白球つれづれ2023~第17回・メジャー挑戦も4連敗の現実。藤浪は未完の大器のまま終わってしまうのか
日本時間(以下同じ)24日のメジャーリーグはさながら「日本人デー」となった。
大谷翔平選手(エンゼルス)が5号本塁打を放てば、不振に苦しんでいた吉田正尚選手(レッドソックス)は1イニングに満塁弾を含む2発の大爆発。そしてダルビッシュ有投手(パドレス)も待望の今季初勝利をマークした。
この日が、日本人メジャーリーガーの「光」だとすれば、前日の23日に「影」を作ってしまったのは今季からアスレチックスに移籍した藤浪晋太郎投手だ。
今季4度目の先発となったレンジャーズ戦で3回と持たずに8失点KOで4連敗。防御率は実に14.40と最悪の数字が並んだ。
これにはマーク・コッツェー監督も「もう一度、評価し直して決める」と先発ローテーションのはく奪を示唆。地元紙をはじめ各マスコミまで「今季最悪の契約」と酷評した。
成績もひどいが、問題とすべきはその投球内容だろう。
初回先頭打者から、ストレートが顔面近くに。球速こそ、自己最速の100.6マイル(約162キロ)を記録するが、制球は定まらないまま1死球に2暴投。あわや乱闘騒ぎまで引き起こして、苦し紛れに投じる変化球を狙い打たれては弁解の余地もない。
今オフに、念願のメジャー挑戦の夢を叶えた。
阪神時代の年俸4900万円が、出来高を含めて425万ドル(約5億7300万円)まで跳ね上がる。弱体のチーム再建の期待を託されて、先発ローテの一角も任された。
しかし、レンジャーズ戦の投球には、かつての“悪夢”まで蘇る。
阪神時代の2016年頃から、突如制球が乱れ、すっぽ抜けた内角球が右打者への死球となる。翌年には各チームとも「危ない」と言う理由から、藤浪登板時には左打者の先発オーダーが増えたほど。制球の定まらない投球には「イップス説」が流れた。
阪神時代の10年間で57勝を稼いだ右腕も18年以降の直近5年間では12勝16敗、暴投は22個の多さを数えている。それでもアスレチックスが獲得に踏み切ったのは「一皮むければ、大化けも」と言う期待と、近年の日本人投手のレベルの高さがあったからだ。
今でも藤浪のストレートは、一級品の素材かも知れない。だが、結果を求めるあまりに投球のバランスを欠く技術面に加えて、自信を失う心理面まで抱えてはメジャーで通用するはずもない。このままでは中継ぎ転向か、マイナーへの降格まで現実味を帯びてくる。
失った信頼を自らの力で取り戻せるか
日本人メジャーリーガーの歴史を振り返ると、無残に夢破れた男たちもいる。代表格として、語り継がれるのは元ヤンキースの井川慶投手だ。
こちらも元阪神のエースとして、破格の待遇で名門球団に入団したが2007年から11年まで在籍するものの、メジャーでの成績は2勝4敗。1年目からマイナー降格を宣告されるなど、大半が3Aで辛酸をなめた。
ニューヨークは、活躍すればもてはやされるが、悪ければ批判の嵐にさらされる土地柄、今でも「ヤンキース史上最悪の契約」として、その名が記されている。
今季、メジャーに挑戦する日本人は藤浪を含めて3人。
メッツに入団した千賀滉大投手は開幕から3連勝して「お化けフォーク」はファンの心を掴んでいる。吉田は前述の通り、苦しみながらもレッドソックスのレギュラーとして活躍している。それだけに藤浪だけが出遅れた感は否めない。
メジャー最弱と言われるほど不振にあえぐアスレチックスの中でも“お荷物”扱いされ出した。一度失った信頼を取り戻すには、並大抵の努力では足りない。
甲子園の優勝投手として、プロ入り同期の大谷翔平とは常に比較されてきた。その大谷は「光」どころか、別惑星からやってきた超人ともてはやされる。「影」に回った藤浪は未完の大器のまま、終わるのか?
メジャー行きを決断した時には一部で「無謀な挑戦」とも言われた。
それにつけても、藤浪の意地が見たい。汚名を晴らすのもまた、その右腕でしかない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)