指揮官を唸らせた気迫の投球
侍斬りの向こう側に、“開幕投手”の指名が待っていた。
中日・小笠原慎之介が3月3日に行われた侍ジャパンとの壮行試合(バンテリン)に先発。5イニングを3安打・1失点に抑える好投を見せ、自己最速タイとなる152キロもマークした。
「確実に成長を感じます。きょうのピッチングを見て、今年は小笠原にしようと本人にも伝えました。開幕は小笠原でいきます」とは、試合後の立浪和義監督の声。
開幕戦となる3.31巨人戦(東京ドーム)の先発を明言した。
「頑張れよ 見とくからな」
小笠原にとって、日の丸戦士とのゲームは“万全の姿を見せる場所”だった。
2年連続で規定投球回に到達し、初の2ケタ勝利の看板を背負って臨む2023年シーズン。
「チームの顔としての開幕投手になりたいです」
希望を公言して自主トレに臨み、実戦を重ね、巨倒のチャレンジ権を手にした。
活躍を届けたいチームメートがいる。チームメートの岡田俊哉だ。
左腕は2月22日に行われた楽天との練習試合(北谷)に登板し、転倒。右大腿(だいたい)骨を骨折した。翌23日にメスを入れ、大腿(だいたい)骨骨幹部整復固定術を受けていた。
アクシデントから一夜明けた朝、小笠原は岡田から連絡を受け取っている。午前5時50分。小笠原のもとにLINEのメッセージが届いた。
「頑張れよ 見とくからな」
寝起きの左腕へ、寝付けない岡田からの連絡だった。
小笠原は「絶対に戻ってきてください」と返信した。ベッドの上の岡田からは「時間がかかるかもしれないけれど、頑張るわ」と来た。
責任をきっちり果たし、誰かの思いも背負って…
その日、小笠原は阪神との練習試合(アグレスタジアム北谷)に先発した。
塩が盛られ、酒で清められたマウンドに上がって3イニングを2失点。
「ピッチングに専念しようと思いました」
ただ、チームメートの大ケガから時間がたっていない。まして、岡田の転倒の瞬間を見ていた。
「聞いた事のない音がしました。ただことじゃないと思いました」
初回先頭の近本光司にストレートの四球を与えて、いったんマウンド後方でスパイクの土を払う。
まっさらなマウンドに立つ立場として、メンタルを整えたはずでも、制球が定まらない。グラウンドには、岡田のアクシデントの余韻が残っていた。
それでも、一死一・三塁で大山悠輔を遊ゴロ併殺に仕留めてピンチを脱出。2回も先頭に四球を与え、東海大相模高の後輩でもあるドラ1・森下翔太に三塁線を破る適時二塁打を放たれるなど2失点した。
試合後は「ボール自体にネガティブな部分はありません。今の体の状態を確かめられました。(年明けの米国自主トレで習得した)ツーシームも投げられました。次に向かってまた調整していきます」と語った。
岡田は3月3日、沖縄県うるま市の病院から名古屋市内の病院へと転院。小笠原が開幕投手を指揮官から告げられた日と重なった。両投手は同じ高卒ドラ1。入団から数年間は思うような結果を出せず、もがいた時期も重なる。
大きな期待を受け、責任をきっちり果たし、誰かの思いも背負う。それこそが近未来エースへの道のり。
竜を背負って立つには、荷物は大きくなるばかり。小笠原はすべてを受け止め、背負いこんで大きくなる。
文=川本光憲(中日スポーツ・ドラゴンズ担当)