抜群の安定感でチームを支える左腕
ゴールデンウィークも終わり、気が付けばドラフト会議まで半年を切った。2023年は現時点でも“大豊作イヤー”として、多くのドラフト候補たちが各地でアピールを見せている。
なかでも、大学生の投手には有力候補が多い。特に東洋大の細野晴希(東亜学園)や青山学院大の常廣羽也斗(大分舞鶴)、中央大の西舘勇陽(花巻東)といった東都大学野球に所属する3人は高い評価を受けている。
しかし、ここは“戦国東都”。同リーグには一部・二部を問わず、実力のある投手が多くいる。今回は東都大学野球で評価を高めている注目選手について、4回に分けて紹介していきたい。今回取り上げるのは、国学院大の大型左腕・武内夏暉(八幡南)だ。
▼ 武内夏暉(国学院大)
・投手
・185センチ/90キロ
・左投左打
・八幡南
<主な球種と球速帯>
ストレート:141~149キロ
カーブ:108~112キロ
スライダー:126~128キロ
ツーシーム:130~133キロ
チェンジアップ:120~122キロ
<クイックモーションでの投球タイム>
1.30秒
昨秋のリーグ戦ではMVPを獲得
武内は福岡県立八幡南高校の出身。高校時代は県内では大型左腕としてそれなりに名前の知られた存在ではあったものの、甲子園や九州大会の出場経験はなく、全国的には無名の存在だった。
そんな武内の名前が一躍全国に轟いたのは、2年秋に出場した明治神宮大会だ。2回戦の九州産業大戦で大学入学後初となる先発のマウンドを任されると、8回二死までパーフェクトの好投。最終的には3安打を許したものの、無四球完封でチームを勝利に導いて見せたのだ。
この快投をきっかけに昨年は先発に定着。秋のリーグ戦では7試合に登板して4勝0敗、防御率0.68という見事な成績を残して、チームの優勝に大きく貢献。MVPにも輝いた。
身長185センチ・体重90キロというプロフィールを見ると、パワーピッチャーと思うかもしれないが、武内の武器は制球力と試合を作る能力の高さにある。
二段モーション気味に右足を上げるスタイルで軸足にしっかりと体重を乗せてからステップし、ギリギリまで右肩が開かないので打者はいきなりボールが出てくるように見える。高い位置から腕を振り下ろせるためボールの角度も申し分なく、腕の振りが体から近いので左右のコントロールがぶれることも少ない。
打者の目線を変える大きなカーブ、ストレートと同じ軌道から打者の手元で変化する縦のスライダーとツーシームといった変化球も多彩で、大型サウスポーとは思えない器用さを持ち合わせているのだ。
左腕を求める球団には“垂涎の的”
この春は5月7日現在で6試合に登板して2勝2敗も、防御率は1.95と投球内容は上々。ピッチングはさらに磨きがかかっている印象を受ける。
課題は立ち上がりと、勝負所でのピッチングだ。敗れた日本大戦と亜細亜大戦はいずれも1回に長打を許しており、亜細亜大戦ではその後の併殺打の間に奪われた1失点だけにまとめたが、それが決勝点となっている。
また、日本大戦では1点をリードした9回裏にピンチの場面で力勝負にいったボールが甘く入り、逆転サヨナラ適時打を浴びる悔しい敗戦となった。いつも試合の中盤はテンポよくアウトを積み重ねていく印象が強いだけに、試合の入りとピンチでのギアチェンジが上手くできるようになれば、さらに攻略は難しい投手となるはずだ。
それでも、これだけの大型左腕でスピードもコンスタントに145キロを超え、高い制球力と多彩な変化球を操れるというのは、貴重な存在であることは間違いない。高校時代は無名で、大学で大きく成長したということもあって、将来性の高さも魅力である。
先発タイプの左投手が欲しい球団にとっては垂涎の的だけに、順調にいけば高い順位でのプロ入りも十分に期待できるだろう。
文=西尾典文(にしお・のりふみ)
☆記事提供:プロアマ野球研究所