コラム 2023.03.05. 08:30

プールC:カナダ 「ビッグ・ブラザー」アメリカを破って、悲願の第2次ラウンド進出を狙う

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昨シーズンのナ・リーグ最多安打打者、フレディ・フリーマン(ドジャース)

カナダ野球の歴史


 北隣の野球の母国・アメリカを「ビッグ・ブラザー」と呼ぶカナダは、プロスポーツの世界では、MLBにトロント・ブルージェイズが加盟していることからわかるように、その大国・アメリカと一体化していることが多い。

 しかし、カナダ人はUSAとは異なる独自のアイデンティティに誇りを持っている。そのアイデンティティを確認する場となっているのがスポーツの国際大会で、そこには、アメリカをはじめ各地に散らばっているカナダ人選手がメープルリーフ(カナダ国旗に描かれたカエデの葉)の旗の下に集まってくる。

 アメリカと同じくイギリス植民地であったこの国にも、早い段階からヨーロッパ由来の打球技が持ち込まれていたのは間違いない。

 その打球技はやがてニューヨーク周辺でベースボールに生まれ変わるのだが、それ以前に、カナダでも5つのベースに11人制のボールゲームがアメリカで発展を遂げたゲームと同じ「ベースボール」の名で、オンタリオ州周辺で親しまれていた。それを記念して、現在この州のセントメリーズという田舎町に野球殿堂が設置されている。


 アメリカ生まれのベースボールが伝わったのは、1860年代のことと言われ、その波は20世紀を迎えるころには太平洋岸まで達した。

 そこには数多くの日本からの移民が生活を営んでおり、母国でも人気スポーツになっていた野球に親しんだ彼らは、バンクーバーに「アサヒ」と名乗る野球団を結成した。

 このチームは、1921年、日本最初のプロ球団、日本運動協会の誘いで来日を果たし、1935年には巨人の前進である大日本東京野球倶楽部の北米遠征の際に対戦もしている。

 やがてプロリーグも結成され、ケベック州に拠点を置くプロビンシャル・リーグにカラーバリアのためメジャーリーグから排除された黒人選手が集まった1930~1940年代前半には、カナダ野球は最初の黄金時代を迎える。1946年にブルックリン・ドジャースと契約した、ジャッキー・ロビンソンは、傘下のマイナーチーム、モントリオール・ロイヤルズでカラーバリア打破の第一歩を記している。


過去4大会とも「ビッグ・ブラザー」に屈する


 しかし、その後、アメリカプロ野球に飲み込まれたカナダ野球は、その地位を低下させていく。

 1969年、カナダ初のメジャーリーグ球団としてモントリオール・エクスポズがナショナルリーグに加盟、1977年にアメリカンリーグのトロント・ブルージェズがこれに続くと、カナダ野球は再び活況を呈し、1992、93年のブルージェイズがワールドシリーズ連覇によって、カナダ野球は第2の黄金時代を迎える。

 2003年には、カナダ独自のプロ野球リーグとして、8球団制のカナディアンリーグが発足するが、規模的に北米独立リーグの域を出るものではなく、衆目を集めるには至らず、シーズン半ばで休止となった。

 メジャーリーグにおいても、翌2004年シーズン限りでエクスポズがモントリオールから撤退するが、その一方で同年のアテネ五輪には「ビッグ・ブラザー」を破って出場。準決勝で日本に敗れ、メダルは逃してしまったが、4位という成績は現在もカナダ野球史上に燦然と輝いている。


 2006年に始まったWBCにはこれまで全大会に出場しているが、これまでも4大会はいずれも第1次ラウンドで敗退している。

 数多くの選手をメジャーリーグに送り込んでいるものの、トッププロが集うWBCという場では、メジャーリーガの絶対数の少なさゆえの層の薄さが露呈してしまう。

 オリンピックやプレミア12などの「メジャー抜き」の大会では健闘するが、WBCという最高峰の舞台ではなかなか「次」へ進めていない。

 過去4大会とも、アメリカと同組。唯一の地元開催となった2009年第2回大会の第1ラウンドでも、初戦の「ビッグ・ブラザー」との対戦で健闘したものの、5対6で惜しくも涙を飲むと、ここで力を出し尽くしたのか、次の格下の対イタリア戦にも負け、トロント・ロジャースセンターに集まったファンに勝利を届けられないまま、舞台から去ることになった。


投打の軸はメジャーリーガーが担うも人材不足は否めず


 今大会も、打線の核として期待されていた昨季ガーディアンズで20発のJ.ネイラーの参加が故障からのリハビリのため絶望的になり、メンバー集めに苦戦している。

 その中で、一昨年カージナルスの正左翼手として34ホーマーをマークしたT.オニール、前回大会でも4番に座った、昨季のナ・リーグ最多安打打者F.フリーマン(ドジャース)、それに昨年マリナーズで10発を放ったA.トロ(ブリュワーズ)が打線の軸になるものと思われる。

 ディフェンスの要・キャッチャーには昨季マイナーで21発を放ち、兄と同じガーディアンズでメジャーデビューを果たしたB.ネイラーが座るものと思われるが、やはり経験不足は否めない。

 一方の投手陣も人材不足は否めない。先発の軸は、昨年ガーディアンズで15勝のC.クアントリルであるのは間違いないが、彼が先発する試合で確実に星を取っておかないと、悲願の第1次ラウンド突破は難しい。

 また投手陣には、2020年までオリックスで先発を務めていたA.アルバース、2019年まで巨人に在籍していたS.マシソンも招集されている。

 勝てる試合には、彼らベテランや、昨年メジャーデビューを飾り4勝を挙げたM.ブラッシュ(マリナーズ)、メジャー通算141セーブで2011年にはナ・リーグセーブ王に輝いたベテランJ.アクスフォード(前ブリュワーズ)をつぎ込んで確実に勝利をものにしたい。


文=阿佐智(あさ・さとし)





メンバー


<投手>
6 M.ブラッシュ
20 A.ローウェン
24 R.J.フレール
25 N.スキロー
28 M.ブラット
30 C.スミス
32 E.ラッツキー
37 P.オーモン
38 B.オニシコ
39 T.ブリグデン
40 R.ザストリズニー
47 C.クアントリル
48 S.マシソン
52 I.ディアス
56 C.テイラー
63 A.アルバース
77 J.アクスフォード


<捕手>
14 K.デグラン
44 B.ネイラー


<内野手>
5 F.フリーマン
13 A.トロ
15 E.ジュリアン
39 D.パルメジアーニ
51 O.ロペス
74 J.ヤング


<外野手>
7 D.ブラウン
8 J.ロブソン
21 O.ケイシー
23 D.クラーク
27 T.オニール