コラム 2023.03.03. 07:08

イチローに松坂、ダルビッシュが競演 伝説の09年WBCモードを搭載したエモすぎる「プロスピ6」

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2009年・第2回WBCをゲームで追体験

野球ゲームの移り変わりから見るプロ野球史~第21回:プロスピ6


 WBCとは、大人の「世界甲子園」である。

 大会を重ねるごとに各国のメンバー選考にもガチ感が増し、今大会のドミニカ共和国は“ドリームチーム”と称されるメンバーを揃えてきた。普段は長丁場のリーグ戦を戦うプロの選手たちが、負けたら明日なき戦いで捨て身の全力疾走を見せる。

 昨日までの敵が、今日の仲間になり、世界の強豪と戦う。って『ドラゴンボール』で何度も見たストーリーだ。WBCはみんな大好き『週刊少年ジャンプ』の世界観でもある。


 さて、今回は野球ゲームで、あのイチローの決勝打で日本が大会連覇を達成した伝説の第2回・WBCを追体験しよう。

 コナミから2009年7月16日発売の『プロ野球スピリッツ6』には、全16カ国の代表チームが集う「WBCモード」が搭載。パッケージ裏面にも、「感動再び。16の国と地域から好きなチームで世界の頂点を目指そう!」と本作のイチオシモードとしてパワープッシュされている。

 この時期といえば、プレステ2からプレステ3への移行期で、本作も両機種同時発売。PS3版は今では当たり前になったネット接続での最新選手データへの更新を実現させた。なお、06年のPS2ソフト発売数は339タイトル。それが09年には77タイトルにまで激減していた。 


「絶対エース」松坂大輔


 プロスピ6のパッケージには杉内俊哉(ソフトバンク)、小笠原道大(巨人)、タフィ・ローズ(オリックス)、栗原健太(広島)、岩隈久志(楽天)といった平成球界を象徴する面々。さらにはWBCベネズエラ代表のミゲル・カブレラ、現役最晩年に楽天でプレーしたアメリカ代表のケビン・ユーキリスらも登場している。

 当時は発売が7月中旬なんて、3月のWBCの興奮が冷めてるよなんて文句を言っていたのが、今となれば遅れた分、大会の選手データがしっかり反映されていて、資料価値も高い(代表に緊急合流の栗原はいないけど)。

 あの頃、買ったばかりのプレステ3で本作を遊んだ記憶があるのだが、手元にソフトが見つからなかったため、令和にプレステ2版を再購入。さっそく日本代表を選択して、WBCモードをプレイしてみたが、すでに第2回大会から14年が経過しており、そのメンバー構成はひたすらエモかった。


 日本のエース・松坂大輔の紹介は「ジャイロボール論争をも巻き起こした高速スライダーと剛球で打者を切る。舞台が大きくなるほど最高のパフォーマンスを発揮する絶対エース」。

 愛と幻想のジャイロボール論争には時代を感じるが、ストレートとHスライダーはともに球威Aとキレッキレで、Vカット、Dカーブ、Cチェンジと、先日の『報道ステーション』でダルビッシュ有が絶賛していた左右への多彩な変化球も併せ持つ。

 当時28歳の松坂は、08年にレッドソックスで18勝3敗、防御率2.90とキャリアハイの成績を残す一方で、その後の故障禍を予兆させる右肩の痛みによる離脱にも見舞われている。

 のちに股関節の違和感を抱えていたことが判明するが、09年WBCで3勝を挙げ2大会連続のMVPに輝くまでが、“平成の怪物”の全盛期と見る向きも多い。





 「野球選手の28歳最強説」は度々語られるが、松坂世代は09年春時点で年齢的に28歳(現在の大谷翔平や鈴木誠也も同じ28歳だ)とピークを迎えており、投手陣では貴重な左腕の中継ぎ役を託された杉内俊哉や、当初はクローザー候補だった藤川球児、さらには打線の中心を村田修一が担った。

 村田のゲーム内の選手説明はこうだ。

 「2007・2008年度連続本塁打王。広角に長打を放てる長打力が売りな右の大砲。男・村田と言われる豪快な性格でも知られる」

 っていや、村田さんは実は繊細で試合前はトイレで……というのは置いといて、当時の背番号25は前年46本塁打を放ち絶頂期にあった。

 本大会ではアメリカで右足太腿裏の肉離れを起こして無念のリタイアをしたもの、打率.320・2本塁打・7打点の成績を残している。





伝説、再び…


 そして、やはりこの代表チームの顔は、当時35歳のイチローだろう。

 打撃不振に苦しむも韓国との決勝戦では、延長10回表に永久に語り継がれる決勝適時打。あのシーンを、学校や会社でワンセグ携帯片手に観戦していた人も多いのではないだろうか。

 センター前へ打球が抜けた瞬間、大歓声に包まれた教室やオフィスは、まるで球場のようだった。平日昼間にもかかわらず、この試合のテレビ視聴率は最高で45.6%まで跳ね上がり、まさに“国民的行事”となったのである。

 マリナーズで当たり前のように連続200安打記録を続けていた男は、それまではクールな安打製造機のイメージも強かったが、WBCの日本代表で喜怒哀楽を前面に出して、チームを引っぱる姿が新たな人間イチロー像を確立したといっても過言ではない。

 あの天才イチローが日本に戻り懸命にプレーしてくれた。当初はそれほど注目されていなかったWBCというイベントを野球ファン以外の層に浸透させたのは、背番号51の功績も大きい。そういう意味でも、イチローは侍ジャパンプロジェクトの大功労者なのである。





 それにしても、松坂vs.ジーターを楽しめる日米決戦や、世界各国の投手たちとガッツ小笠原のフルスイングでのガチンコ対決はリアルタイムで見ていたファンにはたまらなく懐かしく、泣けるほど面白い。

 なにより、ゲーム内で「日本球界最強投手」と紹介され、準決勝から抑えに抜擢。最後は胴上げ投手になった当時22歳のダルビッシュ有が、14年後の2023年大会にも36歳のベテランメジャーリーガーとして参加している事実は感慨深い。現在21歳の佐々木朗希が35歳になり、日本代表で若い投手を誘い食事会を開いている姿を想像しただけで、胸が熱盛だ。





 ちなみに、このコラム用のゲーム画面を撮影するためにプロスピ6のソフトを起動させたら、WBCに熱中しすぎてしまい、気が付けば6時間半経過。

 日本代表を選択してチャンピオンシップモードで世界一を目指し、脳内でタツノリの「お前さんたちは本当に強いサムライになった!」を完全再現……とかやっていたら、原稿納品も1日遅れてしまった(マジすいません)。

 正直、据え置き型ゲーム機のプロスピシリーズはこのあたりで進化が止まってる気も……というのは置いといて、恐るべし、WBCの魔力だ。


 我々はいまだにイチローや松坂が凱旋帰国して日本の球場でプレーした、あの09年WBCの盛り上がりを懐かしく思い出す。

 同じように恐らく10数年後、野球ファンは2023年春に東京ドームで見た、大谷翔平やダルビッシュの勇姿を熱心に語り合うのだろう。

 伝説、再び──。“大人の世界甲子園”WBCは、来週ついに開幕する。


文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)



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