「力入れなくて7割、8割」
“ロケットスタート”は指揮官の胸も揺さぶった。
タイガースの沖縄・宜野座キャンプ初日。ブルペンで豪球を投げ込んだのは7年目を迎えた才木浩人だった。
変化球を交えての50球。「力入れなくて7割、8割ぐらいの感じで投げてました」と振り返ったが、数字は正直だ。
球団のトラックマンで計測された直球の球速は常時140キロ台後半、150キロ台も2球あったという。
「感覚はすごく良くなっている。頑張って投げなくても、ある程度球速も出てきたし、ボールの感じもすごく良かったので。あまりオーバーにならないように、そこは気をつけたい」
自らブレーキをかけなければいけないほどの出力を感じているのだろう。
ブルペンを視察した岡田彰布監督も、目立った選手でいの一番に才木の名前を挙げた。
「(手術しても)投げられるということがすごいよな。(ローテにふさわしいかと問われ)ふさわしいどころじゃないんじゃないかな。ブルペンのボール見たらだいたいいけそうやなというのが分かるやんか」。
初日の50球を目にしただけで、ローテ級……いや、当確ランプも灯しそうなほどの絶賛だった。
今季は中6日でシーズン完走をめざして
本人が一番手応えを感じている。
今オフは“脱力”をテーマに、テークバックの際の右手の上げ方など投球フォームを改造。昨秋キャンプ終了時には「難しい。そんな簡単ではないですね」と話していたが、今春になって精度は一気に向上してきた。
“7~8割の力感で150キロ”は、脱力フォームが体現できる理想の形。「だいぶ良い方向にいっている。あの力感であれぐらいのボールが投げられているので。もう少しバランス良く投げられたら、より良くなる」と手応えを隠さない。
さらに課題としていたボールの回転軸の傾きも、この日は改善傾向にあったという。
「軸がまっすぐ立ってきた。前はちょっと斜めの感じだったけど、シュート成分も少なくなっている」
回転軸の傾きが無くなれば、それだけボールを上から叩けている証拠でバックスピン成分が増える。打者を差し込ませることができ、たとえコースが甘くなってもファールにとどめられる。「次のフォークも生きてくる」と、相乗効果も見込める。
2020年に受けた右肘のトミージョン手術から本格復帰となった2022年は、シーズン中盤からローテーション入りし4勝をマーク。昨年は右肘の状態を考慮されて中10日を守ってきた登板間隔も、今季は通常の中6日に戻してシーズン完走を目指す。
取り組む「脱力フォーム」を会得できれば、1試合ごとの疲労軽減にもつながり目標にも大きく近づく。普段から向上心の塊のように、鍛錬を止めない24歳。本格開花へ最高の一歩を踏み出した。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)