ドミニカ野球の歴史
いまやメジャーリーガーの3分の1はアメリカ以外の国出身だという。彼ら“外国人選手”の4割近くを占めるのが、カリブ海に浮かぶエスパニョーラ島の東半分を占めるドミニカ共和国出身者だ。
メジャーリーガーに加え、1000人近くのマイナーリーガー、そして日本のNPBをはじめとする世界各地のリーグへ人材を送り込んでいるこの国は、「世界の野球選手製造工場」とも称される。
この国に野球が持ち込まれたのは、キューバからのようだ。キューバ駐在のアメリカ人海兵、もしくはキューバ人によって伝えられたボールゲームは、19世紀の終わりには、サトウキビ畑で働いていた労働者の間で愛好されるようになった。
1907年には、最初のプロ球団としてリセイ・ティグレスが誕生している。このチームに続いて、サンペドロ・デ・マコリスにオリエンタレス・エストレージャスが、首都のサントドミンゴにはエスコヒード・レオーネスが誕生。これら3チームによるプロリーグは1922年に開始された。
しかし、アメリカの占領下という立場は、アメリカ経済の影響をもろに受けることとなり、1929年に大恐慌が起きると、ドミニカリーグは中断に追い込まれてしまう。
リーグは1936年に復活するが、30年の長きに渡り独裁体制を築いたトルヒーヨ大統領が国民の歓心を買うべく野球を利用しようと、この新リーグに介入。アメリカから選手の引抜きを行ったが、すぐに財政破綻を起こし、またもやプロリーグは休止に追い込まれた。
2度目の休止からプロ野球が立ち直るのは、1951年のことである。
アメリカプロ野球と同時期の夏季リーグとして行われていた1954年までの4シーズン、キューバをはじめとする周辺諸国から好選手が集まったドミニカリーグは、中南米カリブ地域の野球の中心的存在となった。
ところが、1954年にドミニカリーグとMLBとの協定により、リーグはウインターリーグとして開催されるようになり、それからドミニカはアメリカへのタレント流出に悩まされるようになる。
そして1976年にMLBでフリーエージェント制が導入され、選手報酬が高騰すると、メジャーリーガーがウインターリーグでプレーすることは次第になくなってゆく。
一方のMLBは、ウインターリーグを経験の浅い若手選手の育成の場として利用するようになり、1980年代になるとドミニカ人選手の青田刈りの場として、MLB各球団の野球アカデミーが次々と開設された。
「ラテンアメリカの雄」
それでもなお、ドミニカは「ラテンアメリカの雄」として君臨し続けている。
中南米カリブ地域のウインターリーグチャンピオンが集うカリビアンシリーズでは、ドミニカは最多の22回の優勝を誇っている。2月に行われた今年の大会でも、名門リセイ・ティグレスがチーム別で最多の11度目の優勝を飾った。
そんな“野球大国”として知られるドミニカだが、ナショナルチームによる国際大会の場では長らく目立った成績は残していなかった。ワールドカップでの優勝は、1948年まで遡らなければならない。
五輪の舞台では、公開競技として初めてトーナメントが行われた1984年・ロサンゼルス大会に出場を果たしたが、これは東西冷戦のあおりを受けて出場をボイコットした“アマチュアの雄”ことキューバの代替出場であった。
しかし、高校世代になれば有望選手はMLBとプロ契約を結ぶという野球事情の結果、アマチュアトップ層が無きに等しいこの国のナショナルチームは、4チームによる予選リーグ全敗に終わっている。
そして正式種目として初めて採用された1992年・バルセロナ大会にも出場したが、この時も8チーム中6位で予選リーグ敗退に終わっている。
それでも、プロ主体のWBCが2006年に開始されると、ドミニカは国際舞台の主役に躍り出るようになった。
第1回大会では準決勝進出。そして2013年、第3回大会ではついに世界一の栄冠を手にしている。8戦全勝のこの大会のナショナルチームは、今なお「史上最強」の呼び声が高い。
直前で辞退者も優勝候補は揺るがず
今大会の陣容も、2013年のチームにひけをとらない豪華なものだ。
W.ゲレロJr.(ブルージェイズ)がオープン戦で膝を故障したため、ここに来て出場辞退を発表したのは大きな衝撃だが、それでもM.マチャドとJ.ソトのパドレスコンビを擁する打線は今大会屈指の破壊力を誇る。
一方の投手陣も、昨季アストロズで17勝を挙げたF.バルデスら有力選手の辞退があったものの、サイヤング賞投手S.アルカンタラ(マーリンズ)に11勝のC.ハビエル(アストロズ)など、駒は揃っている。投打とも充実した戦力は、アメリカと並ぶ優勝候補筆頭と言っていいだろう。
ドミニカは、マイアミで行われるプールDで1次ラウンドを迎える。このプールにはニカラグア、イスラエルのほか、2月初旬にカリビアンシリーズでウインターリーグの覇権を争ったベネズエラとプエルトリコが入っている。
カリビアンシリーズでは、ドミニカがここ5年で3回の優勝を飾った。勢いそのままに、WBCの舞台でも「野球選手製造工場」の実力を発揮することだろう。
文=阿佐智(あさ・さとし)
メンバー
<投手>
20 S.アルカンタラ
47 J.クエト
48 R.モンテロ
50 H.ネリス
52 B.アブレイユ
53 C.ハビエル
59 R.コントレラス
63 D.カスティーヨ
66 L.ガルシア
75 C.ドバル
76 J.ガルシア
92 G.カブレラ
93 Y.ガルシア
<捕手>
21 F.メヒア
35 G.サンチェス
<内野手>
1 W.アダメス
2 J.セグラ
3 J.ペーニャ
4 K.マルテ
5 W.フランコ
11 R.デバース
13 M.マチャド
24 R.カノー
- J.キャンデラリオ
<外野手>
22 J.ソト
37 T.ヘルナンデス
44 J.ロドリゲス
74 E.ヒメネス
<指名打者>
23 N.クルーズ