はっきりしない“不振の原因”
もがき苦しんでいた。失意の試合後、背番号36は何度も「分からないです」と口にした。
「(打たれた原因は)分からないです。分かったつもりだったんですけど、分かってなかったです」。タイガースの浜地真澄にとって、浮上のきっかけをつかむ“ラストチャンス”だった。
11日のジャイアンツ戦(東京ドーム)は3点リードされた8回のマウンドが出番だった。
開幕から勝ちパターンの一員として期待をかけられるも、直近2試合は連続失点中。岡田彰布監督は重圧のかからない劣勢での起用を「立ち直るにはええ点差言うたらおかしいけどな」と意図を説明。成功体験を積み重ねながら復調させる狙いだった。
だが、指揮官の思惑とは裏腹に右腕はジャイアンツ打線の餌食になった。
中田翔、大城卓三にそれぞれ2ランを浴びて4失点。一死しか取るこができず、ジェレミー・ビーズリーの救援をあおぐ形で降板となった。
被弾したのは、いずれもストレート。球種が多い方ではない浜地の生命線でもあり、昨季52試合に登板して防御率1.14と飛躍したのはこの“勝負球”があってこそだった。
この夜も最速は149キロで常時140キロ台後半を計測しており、球速に極端な低下が見られるわけではない。「分からない」という言葉に、不振の原因がはっきりとしていないような苦悩が浮かんだ。
「リフレッシュして出直します」
進化を試みたからこそ、はまった落とし穴だったのかもしれない。
昨季途中から投球フォームの改良を視野に入れており、シーズンオフには米国のトレーニング施設『ドライブラインベースボール』を訪問。細かな動作をデジタルで記録できる「モーションキャプチャ」と呼ばれる技術を駆使して分析を試みた。
「やっていく方向性は見つかった」とすぐに新フォームに着手。今春キャンプでも継続して取り組んできた。
ただ、一朝一夕で会得できるものでもなく、2月・3月の実戦では納得できる結果と内容は手にできず、開幕前には従来のフォームに“原点回帰”。挑戦は一旦、封印してシーズンを迎えていた。
不調が新フォーム挑戦に起因しているかは分からない。ただ、「なかなか状態が上がってこない」と本人も異変を自覚していたのは確かだ。
出場選手登録抹消が決まった12日、練習を終えた浜地に岡田監督が声をかけて話し込んだ。
「監督にも気づいた点を指摘してもらった。僕からは力になれずすいません、と言いました。リフレッシュして出直します」
浜地は入団以来、プロアマ問わずYouTubeなどからも知見を集めて自身のアップデートを欠かさない。むやみやたらに取り入れることもなく、取捨選択もできるチーム随一の研究家だ。
この窮地に、どうのようにアプローチして復調を図るのか。この壁を乗り越えれば、新境地が見えてくるはず。今度こそ進化した姿で帰ってくる。
文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)