「チャンスなのでしっかりつかみたい」
焦ることなく、地道にステップを踏んできた男が、逆転での開幕ローテーション入りをつかんだ。
3月25日、タイガースの秋山拓巳が京セラドームで勝負のマウンドを迎えた。オリックス戦は自身にとってのオープン戦初先発。伊藤将司の離脱で巡ってきた千載一遇のチャンスだった。
過去3度、2021年までは2年連続で2ケタ勝利をマークしている右腕だが、今春は先発枠の争いになかなか加われなかった。
2018年に手術した右膝の状態が昨季は思わしくなく、今キャンプは二軍スタート。西純矢や才木浩人など、岡田彰布監督をうならせる若手がアピールを続ける中、秋山はペースを乱すことなくじっくりと状態を上げてきていた。
それでも、キャンプ終了時でもまだ調整過程。二軍の実戦でもまだ思うようなボールは投げられないでいた。
風向きが変わったのは、3月中旬のこと。左のエース格で、開幕2戦目での先発が決定的だった伊藤が左肩の違和感を訴え、予定していた3月11日のオープン戦登板を緊急回避した。
その同日、二軍の教育リーグで今春最長の8回を投げて零封していたのが、秋山だった。
タイガースの投手陣は層が厚い。伊藤将の穴が他のスタッフで埋まらないことはなく、本人としては万全を期すため、シーズン中の再昇格も視野に入っていたかもしれない。
それでも、一軍首脳陣からの緊急招集に「チャンスなのでしっかりつかみたい」と決意をにじませた。昇格後初登板となった19日のヤクルト戦では、2番手で3回2安打・無失点の好投。ただ、岡田監督は「まだ決められへん」と明言を避け、このオリックス戦が“追試”の意味合いを持っていた。
勝ち取った“開幕2戦目”
「力む部分もありましたけど……」
高い制球力を誇る右腕に、珍しく逆球が目立った。それでも、4月で32歳になる14年目はそのまま崩れることはない。
「自分なりにどうしたら良くなるかみたいな、対バッターに前向きに投げにいけたので。逆球もありましたけど良い結果になったのかなと」
4回2安打・無失点の快投には意地がつまっていた。試合後、岡田監督は「丁寧に投げてな。(開幕)2つ目は秋山でいこうと思う」と開幕ローテーション入りを明言した。
「(他のライバルに)ポジションを与えないようにしがみついていきたい」
昨年は右膝の不調で1勝に終わっているだけに、秋山は安堵することなく競争の継続を覚悟していた。
伊藤将も重症ではなく、復帰は遠くない。オープン戦で結果を残した村上頌樹や、新助っ人のブライアン・ケラーも二軍で控える。
ローテーションに入ったからといって、立場が安泰ではないことは誰よりも分かっている。
「しがみつく」という言葉で始まる逆襲の1年。立ち位置が定まるのはまだまだ先になる。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)