コラム 2023.03.05. 23:00

プールD:ベネズエラ 最低でも「4強」…悲願の初優勝を狙うメジャー軍団

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超強力打線の軸を担うホセ・アルテューベ

ベネズエラ野球の歴史


 ベネズエラと言えば、MLBだけでなく、今年野球殿堂の表彰を受けたアレックス・ラミレス(元ヤクルトなど)に代表されるように、NPBにも多くのタレントを輩出している南米一の野球大国だ。

 サッカーの大陸・南米にありながら、野球が“国技”になっているのは、歴史的にアメリカとの密接な関係にあったことが背景にある。


 この国の「野球事始」は1890年代初めに遡る。

 アメリカからの留学経験者が持ち帰った、あるいは首都・カラカスを訪れたキューバ人が伝えたと諸説あるが、産油国であるこの国にやってきたアメリカのビジネスマンたちが普及に一役買ったことは間違いない。

 20世紀を迎えた頃には、このアメリカのボールゲームはベネズエラの人びとを虜にしていた。

 1927年にはベネズエラ野球連盟が発足し、最初のプロリーグがサマーリーグとして開始された。そして1939年には、ワシントン・セネタースと契約したアレハンドロ・カラスケルがベネズエラ人として初めてメジャーのマウンドに立っている。


多くの日本人選手がプレーしたベネズエラリーグ


 1941年秋には、アマチュアの世界大会であるワールドカップで優勝。野球熱は頂点に達した。この熱狂の波に乗って1945年末には、一旦休止していたプロリーグがウインターリーグとして再結成される。

 1949年に各国ウインターリーグのチャンピオンによる選手権・カリビアンシリーズが開始されると、ベネズエラもこれに参加。以来、自国で15回この大会を開催し、通算7回の優勝を遂げている。

 今年の大会も、カラカスに新造された球場を中心に開催。国内リーグ最多の21回目の優勝を達成し、シリーズに駒を進めたカラカス・レオーネスが決勝に進み、国民を熱狂の渦に巻き込んだが、ドミニカ代表のリセイ・ティグレスに惜しくも敗れ、準優勝に終わった。


 1990年代になると、タレント豊富なこの国へのメジャーリーグのスカウティングが積極化。1997年には、MLB傘下アカデミーのチームによるベネズエラン・サマー・リーグが発足した。

 しかし、一方で1990年代終盤の反米政権が成立に伴って政情が不安定化すると、治安や経済状況も悪化し、2016年シーズン限りでサマーリーグは活動を休止。2018年にロッテやDeNAでもプレーした元メジャーリーガーのホセ・カスティーヨらが試合からの帰途、強盗に襲われ殺害されるなどの治安悪化を受けて、カリビアンシリーズの開催返上と、ウインターリーグへのマイナーリーグを含むMLB球団契約選手の参加が禁止されるなど、ベネズエラ野球は苦境を迎える。


 それでも、これまで100人を越えるタレントをメジャーリーグに輩出し、ドミニカに次ぐ人材供給地という地位は変わらず、日本球界へも多くの助っ人を送り出している。

 逆に、2003~04年シーズンの養父鉄投手(当時ホワイトソックス傘下/元ダイエー)の参加を皮切りに、マック鈴木(元オリックス、ロイヤルズなど)や野茂英雄(元近鉄、ドジャースなど)、前川勝彦(元近鉄など)、村田透(元日本ハム)、渡辺俊介(元ロッテ)らが、これまでベネズエラリーグに挑戦している。この冬のシーズンは乙坂智(元DeNA)がマルガリータ・ブラボスでプレーした。


今大会屈指の超強力打線


 豊富な人材をバックに、現在FAやマイナー契約の者はいるものの、今大会も「オールメジャー」の布陣で臨む。

 投手陣は、昨季2ケタ勝利を挙げたL.ガルシア(アストロズ)とM.ペレス(レンジャーズ)、P.ロペス(ツインズ)、R.スアレス(フィリーズ)が先発陣を形成。

 ブルペン陣には、A.マチャド(ナショナルズ)、J.キハダ(エンゼルス)、J.ルイーズ(ホワイトソックス)らが控えている。クローザーは昨季22ホールドのJ.アルバラード(フィリーズ)が務めるものと思われる。


 投手陣を束ねる正捕手には、22本塁打のS.ペレス(ロイヤルズ)が座るものと思われ、打線に穴はない。彼を含め、昨季20本塁打以上の打者が6人、15本塁打以上の選手だけでスタメンが組める打線は、他国にとって脅威でしかないだろう。

 クリーンナップには、パンチ力とコンタクト力を兼ね備えたJ.アルトゥーベ(アストロズ)、メンバー中最多の33本塁打を放ったA.サンタンダー(オリオールズ)、メジャー通算98本塁打のG.トーレス(ヤンキース)で形成か。

 31本塁打ながら打率.236、196三振と穴の多いE.スアレス(マリナーズ)が6番あたりに座ると、非常に怖い打線となる。さらに17本塁打のA.ヒメネス(ガーディアンス)や、ツインズで打率.316、173安打のL.アラエス(マーリンズ)らも控える打線は贅沢以外のなにものでもない。


 ベネズエラは、マイアミで行われるプールDで1次ラウンドを迎える。ドミニカ、プエルトリコという強豪が集うこのプールは、今大会屈指の「死の組」と言っていい。

 ニカラグアとイスラエルも参加するものの、2次ラウンドへの2つの椅子は「カリビアンシリーズ組」の3チームで争うことになるだろう。先のカリビアンシリーズでは、ベネズエラは予選リーグを2位で通過しながら、4位のドミニカに地元優勝を阻まれている。目指すはドミニカを破っての1位通過だ。


文=阿佐智(あさ・さとし)





メンバー


<投手>
43 C.ヘルナンデス
44 J.ルザルド
45 J.チャシーン
46 J.アルバラード
49 P.ロペス
54 M.ペレス
55 R.スアレス
56 S.ブラチョ
57 E.ロドリゲス
59 A.マチャド
60 D.ヘルナンデス
65 J.キハダ
66 J.ルイーズ
77 L.ガルシア


<捕手>
13 S.ペレス
16 O.ナルバエス
28 R.チリノス


<内野手>
0 A.ヒメネス
1 L.レンヒフォ
2 L.アラエス
7 E.スアレス
10 E.エスコバー
14 G.トーレス
15 H.ペレス
27 J.アルトゥーベ


<外野手>
6 D.ペラルタ
25 A.サンタンダー
42 R.アクーニャJr.
24 M.カブレラ



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