コラム 2023.03.01. 23:00

プールB:韓国 幾多の名勝負を演じてきた侍ジャパンの永遠のライバル

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韓国代表イ・ジョンフ

韓国野球の歴史


 かつて日本の支配を受けたこの国の野球の発展に旧宗主国の影響が強いのはいうまでもないが、この地に野球を伝えたのは、どうやらアメリカ人のようだ。

 新説では、1896年に当時漢城と呼ばれていたソウル在住のアメリカ海兵隊員がプレーしたのが最初で、ほどなく地元民も参加するようになったようだ。

 もっとも、韓国人の間では1904年、もしくは翌年に宣教師ジレットによって現地住民に伝えられたと信じられている。


 しかし、ベースボールをいまだに日本語に由来する「ヤグ」と彼らが呼んでいることに、日本の影響の下、このゲームが朝鮮半島に浸透していったことが象徴されている。

 1911年、朝鮮半島は日本の植民地となるが、日本で人気を博していた野球は移住していった日本人だけでなく、現地人の間でもプレーされるようになる。

 結果として、野球は被支配者である朝鮮人が支配者である日本人に対抗しうる数少ない場となり、コリアンのアイデンティティを支えるツールとして機能した。


侍ジャパンと死闘


 1921年には現在の“夏の甲子園”、『全国中等学校優勝野球大会』に朝鮮代表校が参加するようになり、社会人の『都市対抗野球大会』にも第1回目の1927年から出場。1940年と1942年には全京城が優勝を果たしている。

 ただし、これら朝鮮代表のチームのメンバー構成も在留日本人が中心であった。


 本当の意味での韓国野球の出発点は終戦後、独立を果たしてからのことである。

 1946年に大韓民国の建国に先んじて『朝鮮野球協会』(現・大韓野球ソフトボール協会)が発足。以後、韓国野球は高校・実業団野球を中心に発展していった。

 プロリーグの無い時代、韓国アマチュア球界で活躍した選手の目指す先は、皮肉なことにかつての支配者だった日本であった。

 20歳で玄界灘を渡った白仁天(ペク・インチョン)は1960年代から70年代にかけて東映、太平洋クラブなどで活躍。首位打者にも輝いた。


 韓国にプロリーグが発足したのは、1982年のことである。現在にも連なるKBOリーグが、財閥をバックとした6球団でスタートした。

 プロリーグは年々拡大を遂げ、現在は10球団にまで拡大している。日本のNPBとの選手交流も行われており、草創期には元巨人のエース・新浦壽夫(韓国名:キム・イルユン)、元南海のクローザー・金城基泰(韓国名:キム・ギテ)ら在日韓国人選手が、のちには近鉄などで活躍した入来智らもKBOに身を投じ、逆にKBOからは「国宝級投手」と呼ばれたソン・ドンヨル(元中日)や「アジアの大砲」ことイ・スンヨプ(元巨人など)がNPBに挑戦した。


 そして国際大会では、常に侍ジャパン最大のライバルとして立ち塞がってくる。

 とくに2009年の第2回・WBCでは5度にわたって日韓戦が組まれ、最後に激突した決勝戦はWBC史上に残る名勝負として今も語り継がれている。


前評判は高くないものの…?


 前評判は決して良くない今回の代表チームだが、侍ジャパンと同じく韓国系アメリカ人、メジャーリーガーを召集するなど、打倒侍ジャパンに向けて着々と戦力を整えている。

 日系の血を引くヌートバーと同じカージナルスから選出されたトミー・エドマンは、韓国人を母に持つ。

 2021年には二塁手としてゴールドグラブ賞を獲得した名手は、昨季も二遊間を中心に153試合に出場。153安打を放った打撃とともに、今やチームには欠かせない選手となっている。

 さらに今大会では、遊撃にはキム・ハソン(パドレス)が入ることも確実。二遊間は盤石と言っていいだろう。


 外野には、かつて中日でもプレーした「風の子」こと李鍾範の息子で、昨季のKBO最優秀選手に輝いたイ・ジョンフ(キウム)が名を連ねている。2017年のデビュー以来、6年連続で打率3割をマークしているミート力は他国の脅威になるに違いない。

 捕手には、2015年のプレミア12で世界一を経験したヤン・ウィジ(斗山)とイ・ジヨン(キウム)のベテラン2人が選出。豊富な経験で投手陣をまとめる。


 投手陣に目を向けると、2008年の北京五輪で侍ジャパンを苦しめたベテラン左腕キム・グァンヒョン(SSG)がリーダー的存在となるだろう。

 もうひとりのベテラン左腕ヤン・ヒョンジョン(キア)とともに、メジャー経験もある2人が先発の軸となるのではないかと思われる。

 このふたりの他、昨季13勝のソ・ヒョンジュンとコ・ヨンピョのKTコンビ、10勝のイ・ウィリ(キア)、ウォン・テイン(サムソン)が先発候補だが、対戦相手やチームバランスを考えて、先発候補のうち何人かは「第2先発」に回ることになるだろう。


 1次ラウンドでは、侍ジャパンと同じプールBに入っている韓国。2009年大会の決勝以来、実はWBCの舞台では侍ジャパンと対戦していない。

 ここ2大会は1次ラウンド敗退という屈辱を味わっているが、日の丸を前にすると実力以上の力を出すのは周知のとおり、今大会でも日本にとって最大のライバルになるだろう。


文=阿佐智(あさ・さとし)





メンバー


<投手>
1 コ・ヨンピョ
18 チョン・ウヨン
19 コ・ウソク
21 パク・セウン
29 キム・グァンヒョン
30 ソ・ヒョンジュン
34 キム・ウォンジュン
45 イ・ヨンチャン
46 ウォン・テイン
48 イ・ウィリ
54 ヤン・ヒョンジョン
57 キム・ユンシク
59 ク・チャンモ
61 グァク・ビン
65 チョン・チョルウォン


<捕手>
25 ヤン・ウィジ
56 イ・ジヨン


<内野手>
2 キム・ヘソン
7 キム・ハソン
10 オ・ジファン
11 T.エドマン
14 チェ・ジョン
50 カン・ベクホ
52 パク・ビョンホ


<外野手>
17 パク・ヘミン
22 キム・ヒョンス
37 パク・コンウ
47 ナ・ソンボム
51 イ・ジョンフ
53 チェ・ジフン



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