“豊作”大学生の投手にまた一人注目株が
今年は早くも“豊作”と呼び声高いドラフト戦線。なかでも大学生の投手に有力選手が多い。
サウスポーでは細野晴希(東洋大)や武内夏暉(国学院大)、滝田一希(星槎道都大)、高太一(大阪商業大)、尾崎完太(法政大)、古謝樹(桐蔭横浜大)などの名前が挙がる一方で、密かに注目を集め始めている選手がいる。
それが城西国際大の中村太耀だ。
▼ 中村太耀(城西国際大)
・投手
・180センチ/82キロ
・左投左打
・福岡大大濠
<主な球種と球速帯>
ストレート:143~149キロ
カーブ:115~118キロ
スライダー:123~128キロ
チェンジアップ:120~125キロ
<クイックモーションでの投球タイム>
1.34秒
福岡大大濠ではオリックス・山下舜平大の1年先輩
福岡大大濠では、三浦銀二(現・DeNA)や古賀悠人(現・西武)の2学年下で、1年春に出場した九州大会で登板している。
しかし、自身の1学年下には、現在プロで大ブレイクしている山下舜平大(現・オリックス)ら好投手が多かったこともあって、重要な公式戦での登板は少なく、目立った実績を残すことができずに城西国際大へ進学することとなった。
大学では2年秋にリーグ戦デビューを果たしたものの、昨年秋まで未勝利に終わっている。そんな中村が密かに注目を集めるきっかけとなったのが、昨年オフにピッチング練習で156キロをマークしたという動画がSNSに公開されたことだった。
練習でのスピードはあくまで参考程度の数字ではあるとはいえ、左投手でこれだけのスピードがあるアマチュア選手は滅多にお目にかかれない。筆者は中村の実力を確認すべく、今年2月に行われた日本製鉄かずさマジックとのオープン戦に足を運んだ。
この試合で先発のマウンドに上がった中村は、4回を投げて被安打7・与四球4の3失点で降板。ストレートの最速も143キロにとどまっている。
この日が今シーズン初のオープン戦で、まだ寒い時期ということでスピードがそれほど出ないのは当然だが、それ以上に気になったのがコントロールだった。
軸足の左膝を曲げて体を沈み込ませてからステップするため体重が後ろに残りやすく、上半身の力で無理に抑え込もうとするため、引っ掛けるようなボールが多かったのだ。変化球でも腕が振れず、リーグ戦でも成績を残せていないのもよく分かった。ただし、時折指にかかった時のストレートには魅力があったことも確かである。
“大器の片鱗”を披露
この春のリーグ戦でもなかなか結果が出ずに苦しんでいたが、ようやく“大器の片鱗”を見せたのが、5月10日に行われた国際武道大戦だ。
6回に2点適時二塁打と2ランを浴びて4点を失い負け投手になったものの、5回までは相手の強力打線を0点に抑え込む。2月のオープン戦では気になった体が沈み込む動きも小さくなり、体重移動がスムーズになったことで腕の振りも明らかに力強くなったように見えた。
ストレートは立ち上がりからコンスタントに145キロを超え、最速は149キロをマーク。6回1/3を投げて8個の三振を奪ったように、数字に見合うだけの勢いも感じられた。
中盤以降にとらえられた要因として考えられるのが変化球だ。スライダーが120キロ台中盤とそこまでスピードがなく、またカーブと軌道が変わらないため打者からすると見極めやすい。
また、チェンジアップも時折投げていたように見えたが、ブレーキや精度がまだまだという印象だった。ストレートと同じ軌道から鋭く変化するボールをマスターすれば、スピードがより生きてくるだろう。
完成度は、冒頭で名前を挙げた選手たちに比べるとかなり乏しく、時間がかかるタイプに見えるが、サウスポーらしい角度のあるストレートは大きな魅力である。
これに加えて、最終学年のシーズン中に進歩が見られる点はプラス材料だ。5月10日の国際武道大戦のような投球を常に見せることができるようになれば、今年のドラフトで名前が呼ばれる可能性もありそうだ。
文=西尾典文(にしお・のりふみ)
☆記事提供:プロアマ野球研究所