第2回:ミスを減らしたそつのない野球を目指す“岡田流”への高まる期待
来るべき新シーズンを前に、岡田阪神の評判が高い。
その要因は、何といっても岡田彰布新監督の存在にある。
2000年以降、阪神の優勝は2度。03年の星野仙一監督時代と、05年の岡田監督時代だ。つまり17年間優勝から遠ざかっている阪神にとって、生え抜きで優勝経験のある岡田は「切り札」そのものである。
古巣に14年ぶりの復帰となった指揮官の動きは早かった。
秋季キャンプでは主軸打者である佐藤輝明選手を三塁、大山悠輔選手の一塁固定を明言すると、昨年まで遊撃を守っていた中野拓夢選手の二塁コンバートも即決した。内外野の複数ポジションを守って来たチームの看板男たちには、守備を固定することで余計な神経を使わせず、打撃に専念させるのが狙い。
中野の場合は、評論家時代から「何であんなに浅い守備位置なのか。肩に自信がないのかな?」と弱点を指摘。すぐさま、配置転換を決めている。
ちなみにリーグ3位に終わった昨季のチーム失策86は12球団ワーストだが、個人別では中野の18個、次いで佐藤輝の12個が突出。2人併せて30失策はチームの1/3強となる。さらに併殺が出来なかった直後に決勝打を浴びるなど、記録に表れないエラーも数多く見られる。
矢野燿大前監督の4年間はすべてAクラスに入りながら、頂点にはたどり着けなかった。勢い重視の攻撃型野球で見落とされがちだった、守りの重要性から改革に着手した岡田流が目指すのは、ミスを減らしたそつのない野球だ。佐藤輝、大山、中野と言ったチームの主軸選手をターゲットに改革を迫り、更なる成長を求めるあたりが心憎い。
新春早々には、甲子園球場に動作解析システムの「ホークアイ」が設置された。
メジャーではすでに全球団が導入、日本でもヤクルトなど数球団が採用する同システムは、投球の軌道や回転数に、打球速度や角度を数値化するだけでなく、守備などの選手の動きもすぐさま数値化、分析して選手の特徴や長所短所までたちどころに解析する。
岡田監督もキャンプに向けて「今まで以上に練習日を増やして、サインプレーなど細かいことをやっていく」と語っている。チーム防御率2.67は昨季もリーグトップだけに、そこへ堅い守りとそつのない攻撃が加われば自ずと「ARE」(優勝)に近づくことも可能だ。
「どういう風に戦ったら勝てるかを知っている監督」
昨シーズン途中に「阪神・岡田監督誕生」の記事が躍ったことがある。夏前に親会社である阪急阪神ホールディングスの角和夫会長らとゴルフを共にしてチームに対する意見も述べたと言われる。
岡田は10年から3年間オリックスの監督を務めているが、同球団の前身は阪急で、ゆかりもある。しかも今年の1月1日付で阪急阪神ホールディングスの杉山健博社長が球団オーナーに就任。阪急と阪神両社の“お墨付き”を得て岡田タイガースは発進したことになる。
現役時代は掛布雅之、ランディー・バースと共に最強クリーンアップを形成した。85年にはチーム唯一の日本一に輝いているから、岡田には「打の人」のイメージが強いかも知れないが、守備のこだわりも人一倍強かった。
二塁を守る際に、より守備範囲を広くするため甲子園の外野芝生の一部を削り取るよう球場側に要請した逸話も残っている。阪神の第一次監督時代にはルーキーの鳥谷敬選手を遊撃に抜擢すると辛抱強く使い続けている。守りを固めたのちに攻撃に転じる。新監督の目指すものは至ってシンプルな野球だ。
今季は岡田の他に、広島・新井貴浩、西武・松井稼頭央、ロッテ・吉井理人の新監督が誕生した。あるテレビ番組に出演した落合博満元中日監督は、気になる指揮官を問われると、岡田の名を挙げた。
「どういう風に戦ったら勝てるかを知っている監督」と経験値を評価したうえで「去年までの阪神のいい部分をどうやって伸ばしていくのか、足りない部分をどうやって補っていくのか。選手を作り上げていくのは出来ると思うので、台風の目になり得る」と評価した。
この先は大量に入れ替えた新外国人選手が計算通りに働くか、新守護神に予定する湯浅京己投手の成長が本物かを見守りながら足りない部分を補っていくことになる。
今季のセ・リーグは岡田と巨人・原辰徳がベテラン監督で、ヤクルト・高津臣吾、DeNA・三浦大輔、中日・立浪和義に広島・新井監督が気鋭の生え抜き組に分かれる。老獪な指揮か、若手監督の勢いか。それぞれの腕の見せ所だ。
マスコミでは「ARE」の言葉ばかりが取り上げられて、面白がられているが、その裏に隠れた岡田監督の堅実路線を見逃してはいけない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)