキーの内海哲也である。2022年限りで現役引退した男も当時22歳。背番号26が投げれば負けない神話ができる強運で、35試合4勝0敗1セーブ、防御率2.82と中継ぎとしてフル回転。8月終わりには1位カープに0.5差まで肉薄する。
優勝を左右する天王山は、9月14日からの広島市民球場(マツダスタジアム開場は5年後)でのCG三連戦。初戦を落とした巨人だったが、2戦目からの連勝でついに奪首に成功。しかし、直後に史実ではストライキで中止になったナゴヤドームの中日戦で、1番・高橋由伸が負傷してしまう。
30本塁打を放つトップバッター離脱後の10試合は4勝6敗。9月末の最後の広島3連戦も1勝2敗と負け越すなど、最終盤にまさかの失速で再び大混戦に。
それでも、なんとか2位・広島に0.5差をつけ、首位をキープしたまま迎えたシーズン最終戦。10月1日、神宮球場のヤクルト戦で阿部慎之助が39号・40号の連発で快勝。140試合目で歓喜の堀内巨人V1達成だ。
さあ胴上げ!と思ったら、堀内監督を持ち上げる選手が5人くらいしかいねぇ。やはり確執が……じゃなくて、令和の4K時代には違和感しかないプレステ2の表現力の限界である。
堀内巨人の日本シリーズの意外な相手!?
『プロ野球スピリッツ2004 クライマックス』仮想ペナントの堀内巨人は、140試合77勝60敗3分、勝率.562。2位・広島、3位・中日とは2差、4位の阪神とも3差という大混戦のペナントレースだった。
投手陣は最後まで不安定で、リーグ5位のチーム防御率4.82。上原の9勝が最多と2ケタ勝利は0名ながらも、ベテランの桑田真澄が6勝2敗1セーブ、防御率3.07。天王山の広島戦で2安打完封勝利をあげるなど、勝負どころの9月に存在感を見せた。
圧巻はやはりゲームでもプロ野球記録の293本塁打を放った“史上最強打線”である。ローズ51本、小久保50本、阿部40本、高橋由伸30本、清原30本、ペタジーニ29本、二岡17本、仁志14本、清水13本……と9人が2ケタ本塁打に到達する破壊力だった。
こうして見ると、04年シーズンの実際の個人成績とかなり近く、パワプロで培ったコナミ製野球ゲームのデータ精度の高さを実感させる。
さて、当時のセ・リーグにはまだCSは存在せず(パは04年からプレーオフ導入)、リーグVのあとの日程は10月16日開幕の日本シリーズへ。
ここでひとつのサプライズがあった。巨人が戦う相手のパ・リーグ覇者が、三冠王・松中擁するダイエーや史実で日本一に輝く西武ではなく、この年限りで消滅する大阪近鉄バファローズだったのである。
まさにプロスピからの猛牛鎮魂歌──。実況の山口富士夫アナは、第1戦のプレイボールをこう告げる。
「さあマウンドには、岩隈久志。史上最強打線に対して、どんなピッチングを見せるのでしょう!」
文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)