コラム 2023.01.02. 19:48

侍ジャパン・栗山英樹監督に課せられた十字架【白球つれづれ】

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侍ジャパン・栗山英樹監督 (C) Getty Images

白球つれづれ2023~第1回・14年ぶりの世界一へ、史上最強の侍ジャパンに課された絶対優勝の使命


 3月9日に開幕するワールドベースボールクラシック(WBC、以下同じ)の東京ラウンドまで、あと70日を切った。

 新年を前に侍ジャパンの栗山英樹監督の姿は自宅のある北海道栗山町・栗山天満宮にあった。大晦日恒例の除夜の太鼓叩きに参加、この行事は「ワールドチャンピオン祈願祭」も兼ねて行われたと言うから、一足早い「出陣式」の形となった。

 メジャーリーガー・大谷翔平選手の出場が決まってから、東京ラウンド日本戦のチケット問い合わせが殺到している。日本ハム時代に二刀流を築き上げた恩師への恩返しが実現した格好だ。するとダルビッシュ有も、鈴木誠也選手も日本代表入りを表明。さらに今年からメジャーに挑戦する吉田正尚(レッドソックス)や千賀滉大(メッツ)両選手まで合流する可能性が広がっている。

 国内組では投手四冠の山本由伸(オリックス)や完全試合男の佐々木朗希投手に打者では若き三冠王の村上宗隆選手らそうそうたる顔ぶれが名を連ねる。史上最強の侍ジャパンの呼び声が高い。

 もっとも、参加チームの顔ぶれを見ると世界一は確実とは言えない。米国がマイク・トラウト主将をはじめ、バリバリのメジャーリーガーを揃えれば、前々回大会優勝のドミニカ共和国もほとんどの選手がメジャーで活躍している選手中心の構成。事前の下馬評によれば、日本は上記2チームに次いで3位の位置づけだ。

 2006年、09年の2大会では世界一に輝いた日本だが、当時はMLBがそれほど積極的でなかったことが幸いした側面もある。だが、世界的な野球振興を本格化させてきた13年、そして前回大会となる17年はいずれも4強止まり。史上最強の侍ジャパンに違いはないが、絶対優勝の期待値が高まるほど、指揮官にとってはつらい部分もある。


「打者・大谷」をどうすれば最大限に活かせるか?


 昨年のサッカーW杯で日本はベスト16。それでも優勝候補のドイツとスペインを破ったことで森保ジャパンは大きな賞賛を得た。しかし、野球に目を転じれば優勝以外は敗北と見なされる。ほぼ全世界に普及するサッカーに対して、野球は北米、中南米、アジア中心だから、層の厚さが違う。

 個人的には栗山監督とサッカーの森保一監督には共通点が多いように感じる。

 現役時代は共にスター選手ではなかったが、努力とち密な戦略で指揮官としての地位を築いた。コミュニケーションを大切にして、選手から慕われる人間性も相通じる部分がある。現代の監督として必要な要素なのだろう。

「チームを勝たせるために何が必要なのか? その一点を考え続けていく」と栗山監督は繰り返し語っている。

 秘策の第一はやはり、大谷の起用法になる。

 メジャーでも類を見ない二刀流選手だが、指揮官の頭の中には「ジョーカー」としての起用もある。3月上旬の開幕時期を考えれば、投手としては調整期であり、ここ一番の中継ぎや抑えまで視野に入れながら「打者・大谷」をどうすれば最大限に活かせるか? 日本どころか、世界の宝を潰すわけにはいかない。秘蔵っ子の役割を最後まで見極めるつもりだ。

 次に注目されるのは、東京ラウンドで行われる序盤リーグ戦と準決勝、決勝が行われる米国ラウンド(現地時間3月19日~21日)で一部メンバーを入れ替える二段構えの戦術だ。

 具体的には、ダルビッシュや千賀投手らを日本には呼ばず、準決勝から招集するもの。特に今年からメジャーに挑戦する千賀の場合は、メッツのキャンプに慣れ、サインプレーなどの習得も必要になる。そうした時間的な制約を解消するためにも米国ラウンドからの合流が現実的。吉田についても同じことが言える。

 従来の侍ジャパンの戦い方はスモールベースボールが踏襲されてきた。外国勢にパワーで劣る分を、バント、盗塁などを絡めた戦法で打破してきたが、今回のメンバーは小技だけに頼ることもない。その辺りを栗山監督がどう決断していくのか?

 今月中に代表メンバーが発表され、2月17日から宮崎で合宿がスタート。その後、6試合の強化試合が予定されて、3月9日には中国戦を迎える。

 14年ぶりの世界一へ、待ったなしの戦いが始まる。

 栗山監督は毎年、新春には尊敬する三原脩元西鉄監督の墓参を欠かさない。奇想天外な策を駆使して「三原魔術」と呼ばれた偉大な先輩から、常に考え続ける姿勢を学んだ。今度は「栗山マジック」で世界を驚かせる番である。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)
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