白球つれづれ2023~第18回・年俸調査結果から見える楽天の“年棒格差”
石井楽天が開幕から苦しんでいる。
4月終了時点(以下同じ)で9勝14敗の5位。首位を行くオリックス、ロッテとは4.5ゲーム差だから悲観するほどではないが、振り向けば最下位の日本ハムとは1差、何とも重苦しいスタートだ。
部門別で見ると、チーム防御率3.55はリーグ5位に、同打率.205はリーグワースト。笛吹けど踊らぬチーム状態には石井一久監督も頭が痛い。
そんな折、もう一つのワースト記録が日本プロ野球選手会から発表された。
先月24日に明らかになったのは23年度の年俸調査結果である。
外国人選手など一部を除く開幕時の支配下登録選手、12球団714人が対象。球団別では1位が巨人(平均6807万円)、2位・ソフトバンク(同6763万円)に次いで3位に5353万円でランクインした楽天だが、中身が問題視されている。
全選手の中間値を見ると、ソフトバンクやDeNAが2000万円でトップに対して、楽天は1050万円で何と最下位。さらに同時に行われた、契約更改時の満足度調査でもトップの阪神選手は60%が「大いに満足」もしくは「満足」と答えているのに対して、楽天はここでも24.19%で12球団ワーストの結果に終わっている。これだけを見れば7割超の楽天選手が何らかの不満を抱えていることになる。
数字の「からくり」を説明するのは比較的やさしい。
楽天には野手で浅村栄斗選手が推定年俸(以下同じ)5億円、投手で田中将大が4億7500万円と高額選手が多い。
ちなみに全選手のトップは山本由伸投手の6億5000万円で、浅村が5位タイ、田中将は9位にランクイン。この程度は驚くに値しないが、ベスト30位まで見て来ると則本昂大投手が3億円に、岸孝之投手と松井裕樹投手が揃って2億5000万円と高給取りがズラリ。球団の年俸総額が33億7250万円に対して、5選手の合計は17億7500万円。実に半額近くが彼らに集中しているのがわかる。したがって、全選手の中間値は下がり、満足度も低くなるわけだ。
選手会側では「契約更改時に、お互いの理解度を深める話し合いがもっと必要」と注文を出しているが、おいそれと解決できる問題でもない。
問題は現時点で浅村は打撃不振で苦しみ、則本や岸は未だに未勝利。チームの顔がこの体たらくでは上昇機運も見つけられない。浅村が今年で33歳を迎えれば、岸に至っては39歳で田中将も35歳。年齢的に衰えが忍び寄ってもおかしくはない。
外部から獲得する選手に高額を払う分、身内に厳しくなる
楽天は2005年に創設された12球団で最も新しい球団である。
前年に吹き荒れた球界再編問題で、当時の近鉄がオリックスと合併することで事実上消滅。一時は1リーグ制まで議論されたが、楽天が名乗り出ることで2リーグ制は維持された。
この時に行われた「分配ドラフト」によって40選手の移籍は決まったが、これだけで戦える集団となれるわけではない。初年度は38勝97敗1分けの記録的大敗。ここから楽天の有力選手獲得の戦いが始まる。
石井監督自身も西武から移籍組だが岸や浅村も西武出身。他にも松井稼頭央(現西武監督)細川亨、牧田和久、涌井秀章、炭谷銀仁朗ら元ライオンズ勢の多くが移籍したため、一時は「楽天ライオンズ」の陰口が叩かれたほどだ。
球界の新参軍団には、生え抜きの指導者や有力選手も少ない。本社にも球団経営のプロがいない。
そんな中で2015年には三木谷浩史オーナーの現場介入が問題となった。打順や一、二軍の入れ替え選手まで指示したと言われる同オーナーに対して当時の田代富雄打撃コーチ(現DeNA巡回打撃コーチ)がシーズン途中で退団している。2013年には東北大震災から復興を勇気づける日本一に輝いたが、名将・星野仙一監督が健康上の理由で辞任後は、大半をBクラスで終えている。
表現は悪いが、「寄せ集め集団」だけに、外部から獲得する選手に高額を払う分、身内に厳しくなる。星野や野村克也と言った個性豊かな大物監督の時は独自の色も出せたが、カリスマ指導者がいなくなって、チームを強固にまとめ上げるのは歴史が浅い分だけ、他球団以上に難しい。
昨年の楽天は5月10日時点で最大貯金18を数えて首位を独走した。しかし、夏を前に大失速。終わってみればBクラス(4位)に転落している。
自らGM職を解き、指揮官一本で勝負する石井監督にとっても退路を断った勝負の年。昨年とは逆に夏に向けて大逆襲となるのか。
外部からの雑音は、さておいて白星以上の“良薬”はない。今度はファンの満足度を上げてもらいたいものである。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)