オーストラリア野球の歴史
昨年にも北海道で侍ジャパンと相まみえ、日本の野球ファンにとってはすっかりおなじみの国になったオーストリアだが、この国の野球の歴史は19世紀半ばに遡ることができる。
この国のゴールドラッシュは野球の母国・アメリカから多くの労働者を受け入れ、彼らがメルボルン周辺の金鉱のある町でボールゲームを始めたようだ。1888年には、アルバート・スポルディングが企画したメジャーリーガーを含む世界一周ツアーの一行がこの国に立ち寄っている。
1912年に『オーストラリア野球協議会』が組織され、1926年に現在に連なる『オーストラリア野球連盟(ABF)』に改組された。
ABFは1934年に各州対抗の全国チャンピオンシップとして『クラクトン・シールド』を開始。これは現在、プロリーグのチャンピオンシップとして実施されている。
太平洋戦争の際には、オーストラリアは日米の覇権争いに巻き込まれ、連合国側で参戦することになるが、この結果としてのアメリカ軍の流入は、野球の普及を加速化した。
戦後、日豪の間に友好の機運が生まれると、野球を通じた“雪解け”が企画され、1954年シーズン後に巨人が若手主体のチームをオーストラリアに送り、各地のアマチュアチームと数試合を行っている。
アテネ五輪で日本を撃破
プロ野球が生まれたのは、1989年のことである。
現在に連なる『オーストラリアンベースボールリーグ(ABL)』がウインターリーグとして8球団でリーグ戦を開始したが、プロアマ混成のこのリーグは集客に苦しみ、1999~2000年シーズンをもって、リーグをオーストラリア人メジャーリーガーの先駆的存在であったデーブ・ニルソン(現・代表監督/元中日)に売却する。
ニルソンは、リーグ名を『インターナショナル・ベースボール・リーグ・オブ・オーストラリア』と改め、外国人選手を多く招くなど新機軸を打ち出したが、これも長続きせず、1シーズンで幕を閉じた。
しかし、プロ化の試みは着実にこの国の野球のレベルを上げた。
1995年秋には、リーグ選抜チームがダイエー・ホークスによる国際クラブトーナメント『アジア・パシフィック・スーパーベースボール』に出場。自国開催となった2000年のシドニー五輪では8か国中7位に終わったものの、その4年後にオーストラリア野球は黄金時代を現出する。
プロとしてのプレーの場をアメリカに求めたジェフ・ウィリアムスやクリス・オクスプリング(ともに元阪神)らがその技量を発揮し、準決勝でオールプロで望んだ日本代表を破った試合は、今なお「アテネの仇」として日本の野球ファンの記憶に刻まれている。
このアテネ五輪の銀メダルが野球熱に再び火をつけ、2010年秋にはMLBの支援を受けてABLが再興された。
新ABLはアジア各国のプロリーグのチャンピオンシップ『アジアシリーズ』にも2011年から参加し、2013年大会ではキャンベラ・キャバルリーが優勝。ついに「アジアチャンピオン」に輝いた。
その後、2018年にはビクトリア州に拠点を置く韓国人球団と隣国ニュージーランドのオークランド・トゥアラタ加えて8球団に拡大し、世界からのタレントを集めている。
WBCにはこれまで第1回大会から4大会連続で出場しているものの、いまだ1次ラウンド突破を果たしていない。いわば「途上国以上、強豪未満」の状態だ。
日本代表とは、2007年の秋に翌年に控えた北京五輪に向けての強化試合で相まみえたのを皮切りに、今や侍ジャパンの対戦相手の常連になっているが、WBCでは前回の2017年大会で初めて“ガチ勝負”に臨んだ。
この対戦では侍ジャパンがアテネの借りを返すことになったが、そのスコアは4-1。流れをつかみさえすれば、十分に勝機をつかめる試合内容だった。
米マイナーの有望株も
絶対的守護神として期待されていた、今やメジャーを代表するクローザーとなったL/ヘンドリクスがガンを公表し、代表入りどころか長期の離脱というショッキングなニュースが流れる中、今大会の代表チームはABLでプレーする選手中心の編成になった。
投手陣については、2019年から2シーズンにわたり韓国で連続2ケタ勝利を記録したW.サーポルト(パース)、前回2017年大会の日本戦に先発して4回1失点と好投し、2019年のプレミア12でも代表に名を連ねたT.アサートン(ブリスベン)、ABLの2018~2019年シーズン最多勝S.ケント(メルボルン)らのベテランが牽引することになるだろう。
また、大会途中から参加可能の指名選手枠には、アテネで日本代表を苦しめた元阪神のC.オフスプリングス(シドニー)の名前も。さらにはドジャースと契約を結び、昨年秋の強化試合でも来日したL.ドーラン(シドニー)ら若手もロースター入り。彼らにとっては、今後のプロキャリアに向けての格好のアピールの場になる。
野手陣については、代表チーム常連のベテラン選手L.ウェイド(ブリスベン)が遊撃を守ることになるだろう。三塁には、オリックスでもプレーしたD.ジョージ(メルボルン)が入ることと思われる。
外野には、昨季エンゼルスで5試合に出場したA.ホワイトフィールド(メルボルン)、2019年にA級ミッドウェストリーグのオールスター戦にも出場したタイガース傘下の外野手U.ボヤルスキー(パース)ら、アメリカマイナーリーグの有望株が名を連ねている。
東京・府中で実施しているキャンプで練習試合では、社会人チーム相手に大敗を喫するなどその実力に疑問符をつける向きもあるが、スイッチのオンオフの差が激しい国民性。現在はまだまだ本番に向けて爪を研いでいる段階だ。
府中キャンプは3日で打ち上げ、それから宮崎に移動。ここでアメリカでキャンプを送っているメジャー経験者を加えた上で、さらに2試合をこなしたあと本番に臨む。
本戦では、日本と同じプールBで1次ラウンドを迎える。侍ジャパンとの対戦は3月12日。両チームにとってラウンド最終戦となるこの試合は、第2ラウンド進出をかけた大一番になる可能性が大だ。
文=阿佐智(あさ・さとし)
メンバー
<投手>
11 D.マクグラス
20 J.ガイヤー
21 T.ヴァンスティーンゼル
22 M.ニューンボーン
25 S.ケント
26 L.ウィルキンス
30 W.サーポルト
37 T.アサートン
39 B.タウンゼント
40 S.ホランド
54 L.ドーラン
55 J.ケネディ
56 W.シェリフ
59 J.オローリン
61 K.グロゴースキー
<捕手>
9 R.パーキンス
10 A.ホール
24 R.バタグリア
<内野手>
4 L.ウェイド
6 R.グレンディニング
7 D.ジョージ
15 L.スペンス
43 J.デイル
52 R.ウィングローブ
58 J.ボウイー
<外野手>
2 A.ホワイトフィールド
17 A.キャンベル
23 T.ケネリー
48 J.マカードル
60 U.ボヤルスキー