「去年の甲子園では喜びも悔しさも両方味わっている」
昨春の選抜大会で優勝した大阪桐蔭は、史上初となる2度目の選抜連覇に挑む。
昨秋の明治神宮大会で日本一に輝いたように、今年も甲子園の頂点に立てる戦力がそろっていることは証明済みだ。
新チームが結成当初から勝利に貪欲だった要因の一つに、昨夏の甲子園の経験がある。西谷浩一監督がその敗戦を振り返る。
「夏の悔しさを持ったまま、新チームは秋の大会に入りました。秋は(明治神宮大会を)優勝することができましたけど、去年の甲子園では喜びも悔しさも両方味わっている。それは新チームにとって、いい勉強になっていると思います」
その“1敗”というのが、春夏連覇に挑戦した夏の甲子園準々決勝・下関国際戦のことである。
「もう負けたくない」
7回に三重殺を喫するなど、不穏な雰囲気が漂っていた1点リードの最終回。2番手として5回途中から登板していた2年生左腕の前田悠伍が逆転打を許して日本一を逃した。
その前田が、新チームではエース兼主将を務める。夏の悔しさを晴らすべく、チームの先頭に立って厳しい練習に励んでいる。
「あのような悔しい経験は、二度としたくありません。もう負けたくない。去年は春の優勝の嬉しさよりも悔しい経験の方が強く印象に残っています。それを消すためには、甲子園で優勝するしかない」
新チーム結成後の前田は、周囲の高まり続ける期待とは裏腹に苦しんだ。
その最たる例が、昨秋の明治神宮大会準決勝・仙台育英戦である。
昨夏の王者に計10四死球を与え、球数は自己最多となる161球までかさんだ。それでも大崩れせずに4失点完投勝利。白星への強い思いが粘り強さを身につけさせた。
さらに、オフ期間のトレーニングを通して逞しさも兼ね備えようとしている。
今冬は直球の質の向上を掲げ、ウエートトレなどに時間を割いている。最速を現在の148キロから150キロ台に届かせることが目標だ。
“打倒・大阪桐蔭”を跳ね返す
「冬は直球の質にこだわって取り組んできました。150キロ到達が目標ではあるけど、球速以上に球のキレや伸びを意識しています。150キロが1球だけ出ても、平均球速が140キロ台前半では意味がない。最速は150キロを意識しながら、平均球速も上げていきたいです」
前田は世代No.1投手との呼び声が高く、今秋のドラフト1位候補にも挙がっている。
抜きん出た実力と注目度の高さを考えれば、徹底的に相手から研究された状態で選抜を迎えることは間違いない。そのことは前田も百も承知だ。
「相手が“対前田”という気持ちで対策してくることは分かっている。気持ちで上回っていくしかない。準備できることの中では、気持ちが一番大事になると思う。向こうは大阪桐蔭を倒すという強い気持ちでくると思う。それに負けない強い気持ちで投げたい」
全ての高校が打倒・大阪桐蔭を掲げて向かってくるだろう。
ただし、大阪桐蔭が選抜にかける気持ちの強さも相当だ。西谷監督がナインの胸の内を明かす。
「日本一を目指す気持ちは強いです。生意気ですけど、そこだけを目指してやっている。そこにいけるように子どもたちは頑張ってくれています」
たった1度の敗戦が常勝軍団をさらに強くさせたとすれば、今年の大阪桐蔭は止められない。
文=河合洋介(スポーツニッポン・アマチュア野球担当)