野球ゲームで振り返る名選手の偉大さ:落合博満
あの頃、少年たちにとって、落合博満は『北斗の拳』のラオウとか、『キン肉マン』の悪魔将軍のような架空世界の中の現実感のないキャラクターだった。
圧倒的なラスボス感。かつリアリティのなさ。三冠王3度の大打者ながら、そのプレーはほとんど見たことがない。
当時のロッテは日本シリーズとは無縁で、テレビの野球中継も皆無に近かった。だけど、野球カードや選手名鑑で知る背番号6の打撃成績は圧倒的だ。打率やホームラン数は、『ドラゴンボール』における戦闘力のような説得力があった。
初代ファミスタの「おちあい」
そんな時代に世に出たのが、ファミコンソフト『プロ野球ファミリースタジアム』だった。本作がナムコから発売されたのは1986年12月10日。まさにロッテ・落合のトレード話が世間を騒がせていた渦中である。
この年、33歳の落合は打率360、50本塁打、116打点、OPS1.232という凄まじい成績で2年連続の三冠王に輝く。だが、尊敬する稲尾和久監督が去り、有藤通世新監督が就任することで、移籍が既定路線に。
結局、ファミスタ発売直後の86年12月末に、スポーツ紙で移籍成立秒読みと報道されていた巨人ではなく、打倒・巨人に燃える星野仙一新監督率いる中日への1対4の大型トレードが決まる。
のちに星野監督はスポーツ報知の取材に「ロッテは篠塚を欲しかったが、巨人は篠塚を出せなかった」と明かしている。まだ25歳の最多セーブ投手・牛島和彦と、当時破格の年俸1億3000万円をぶっこんだ中日の本気度が上回ったのだ。
つまり、初代ファミスタはギリ間に合った貴重な“ロッテの落合”が収録された一本になるわけだが、実際は日本ハムとロッテの食品系連合球団フーズフーズの三番打者で登場(四番はロッテの最強助っ人「りい」)。
「おちあい」は同じく2年連続三冠王のバース……じゃなくて打率.360・50本塁打のタイタンズの「ばあす」と双璧のゲーム最強打者として君臨する。
だが、これ以降に発売される87年のファミスタシリーズからは、ドラサンズの4番打者にデューダ(※80年代後半に流行った“転職”の造語)。ジャレコの初代『燃えろ!!プロ野球』も87年6月発売なので、打率356・50本塁打のCDCLUBの四番「オチアイ」。なお、燃えプロの続編では「うちあい」だ。
「神主打法」を再現
88年6月発売の『究極ハリキリスタジアム』(タイトー)では、ドラポンズの「おちまい」で打率346・40本塁打。89年2月発売の『がんばれペナントレース!』(コナミ)では、Donutsの「よりあい」で打率331・48本塁打。
正直、セ・リーグ移籍後の実際の成績よりもかなり数字が盛られており、まさに開発側がゲーム最強打者の“ラスボス”として意識的に落合博満を重宝していた感すらある。
スーパーファミコンでも『スーパーパワーリーグ』シリーズは、打者のデフォルト構えがオレ流の代名詞・神主打法という仕様で、あのパワプロの記念すべき第一作目、94年3月発売の『実況パワフルプロ野球’94』でも「落合博」として中日の四番を打っている。
成績は打率285・17本塁打ながらも、「ミート6、パワー131」という安定の好打者レベルの設定だったが、自チームの優良助っ人パウエルは「ミート7、パワー154」で、ロッテ時代に本塁打王を争った西武の秋山幸二はパワー174と大きく差をつけられた(従来の野球ゲームとは異なりパワーだけじゃないのがパワプロの奥深さでもあるわけだが)。
実際に自身5度目にして最後の本塁打王に輝いた91年以降は、背番号6の打撃成績は緩やかに下降気味で、あの憎らしいほどの無双感は薄れていた。
スーパーファミコンのような存在感と生き様
さて、93年オフ、落合が中日から巨人へFA移籍した前後にリリースされたのが、ファミコン最後の野球ゲーム、93年12月発売の『ファミスタ94』である。まだDチーム所属の「おちあい」は、打率.310・22本塁打とファミコンのファミスタシリーズ皆勤賞で締めた。
オレ流落合がエグいのが、全盛期には及ばずとも、40歳を過ぎても急激に衰えることなくレギュラーを務め、ゲーム上でも一定の数値とラスボスの風格を維持し続けたことだ。
96年には42歳にして『スーパーファミスタ5』の巨人四番を張り、現実のペナントでは打率301・21本塁打・86打点・OPS924という驚異的な成績を残すも、オフにポジションが被る清原の巨人加入により、退団して日本ハムへ移籍。11年ぶりのパ・リーグ復帰にして、ロッテと日本ハムのフーズフーズ両球団在籍と話題になった。
ちなみに、97年3月発売の『実況パワフルプロ野球3'97春』の日本ハム落合は「ミート6、パワー128」とほぼパワプロ第1作目と同じ数値で、43歳から44歳になるシーズンにもかかわらず四番を打っている。
だが、新天地で打率262、3本塁打、43打点と低迷。パ・リーグの広い球場や慣れない途中交代の起用にも戸惑い、終盤には16年ぶりの六番降格も経験した。史上初の44歳シーズンでの規定打席到達がせめてもの意地だった。
そして、98年3月19日発売、スーファミでのシリーズ6作目『実況パワフルプロ野球 Basic版’98』。このシーズンが現役ラストイヤーになる落合はついに初期設定のスタメンから外れ、日本ハムのビックバン打線の控え野手として登場。「ミート4、パワー71」という寂しい数値だが、スーファミ野球ゲーム最後の1本となった本作とともにその現役生活を終えた。
ファミコンの初代ファミスタから、スーファミ最後の野球ゲームのパワプロ98までサバイバルし続けたラスボス落合。
現役晩年の90年代後半、すでに平成野球ゲームの主役は、振り子打法が再現されたオリックスのイチローであり、日本人選手ではズバ抜けたパワーを誇る巨人の松井秀喜だったが、40代中盤の落合博満の姿は、まるで最新高性能ハードのプレイステーションやセガサターンに対抗する、スーパーファミコンのような存在感と生き様を少年たちに感じさせたのである。
文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)
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