第3回:予想外の開幕ダッシュを決めた西武の強さの根源とは
西武ファンならずとも、あっと驚く滑り出しだろう。
18、19日と行われたソフトバンクとの2連戦に連勝。気がつけば、両リーグで10勝一番乗り。首位を行くソフトバンクにゲーム差なしと迫った。
驚くべきは、その陣容だ。
開幕時に主将の源田壮亮はWBCで右手小指骨折のため、ベンチを外れる。
9日には不動の4番・山川穂高が下半身の張りを訴えてリタイア。投手陣では昨年の新人王で、中継ぎエースの水上由伸がコンディショニング不良で登録を抹消される。もっと言えば去年までチームの顔だった森友哉はオリックスに移籍したためいない。打線の中軸を担う2、3、4番が不在で、打順すら固定できない不安要素を抱えて、松井稼頭央新監督は初陣に臨まなければならなかった。
開幕カードのオリックス相手にいきなり連敗。貧弱な打線は、それでもへこたれなかった。山川の代役として4番に座った中村剛也が好調をキープ。ルーキーの児玉亮涼が溌剌プレーで源田の穴をカバーしている。外国人のマーク・ペイトンとデビット・マキノンは低率ながら、2人併せて5本塁打、19打点と意外性で貢献。愛斗が1番に定着すると、3番の外崎修汰は4本塁打と長打力を発揮して主役不在の穴を埋めている。
19日現在(以下同じ)、チーム打率.242はリーグ3位、15本塁打は巨人と並ぶ両リーグトップ。昨年の本塁打王・山川不在でこの数字だから不思議な快進撃と言えるだろう。
開幕前から、投手陣の充実は評価されていた。
髙橋光成、今井達也、ディートリック・エンス、松本航の先発四本柱に今季からは中継ぎエースの平良海馬が加わる。そこに19日ソフトバンク戦では2年目の隅田知一郎が、昨年から続く12連敗を脱出して初勝利。勝ち星の期待出来る6人で回すローテーションは安定度も群を抜いている。
計画的な育成力と今も息づく「根本イズム」
「投高打低」。戦前の下馬評は低くても、それをはね返す強さが西武にはある。
無敵を誇った1980年代から90年代中盤までの黄金期を過ぎると、石毛宏典、秋山幸二、清原和博、工藤公康らスター選手が相次いでチームを去っていった。近年では菊池雄星や秋山翔吾らの看板選手がメジャー挑戦。そのたびに弱体化がささやかれた。“流失の歴史”を繰り返しながら、それでも2000年以降に最下位に沈んだのは一度しかない。
では、この「二枚腰の強さ」の要因はどこにあるのか?
ある球団関係者はチーム作りの妙を指摘する。
辻発彦前監督時代の18、19年とリーグ連覇を果たすが、当時は「打高投低」のチームだった。すると渡辺久信GM以下のスタッフは投手強化に舵を切る。そこで撒いた種が髙橋であり、今井だ。長期的な視点でチーム強化を図るのはどの球団も同じだが、好素材を見つけ、計画的に育成するノウハウは西武ならではの物がある。
加えて、この球団には「根本イズム」と言っていいレガシーが今でも息づいている。
根本陸夫とは球団創設期の初代監督にして、その後は育成部長としてフロント入りすると“球界一の寝業師”と言われた仕事人。目先の勝負だけでなく、5年先、10年先のチーム作りに心を配ってきた。常にファームにも足を運び、次世代のレオ戦士育成に目を光らせる。こうした土壌があるから、スター選手が抜けても代役が穴を埋めることが出来る。
昨年の西武の戦いを振り返ると、7月から一度は首位に立つも、オリックス、ソフトバンクとの激しいデッドヒートに敗れ、3位に終わった。今季はどこまで走れるか未知数だが、昨年以上に充実する投手陣があれば、ズルズルと後退することは考えにくい。
新生・松井西武がキャッチフレーズに掲げたのは“走魂”である。全員でグラウンドを駆け回るスピード野球を標榜する。
主力の不在はピンチに違いないが、チーム内の競争が激化することで思わぬ化学反応を起こすケースもある。
不思議な進撃が必然に変わった時、新監督“第2章“の幕が開ける。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)