野球ゲームの移り変わりから見るプロ野球史~第25回:プロ野球スピリッツ2013
「じぇじぇじぇ」「倍返し」「今でしょ」「お・も・て・な・し」
いきなりだが古い。今、社内のプレゼン中に「この案件のコンセプトは、お・も・て・な・し」なんて真顔で口にしたら、瞬時に同僚の信頼を失う気がする。これらはすべて2013年の流行語だ。
早いもので、あれからもう10年が経った。そして、『恋するフォーチュンクッキー』が忘年会で歌われまくった2013年と言えば、プロ野球界も球史に残るビッグニュースが連発したシーズンでもある。
イチローが日米通算4000安打を放ち、長嶋茂雄と松井秀喜が国民栄誉賞を受賞した10年前──。
というわけで、こんなときには時代の映し鏡、当時の野球ゲームを無性にやりたくなる。13年3月20日発売、プレイステーション3の『プロ野球スピリッツ2013』(コナミデジタルエンタテインメント)だ。ちなみに、同年3月27日リリースの『ファイナルファンタジーXI アドゥリンの魔境』がプレステ2最後のソフトで、世の中は完全に“PS3時代”に突入していた。
「24勝0敗」のエースと楽天の初優勝
シリーズ12作目の『プロスピ2013』パッケージには、阿部慎之助(巨人)、宮本慎也(ヤクルト)、攝津正(ソフトバンク)といったすでに現役引退した名プレーヤーや、現メジャーリーガーの前田健太(広島)らが並び、三浦大輔(DeNA)のように現監督もいる。そして、ゲームをやってみると新井貴浩(阪神)や松井稼頭央(楽天)らもまだスタメンを張っており、妙に懐かしい。
オーナー兼GMとして球団経営を行う「マネジメント」モードや、オンラインで実際のプロ野球公式戦の勝敗予想ができる「プロ野球リンク」モードを新搭載。そんな本作の顔は、もちろん13年シーズンに「24勝0敗」の金字塔を打ち立てた楽天のスーパーエース田中将大だ。
「ピンチに強く大舞台でより輝くスター。日本球界の至宝である」と選手紹介される当時7年目で25歳の背番号18は、5~7月にかけてリーグ初の3カ月連続月間MVP受賞と序盤から飛ばしまくり、前半戦は13勝0敗。後半戦も11勝0敗と勢いは衰えず、シーズン24連勝を記録する。
前人未到の5カ月連続の月間MVP受賞でシーズンを終え、リーグ優勝決定試合、CSファイナルステージ第4戦、日本シリーズ第7戦のすべてでリリーフ登板して星野楽天の胴上げ投手に。当時は酷使と物議を醸す起用法だったが、あらゆるタイトルに輝き、日本球界にやり残しは何もないという圧巻の大活躍で、オフにはポスティング制度でのメジャー移籍を表明。ニューヨーク・ヤンキースと総額1億5500万ドル(約161億円)の7年契約を交わした。
球団創立9年目で初の日本一に輝いた楽天攻撃陣の核は“AJ砲”こと26本塁打・94打点の4番アンドリュー・ジョーンズと、28本塁打・93打点でフル出場を果たした5番ケーシー・マギーだった。
故・星野仙一監督から「どんな状態であろうが、毎試合プレーしてくれ」と声を掛けられ発奮したマギーは、シーズン終盤になると「来年、ボスはどうするんだ?俺はボスのいるところでやりたい」なんて訴えるほど闘将に心酔。日本一達成後は、星野流おもてなしで記念の腕時計も贈られたという。
ツバメの大砲、NPB記録への挑戦
13年の外国人選手と言えば、ヤクルトのバレンティン狂騒曲も印象深い。
真夏のバレンティンは凄まじいペースでホームランを打ち続け、8月はなんと月間18本塁打のプロ野球記録を樹立。8月27日の中日戦でこの日2本目のアーチを神宮の左翼席に叩き込み、早くもシーズン50号到達。セ・リーグのペナントレースはすでに原巨人が独走態勢に入っていたため、注目は年間55本塁打のNPB記録挑戦へ。
オランダの至宝は9月11日の広島戦(神宮)でタイ記録の55号。15日の阪神戦(神宮)で日本新記録の56号、アジア新記録の57号を連発した。左アキレス腱痛を抱え終盤はスタメン落ちもあったが、10月4日の阪神戦(神宮)でメッセンジャーから第60号を放ちフィニッシュ。14試合も欠場しながら130試合で打率.330・60本塁打・131打点、OPSは1.234(長打率.779)という凄まじい成績で3年連続ホームランキングやMVPに輝いた。
なお、バレ砲の趣味はプレイステーション3で、お気に入りは自宅の42インチのテレビで楽しむバスケットボールのNBAソフトだった。
『プロスピ2013』におけるバレンティンの選手データは、パワー97のS、対左ミート91のS、さらに意外な肩力84のA。確かに、バレンティンの外野守備は動きこそ緩慢だが、肩は強かったことを思い出す。
ゲーム中でも懐かしのミレッジや畠山和洋と中軸を担い、この年3本塁打の21歳・山田哲人は翌14年に打率.324・29本塁打とブレイクすることになる。ちなみに、のちの“村神様”こと村上宗隆は、当時まだ13歳の中学生である。
“二刀流”誕生にゲームも困惑
そして、13年は空前のルーキーの当たり年として記憶する野球ファンも多いだろう。小川泰弘(ヤクルト)16勝、則本昂大(楽天)15勝、菅野智之(巨人)13勝、藤浪晋太郎(阪神)10勝と2ケタ勝利を4人もクリア。現カブスの鈴木誠也(広島)も、高卒ルーキーながら1年目から一軍デビューして初安打・初打点を記録している。
なにより、現在世界最高の野球選手になった大谷翔平(日本ハム)がプロデビューした記念すべきシーズンでもある。OBから無謀とさえ批判された二刀流を志した大谷は、開幕の西武戦に「8番・右翼」で先発出場すると2安打1打点の活躍。5月23日の投手デビュー戦ではヤクルトのバレンティンに対して、当時の球団最速となる157キロを計測してみせる。
投手としては13試合で3勝0敗、防御率4.23。打者成績は77試合で打率.238・3本塁打・20打点という、現代野球では異例の二刀流誕生には『プロスピ2013』も戸惑ったようで、「野手・大谷」は初期設定では使用できず、アップデート版で起用可能となった(最終のアップデート版でもなぜか「投手・大谷」をFREE枠から手動で所属させたいチームに選手登録させる必要があった)。
なお、DH制ありのスタメン決定時にDH解除して先発投手を打席に立たせたり、投手登録選手の代打起用も仕様上できなかった。コナミの野球ゲームで選手1人が投手と野手で同時登場するのはもちろん史上初。いわば、規格外すぎる大谷翔平の出現に当初は野球ゲームもバグったのである。
この原稿を書くにあたり、久々に『プロスピ2013』を起動させてみたが、PS3をHDMI接続で画面出力すると、もはや最新作のNintendo Switch版とほぼ変わらない画質に驚いた。
30年以上前、ファミコンで『なんてったって!!ベースボール』という、ソフト背面に最新選手データが収録された子ガメカセットを差し替えたら半永久的に遊べると謳われたゲームがあった。要は基本システムのベースは変わらず、データのみが更新されていくわけだが、あまりに時代を先取りしたその考えにユーザーはついていけず……。売上げは低調で市場に流通した数も少なく、子ガメの『'91開幕版』はレトロゲーム市場で現在10万円以上の値が付くプレミアソフト化している。
今のプロスピシリーズは、その“なんてったってシステム”をほぼ実現させたといっても過言ではない。正直、10年前のプロスピに登場選手以外のエモさや古さはまったく感じなかった。もう基本システムの大枠はできあがっており、新作やアップデートで選手や球場の最新データが淡々と反映されていく。いわば野球ゲームに求める一種のファンタジーは死んで、リアルさだけが生き残ったのだ。
賛否はあるだろうが、確かに2023年に生きる我々は、野球ゲームにおける“あの頃の未来”に立っているのである。
文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)