中山翔太の再挑戦【第1回】
どこへ行っても、野球への真っすぐな気持ちは変わらない。今年から独立リーグでプレーしている中山翔太は、熊本の地からNPB復帰を目指している。
中山が所属する九州アジアリーグの「火の国サラマンダーズ」は、昨年リーグ連覇を成し遂げたチームだ。さらに日本独立リーグ・グランドチャンピオンシップも制覇し、独立リーグの頂点にも輝いている。
法政大学から2018年ドラフト2位で東京ヤクルトスワローズに入団し、右の大砲として期待されていた男は、ヤクルトでの4年間を「耐えるというか、コツコツと自分を信じることは一番大事なことかなと思って、そういうことは勉強させてもらいました」と振り返る。
練習熱心で、野球に対して真摯に向き合ってきた。それでも「二軍でも結果が出なくて、そのときは何をやっても、どう試行錯誤しても打てなかった。それが一番辛かったです」と口にしたように、努力を重ねても実戦で思うような結果を残すことができずに、昨年戦力外通告を受けた。
185センチ・95キロの大きな体を揺らしながら、必死に練習に取り組む。サラマンダーズの指揮官・馬原孝浩監督は、中山についてこう話してくれた。
「彼の一番いいところというのは(野球への)取り組み方がいい。アップのときも黙々と自分でアップをやっている。NPBの出身というところで、みんな(チームメイト)からもそういう目で見られる。NPBで苦しい思いをしてきた選手というものが先頭に立って、これでもダメだったんだよ、これぐらいのポテンシャルがあればNPBに行けるんだよ、というものを出してくれないといけない」
中山の持ち味は底知れぬ長打力だ。その力強さを生かすにはどうすればいいのか。
中山は馬原監督から「力を抜いたぐらいで丁度いいんじゃないか」という言葉をもらったと言う。それは、力を抜くことで「バットのスイングが速くなって(打球も)飛ぶよ」という教えだった。
指揮官は「体の強さとかそういったところを見たときに、彼のポテンシャルを十分に引き出してあげるというか、本来のものを考えたときに長打力というのが魅力だと思う。だったらそこを100%引き出してあげないといけないなと思います」と、力を込めて話した。
そして「人間性がピカイチなので、取り組み方もそうですけど、そういう選手で良かったなと思いました」と、チームへの影響力について触れた後、こう続けた。
「ギャップみたいなものも絶対ないとダメ。試合になったら人が変わるとか、打席に立ったら乱闘するぐらいの気の強さが……。でも、人の良さがグラウンドでも表れているので、そこが課題かなと思います。打席に立ったらピッチャーに向かっていかなければいけない。自分と戦いながらというのがありますね」
“野球大好き人間”の再起
かつての指揮官も、同じような思いで中山を見ていた。
昨年までファームで中山を指導したヤクルトの池山隆寛二軍監督も「(中山は)非常に力もあって、真面目に練習を一生懸命にする子だった」と評価しながらも、「練習が試合に結びつかない。練習の中山と試合の中山がふたりいて、練習の中山を使いたいんだけど、試合の中山になってしまう」と、もどかしさを感じていた。
「いかに甘いボールをコンパクトにヒットするかというところだと思うんだけど、全部のボールを全部打つというタイプだったね」と話した池山二軍監督。それでも、中山の長打力については認めている。
ファームの戸田球場で熱心に中山を指導する姿からは、何とか試合で結果を残してほしいという親心がにじみ出ていた。
中山も「何があっても声をかけてくださって、『思い切り振ってこい』という感じで池山さんらしく明るく声をかけてくれた。もっと頑張ろうと力になりました」と、当時のことを振り返る。
「“野球大好き人間”なので、練習に真面目に取り組む姿勢は脱帽できる。(独立リーグで)新たな自分が生まれるかもしれないし、何がダメでそっちに行っているかというところを自分でもう一回思い返せば。良かった部分はあると思うのでそこは伸ばしていって、ダメなところは教えられると思う。経験が財産なので」
これまでの経験を糧に、自分と向き合い、新たな可能性を引き出してほしいと願う池山二軍監督。
その思いに報いるためにも、試合で結果を残すしかない。NPBへの復帰を目指し、背番号「29」をつけた中山の戦いは続いていく。
取材・文=別府勉(べっぷ・つとむ)