コラム 2023.03.05. 09:00

プールC:イギリス 「大英帝国連合軍」で初舞台に臨む「初代野球世界チャンピオン」

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英国本土以外の出身者が多くを占めるイギリス代表

イギリス野球の歴史


 「サッカーの母国」、イングランドを中心として形成されている「連合王国」は、また「野球の母国」でもある。

 アメリカ合衆国を建国したのはもともとこの国からの移民で、野球が生まれるはるか前の18世紀に「ベースボール」なる遊びがイングランドで行われた記録が残っている。

 19世紀終わりには、アメリカ生まれのベースボール、つまり野球もこの国に伝えられた。1874年、ナショナル・アソシエーション優勝チームのボストン・レッドストッキングスがフィラデルフィア・アスレチックスを伴って遠征を行ったのが、「野球事始」だと考えられる。


 これに触発され、1890年代にはプロ野球リーグも結成された。このリーグは1シーズンで頓挫するが、その後、1930年代には統括組織である「ナショナル・ベースボール・アソシエーション」が発足し、短期間ではあるが、プロ野球が復活し、首都ロンドン周辺に加え、2つの地域で展開された。

 この時期は、英国野球の黄金時代と言え、1936年には、ベルリン五輪の公開競技出場のため結成されたアマチュアで編成されたアメリカ代表チームがその帰途、イギリスに立ち寄り、これを迎え撃ったイギリス代表が4勝1敗で勝ち越している。

 この対戦後、世界野球連盟がこのシリーズを「ワールドカップ」と認定したため、イギリスは「初代世界チャンピオン」となった。その後も、アマチュアスポーツとして野球は、それなりの地位を保ち、「ナショナル・ベースボール・アソシエーション」には600チームほどが加盟していたという。1939年には、アメリカ球界のレジェンド、ベーブ・ルースもイギリスを訪問している。

 しかし第2次大戦後、次第に野球はイギリス人の脳裏から消えてゆき、マイナースポーツとなっていく。

 それでもMLBのグローバル戦略は、再びこの国に目を向けた。ヨーロッパにおけるマーケッティングの拠点と位置付けられたイギリスに野球が帰ってきたのは1989年のことである。

 この年のバーミンガムでのメジャーリーグOBによるエキシビションゲームの後、1993年にはレッドソックスとメッツのマイナーチームが渡英。

 そして、2019年にはついにメジャーリーグの公式戦がロンドンに上陸した。

 史上初のヨーロッパでのMLB公式戦に選ばれたのは、ヤンキース対レッドソックスの2連戦。初戦には田中将大(当時ヤンキース、現楽天)がマウンドに登ったこのシリーズは両日とも満員の大盛況だった。


イギリスにルーツをもつアメリカ人20人、カナダ人1人


「第1回ワールドカップ」で優勝を果たしたイギリスだが、その実態は、「日の沈まぬ国」とも称された「大英帝国」ならではの布陣、つまりイギリス本土以外の出身者が多くを占めるものだった。

 選手の大半は、自治植民地であったカナダ出身者だったのだが、あれから1世紀近く経った現在もそれは変わらない。

 30人のロースターのうち、英国生まれの選手は、ロッキーズのルーキー級所属のピッチャーM.ピーターセンとカージナルスの2Aで14ホーマーを記録したM.コペルニアックの2人のみ。

 アメリカ生まれの両国籍所持者を含めても「イギリス人」は3人しかいない。イギリスにルーツをもつアメリカ人20人、カナダ人1人という布陣は、イスラエルと並ぶ「アメリカのサブチーム」というべきものだ。

 その中で注目すべきは、旧英領で1973年に独立したカリブ海の島国、バハマからの参加者だ。

 昨季マーリンズで60試合に出場したJ.チザムが辞退してしまったものの、近年MLBがスカウティングを活発化させているこの英国王を君主に戴く小国からは、昨シーズンナショナルズで10試合に出場したL.フォックスら7人が30人ロースターに入っている。 

 投手陣に関しては、昨年レッズで33試合に登板したI.ジボがブルペン陣の中心となるだろうが、一方の先発陣は、2011年にフィリーズで11勝した実績はあるが、昨シーズンは独立リーグで6勝9敗、防御率4.89のV.ウォーリー(ケーンカウンティ)、同じく独立リーグ最強と言われているアトランティックリーグで6勝のA.モリス(ロングアイランド)、同リーグで9勝を挙げたほか、メキシカンリーグやベネズエラウィンターリーグでもプレーしたM.ミルズ(サザンメリーランド)らに頼らざるを得ない。

 打線の方も、昨年パドレスとドジャースで80試合に出場し13ホーマーを放ったT.トンプソン以外は、マイナー下位や独立リーグの選手が中心となる。

 辛口で言わせてもらえば、すでに引退した選手までかき集めて編成した「イギリス代表」は、MLBの国際戦略を印象付けるための「名ばかり代表」にしか過ぎない。

「参加することに意義がある」レベルと言っていいだろう。第1次ラウンド初戦では、「代表選手」の多くが本来所属すべきアメリカと戦うことになっているが、メジャーの精鋭を集めたドリームチーム相手に試合になるのか、別の意味で注目を集めている。


文=阿佐智(あさ・さとし)


メンバー


<投手>
14 D.クーパー
16 C.フェルナンダー
17 T.トーマス
19 C.オップ
21 T.ビザ
22 M.ピーターセン
23 A.モリス
27 M.ミルズ
30 G.スプレイカー
32 A.ウェブ
33 I.ジボ
35 R.ロング
41 D.ベノワ
44 J.キング
49 V.ウォーリー
51 M.ロート
67 J.エッシュ
70 A.スクラブ


<捕手>
1 H.フォード
20 U.フォーブス

<内野手>
2 J.ワイリー
4 B.J.マレーJr.
5 N.ウォード
- L.フォックス

<外野手>
8 D.ノウルズ
9 A.シーモア
12 C.ヤング
15 A.クロスビー
18 M.コペルニアック
24 D.スウィーニー
43 T.トンプソン


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