コラム 2023.02.27. 16:30

「決勝満塁HR」から「負けて笑顔」のゲームセットまで…記憶に残る「夏の甲子園決勝」3選

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甲子園球場 (C) Kyodo News

日本の夏、甲子園の夏


 いよいよ2月も終わりが近づき、本格的な野球シーズンの幕開けが迫ってきた。

 3月8日には『2023 WORLD BASEBALL CLASSIC™』が幕を開け、18日には『第95回記念選抜高等学校野球大会』が開幕。そして30日にはプロ野球の2023年シーズンがスタート。どの戦いからも目が離せない。


 そこで今回は、『記憶に残る「○○」3選』の最終章。 前回は開幕間近ということで、記憶に残る「センバツ決勝」を3試合紹介したが、今回は「夏の甲子園決勝」の3選を取り上げてみたい。

 なお、これまでと同様に対象は筆者がリアルタイムで知る1984年以降。いずれも最終回まで手に汗握る展開となった試合だ。


1994年8月21日:佐賀商-樟南


 この年は九州勢が強かった。8校中5校が初戦を突破。そのうちの3校が準決勝に駒を進め、そして決勝では史上初の“九州勢対決”が実現した。

 大舞台で顔を合わせたのは、佐賀商と樟南。意外にも佐賀県勢と鹿児島県勢の双方にとって初の決勝進出でもあった。


 前評判が高かったのは、プロも注目していた福岡真一郎と田村恵の黄金バッテリー擁する樟南。実際に2回戦から登場すると、強力打線と堅守で危なげなく勝ち上がってきた。一方で、接戦続きの佐賀商はサヨナラで準決勝を制し、勢いでは勝っていた。

 試合は2回裏に樟南が3点を先取。佐賀商はエース福岡の前に5回まで2安打無失点に抑え込まれていた。

 試合が大きく動いたのは6回表。上位打線の3連打で佐賀商が一気に追い付き、試合を振り出しに戻した。その後、両チームが1点ずつを挙げ、4-4で試合は9回表の佐賀商の攻撃へ。

 下位打線から始まった攻撃だったが、佐賀商は連投の疲れが見える福岡を攻め立て、二死満塁の好機を演出すると、ここで打席に立ったのは6回に反撃の口火を切る適時打を放っていた主将の西原正勝だった。

 福岡が投じた初球は、見逃がせばボールかという低めのストレート。これを狙いすましたように西原が振り抜くと、打球はレフトスタンドへ一直線。一挙4点を奪った佐賀商が8-4で初優勝を遂げた。


1996年8月21日:松山商-熊本工


 佐賀商と樟南の激闘から2年後、1996年も九州勢が躍進。ベスト8には3校が残った。

 このうち決勝の舞台にたどり着いたのが熊本工だ。対戦相手は夏の甲子園で27年ぶりの全国制覇を狙う愛媛・松山商。甲子園の常連校対決として注目された。


 試合は初回、松山商が2つの押し出し四球などでいきなり3点を先制。一方の熊本工は2回裏に1点を返したが、その後は両チームともゼロ行進が続いた。8回裏にようやく熊本工が1点を返し、3-2で試合は最終回へ。

 1点差に詰め寄られた松山商は9回表に得点圏に走者を進めたが、これを生かせず無得点。するとその裏、熊本工は二死走者なしから1年生の沢村幸明が起死回生の本塁打を放ち、土壇場で同点に追いついた。

 この一発で完全に流れを引き寄せた熊本工は、延長10回裏に一死満塁のチャンスを作ると、打席には3番の本多大介。後がない松山商は内野陣が一度マウンドに集まり、守備陣形を確認。本多が再び打席に立った。

 しかし、松山商がここで2度目のタイムを取ると、右翼手を新田浩貴から矢野勝嗣にスイッチ。これがその後に語り継がれることとなる大きなドラマを引き起こす。

 改めて打席に立った本田は甘く入った初球の変化球をとらえると、打球はライトへの大飛球。三塁走者が還って熊本工のサヨナラ勝ちかと思われたが、定位置よりやや後方でこれを捕球した矢野は本塁へ山なりで送球。タッチアップで本塁を狙った走者をなんと間一髪でアウトにしたのだ。後に「奇跡のバックホーム」と呼ばれるビッグプレーであった。

 その後、松山商は11回表に3点を奪うと、裏の熊本工を無失点に抑え、3時間を超す熱闘は6-3で幕を閉じた。


2009年8月24日:中京大中京-日本文理


 この年の決勝は、新潟県勢初の優勝を狙う日本文理が古豪・中京大中京に挑む構図だった。

 試合は、5回を終えた時点で2-2の同点。がっぷり四つに組みあったが、6回裏に中京大中京が一挙6点を挙げるなど、8回終了時点で10-4とセーフティーリードを奪った。

 迎えた日本文理の最後の攻撃も、あっさり2人が倒れて二死走者なし。この回から志願して再びマウンドに上がっていたエースの堂林翔太も勝利を確信していたことだろう。

 ところが、次打者がカウント3ボール・2ストライクから四球を選ぶと、準決勝まで強打を誇った日本文理打線が突如目を覚ます。

 続く高橋隼之介が左中間に適時二塁打を放ち5点差とすると、そこから三塁打、死球、四球、そして2本の安打を重ねて1点差に詰め寄った。

 伏兵が見せた6点差からの大逆襲に球場のボルテージは最高潮に達した。しかし、次打者の痛烈なライナーが三塁手のグラブに収まり、試合は終了。中京大中京が10-9で辛くも逃げ切り、7度目の夏制覇を遂げた。

 試合終了直後、何より印象に残っているのは、日本文理ナインが見せた笑顔だ。試合には敗れたものの、最後に見せた怒涛の攻撃で球場の空気を一変させた満足感もあったのだろう。一礼後に両者が健闘を称え合うシーンは今も目に焼き付いている。


文=八木遊(やぎ・ゆう)



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