コラム 2023.03.10. 07:30

大谷が高める侍ジャパンの商品価値【2023年版 大谷翔平 大研究】

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侍ジャパン・大谷翔平

第2回:侍ジャパンにもたらした“大谷効果”


 WBCの東京ラウンドが9日開幕した。侍ジャパンは初戦で中国と対戦、早速、二刀流・大谷翔平選手のワンマンショーで初陣を飾った。

 「三番・投手」で出場した大谷は、投手で4回を1安打5奪三振の無失点で責任を果たすと、打っては左翼フェンス直撃の2点二塁打。塁上を賑わしても中々得点にならないもどかしいゲームを個の力でねじ伏せた。

 直近の米国内の専門家11人による優勝予想では、日本がドミニカ共和国と並んでトップ。以前の同様な調査では、米国とドミニカに次いで3位と予想されていたが、米国ではエース格のクレイトン・カーショー投手が出場辞退に追い込まれる一方で、強化試合での日本の安定した戦いぶりが評価を押し上げたようだ。

 MVP予想では、米国内でも大谷翔平選手を上げる声が多い。

 本大会直前に行われた阪神との強化試合では「膝つきアーチ」に、バットを折りながらバックスクリーン横に連続本塁打。野球の母国でも驚きの声が上がった。投げて、打っての二刀流が完結した時、23年のWBCは「大谷による、大谷のための大会」として記録にも記憶にも残るだろう。


 野球の世界一決定戦であるWBCには、もう一つの顔がある。

 メジャーのスカウトが「第二のダルビッシュ」や「ネクスト大谷」の逸材をチェックする選手の品評会の側面だ。世界各国の有力選手が一堂に集って、覇を競うのだから、これほど実力を見極めるのにふさわしい場もない。

 中でも、日本選手の注目度は年々上がっている。

 2月の侍ジャパン強化合宿には、ドジャースのアンドルー・フリードマン編成本部長以下4人のスタッフが大挙して来日、侍戦士に熱い視線を送った。例年なら米国内のキャンプを視察している時期に、脚を運んだのはそれだけ、日本に好素材が揃っているからだ。

 同本部長は山本由伸、村上宗隆、佐々木朗希各選手らを高く評価しながら、今オフにもポスティングシステムによるメジャー移籍が確実視されている山本に対しては「ものすごく才能のある選手。正式にポスティングが決まったら、迎え入れられる準備をしています」と本音を明かしている。

 若い村上や佐々木朗が、メジャー挑戦するのは、まだ先の話だが多くの球団では日本に駐在スカウトを置きチェックを欠かさない。今や日本選手は“宝の山”の認識なのだ。


日本人への評価を一変させた大谷の存在


 2000年代初頭の頃、野茂英雄やイチローがメジャーで活躍しても、米球界との差は大きく、誰もがメジャーを目指せる時代ではなかった。だが、近年はその差が少なくなり、大谷の二刀流が日本人選手に対するマイナスイメージを決定的に払しょくしたと言っていいだろう。

 侍ジャパンに初めて日系外国人として招集されたラーズ・ヌートバー選手(カージナルス)が興味深い見方を語っている。

「かつては日本人プレーヤーと言えば、ピッチャーの評価が高かったが、今ではフィールドプレーヤーでも活躍する選手が出てきた。もう、メジャーリーガーとの差はほとんどないよ」

 日本人野手と言えば、総じて非力でパワー不足と評価されてきた。だが、ここでも大谷の存在が日本人に対する見方を一変させた。大谷が例外中の例外としても日本選手がパワーでもメジャーリーガーのトップクラスに立っていると言う事実は大きい。ベーブルース以来「100年に1人の存在」と称される二刀流は、これまでの概念まで変えてしまったのだ。

 今や、日本代表だけでなく、将来のメジャー挑戦を視野に入れている選手は少なくない。ダルビッシュの「投球教室」に各投手が目の色を変え、大谷の打撃練習には野球少年のような憧れの視線を送る。

 最新機器を使った練習法、ウェートトレーニングの必要性、栄養面でもストイックなまでに管理する日常生活。侍ジャパンにもたらした“大谷効果”は計り知れない。

 大谷が日本人選手の商品価値を高め、それに続く選手たちもまた当然のようにメジャーへの挑戦を隠さない。

 WBCの第1回大会(2006年)を契機に、出場した松坂大輔、黒田博樹、上原浩治、福留孝介、青木宣親らは、その後こぞって米国に渡り腕を磨いた。その後もダルビッシュや田中将大、鈴木誠也らが続く。他国の選手と戦って肌で感じるものがあるからメジャーへの意欲が増すのだろう。

 苦しみながらも初戦を白星発進。史上最強と目される栗山ジャパンの着地点はどこに落ち着くのか?

 一足早く「世界一の選手」の称号を手に入れた大谷が中心にいる。負けられない2週間が始まった。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)
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