中国野球の歴史
一昨年に行われた東京五輪においてアメリカに次ぐ88個のメダルを獲得するなど、今や世界トップレベルのスポーツ大国となった中国だが、東アジアで盛んな野球においては、常に日本、韓国、台湾の「アジアビッグ3」の後塵を拝している。
東京五輪に先立ってインドネシアで行われた2018年アジア大会では、ナショナルチームの候補生をアメリカ独立リーグにチームごと送り込み強化を図ったものの、オールプロの「ドリームチーム」で臨んだ韓国、社会人トップ選手で構成された日本、プロアマ混成の若手チーム台湾から1勝も挙げることができなかった。
他の野球新興国を圧倒するものの「ビッグ3」には大きく水をあけられている、というのが中国野球の現状だろう。
この大国に野球に関する最古の記録は、1863年に上海野球クラブが創設されたというものである。
当時中国を支配していた清朝の眠りを覚まさせた欧米列強の進出は、アメリカ初のスポーツも伝えたようだ。
その後、キリスト教系団体、教育機関により大都市に野球チームができたが、野球の母国、アメリカによる「布教」はさほど浸透せず、日清戦争(1894⁻95)後の日本の勢力伸張とともに、野球の普及は進んでいった。
急速に近代化を進める日本へのある種の憧れをもった中国人留学生たちは、その日本で人気になりつつあった野球を母国に持ち帰ったのだ。
1912年の中華民国成立後も、野球は軍事訓練の一環としてプレーされ、第2次大戦後の中華人民共和国建国後もその傾向は続いたが、東西冷戦が激化する中、アメリカ生まれでなおかつ、大戦時に軍事侵攻してきた日本で人気の野球は、「敵性スポーツ」とみなされ、やがて人民の記憶からも遠ざかっていった。
WBCでは5大会連続の本戦出場
この状況が変わったのは、米中関係が改善された1970年代に入ってからのことである。
1979年には中国野球ソフトボール協会が発足。1980年代には天津、広州に本格的な球場も建設された。
1990年代から2000年にかけては、中日・オリックスがファームの遠征軍を派遣するなど、日中間の野球交流も行われるようになり、2001年に北京での夏季五輪開催が決まると、2002年には、五輪に向けた代表チーム強化を目指してトップリーグ、中国野球リーグ(CBL)が開始された。
この成果は、2008年の北京五輪本番で見事にあらわれた。結果的には、中国は出場8チーム中最下位に終わったが、格上の台湾相手に延長タイブレークの末勝利を収めたのである。
さらには、サスペンデッドゲームとなった韓国戦でも、延長11回でサヨナラ負けを喫したものの、0対1というスコアは、中国野球が着実に進歩したことを示していた。
五輪後、CBLはその規模を大幅に縮小し、中国野球は沈滞傾向に向かうが、MLBの支援の下、2019年シーズンを前に中国プロ野球(CNBL)が新たに発足。トップリーグは本格的なプロ化に舵を切った。
WBCの舞台には、中国は2006年の第1回大会から登場している。
これまでの4大会は、すべて日本と同じ組で第1ラウンドを戦ったものの、いまだ第2ラウンド出場は果たしていない。
一方で、常にグループ最下位を予想されながら、予選に回ったことも1度もなく、これまで2009年大会の台湾戦と2013年大会のブラジル戦で勝利を収めている。
前回2017年大会は3戦全敗で最下位に終わったものの、本戦出場国枠の拡大の恩恵を受けて5大会連続の本戦出場を果たしている。
初召集の真砂勇介に注目が集まる
今大会のロースターもこれまで同様、国内リーグの選手に、アメリカや日本でプレーする中国系の選手を加えた陣容になっている。
日本のファンの注目を最も集めるのが、昨年までソフトバンクでプレーしていた「ミギータ」こと真砂勇介(日立製作所)だろう。
中国生まれの両親を持つことから今回招集された。今シーズンからは社会人野球でプレーすることになっている「未完の大砲」が主軸を任されることは間違いない。
38歳のレイ・チャンは2009年から4大会連続の出場。アメリカ生まれだが、やはり両親が中国出身。
マイナーでは2016年を最後にプレーしていない彼だが、マイナー通算26発の打棒は、力強い打線の軸となるだろう。
もうひとりの「アメリカ組」であるシンガポール出身のアラン・カーターは先日エンゼルスと契約を結んだばかりのルーキーだ。
そして、もうひとりの「助っ人」は、韓国リーグで先発として昨シーズン6勝を挙げたチュ・グォン(KT)だ。
中国で生まれたが、幼少時に母の母国である韓国に渡り、現在は韓国籍をもっている。今大会ではローテーションの中心として期待される。
国内組では、CNBL初代チャンピオン、北京タイガースの強打の正捕手リ・イーファンに注目したい。
中国代表は2月20日に来日。鹿児島で開かれるプロアマ合同の交流大会「おいどんカップ」に参加し、社会人チームや独立リーグの大分B-リングスと6試合の実戦をこなし本番に臨む。
大会前の練習試合の相手をみても、同プールの日本や韓国、イタリアと比べて実力は大きく劣る。
現実的な目標は、予選なしでの次大会出場権の確保だろう。
限られた投手力を上位チームとの戦いで浪費することなく、初出場のチェコとの試合を確実に取りたい。
文=阿佐智(あさ・さとし)
メンバー
<投手>
5 ワン・ユーチェン
11 ゴン・ハイチェン
12 チー・シン
13 ワン・ウェイイー
15 イー・ジェン
17 ジャオ・フーヤン
18 スン・ハイロン
23 チェン・チャオクン
32 リン・チャン
38 A.カーター
42 ワン・シャン
58 スー・ジャンロン
59 チャン・ハオ
68 チュ・グォン
<捕手>
2 ルー・ユン
9 リ・ニン
33 チェン・チェン
69 リ・イーファン
<内野手>
7 ヤン・ジン
8 コウ・ヨンカン
19 チェン・チェン
20 ツァオ・ジエ
21 レイ・チャン
52 ルアン・チェンチェン
<外野手>
1 リュ・ユーヘン
6 リャン・ペイ
10 真砂勇介
22 ハン・シャオ
27 リャン・ロンジー
29 ルオ・ジンジュン