6月連載:メジャーの“日本詣で”が止まらない
ペナントレースたけなわのメジャーリーグにあって、日本人選手の活躍が目覚ましい。
日本時間6月1日には大谷翔平選手がホワイトソックス戦で13、14号の連発弾を放てば、前日にはメッツ・千賀滉大、ブルージェイズ・菊池雄星、アスレチックス・藤浪晋太郎投手が揃って白星。日本人投手が同日に3勝をあげるのは実に21年ぶりの快挙となった。野手でレッドソックス・吉田正尚やカブス・鈴木誠也選手の活躍も予想以上のものがある。
「メイドイン・ジャパン」の商品力が上がれば、上がるほどメジャー関係者の日本人選手への関心度も急上昇。そこで例年以上の“日本詣で”が始まっている。
その背景と舞台裏の事情に迫ってみる。
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今、MLBの編成担当が最も熱視線を送る日本人選手と言えば、オリックスの山本由伸投手だ。
先月30日に京セラドームで行われた対広島戦には、実に8球団のメジャー関係者が集結している。メッツではビリー・エプラ―GMが直々に来日、フィリーズは5人態勢で日本のエースの一挙手一投足をチェックしている。
近年、日本人有力選手を多くのメジャー球団が視察するのは珍しい光景ではない。しかし、今年はWBCの開幕に合わせて、メッツのスティーブ・コーエンオーナーが来日したり、ドジャースもスカウト部長以下が各選手の動きに鋭い目を光らせるなど、その関心度は格段に上がっている。
山本の場合は今オフのポスティング移籍が確実視される大物。すでにドジャースやパドレス、メッツなど有力球団が獲得調査に乗り出しているが“日本詣で”は今後益々、頻度を増して行くだろう。
過熱の一途をたどる日本人獲得策。背景には、もちろん大谷の存在とWBC優勝の快挙がある。
「100年に1人の逸材」と称される二刀流・大谷の凄さはメジャーリーガーの誰もが認めるところ。だがその大谷が日本人であると言う事実が大きい。すべては米国を中心に回ってきたメジャーの価値観まで覆すことによって、日本への関心はリスペクトにまで変わった。当然「第二の大谷」の可能性を探ることになる。
加えて、WBCで米国を撃破したことで、日本野球のレベルの高さが再認識された。大谷、ダルビッシュ有に限らず日本人プレーヤーの多くがメジャーでも活躍することが出来ると本場での評価も変わっていく。
中でも、侍ジャパンの先発ローテーションを担った山本、佐々木朗希(ロッテ)、今永昇太(DeNA)各投手の評価は高い。3人ともすでにメジャー志望を明らかにしている。今年で22歳の佐々木の場合は、まだ、時期尚早としても、一部の関係者の間では「ピッチングだけなら大谷以上の素材」と絶賛されているので、今から密着マークを宣言する球団もあるほどだ。
過去にも野茂英雄、松坂大輔、上原浩治などメジャーで活躍した日本人投手は多い。評価の高いポイントは、コントロールが良く安定感がある。フォークボールのような三振を奪える決め球を持っている。さらに近年は大谷の160キロ台快速球のようにパワーでも他のメジャー投手と見劣りしないと言った点が挙げられる。ましてや、山本の場合は一昨年、昨年と投手部門の国内タイトルを総なめした実績があるのだから、今オフの争奪戦は想像に難くない。
今季からメッツに移籍した千賀滉大投手は、すでに5勝をマーク。代名詞の「お化けフォーク」はニューヨークっ子のハートをつかんでいる。
その千賀がソフトバンクから移籍した時の契約金は5年契約で推定7500万ドル(約101億円、当時の報道による)、年俸換算なら約20億円となる。山本の場合も、同額かそれ以上の高額が予想される。
ここまでにあげた山本、佐々木、今永以外にもメジャーが注目する有望株には西武の平良海馬、中日の髙橋宏斗らの名も挙がる。
ゆくゆくはメジャーに挑戦したい選手たちと、そう簡単に海を渡られてはチーム編成上、困る国内球団側。そこへ1年でも早く獲得したいメジャー側の思惑が交錯して“日本詣で”は今後も容易に収まりそうにない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)