第44回:大型連敗…そのときチームは
リーグ連覇の王者が苦杯をなめた。ヤクルトは5月に悪夢の12連敗を喫した。優勝したチームが翌年に12連敗したのは史上初という屈辱だった。
「僅差のときに、負けが込むと負けの雰囲気が出てしまうというか、点を取られたらどうしようという雰囲気は出てしまっているのは少しあると思う」
長いトンネルの中にいたチームの雰囲気を、プロ10年目の奥村展征はこんな風に感じていた。
連敗中はすべての試合が3点差以内で、僅かな差で白星をつかめずにいた。あと一歩、勝利に届かない状況の中で苦しんだ。
球団初のリーグ3連覇を目指して臨んだ開幕戦から5連勝を飾り、幸先の良いスタートを切ったが、5月の後半になって負のスパイラルに陥ってしまった。奥村はこう話す。
「今年、みんな優勝しか見てなくて、その優勝しか見てないから出る特有の雰囲気というのは、負けが込むと重たくなりやすい」
それでも、「交流戦に入ってどんな流れになるかわからないですけど、きっかけがあれば一気に盛り上がっていければなと思います」と、前向きに話していたのが印象的だった。
「代打の神様」の存在感
迎えた交流戦も連敗スタートとなった。しかし、6月に入ってようやく光が射した。
1日の日本ハム戦(エスコン)で3安打1打点の活躍で勝利に貢献したのが、「3番・指名打者」でスタメン出場した川端慎吾だった。今季はここまで代打での活躍が光り、勝負所で打席に向かうことが多い。
川端は「連敗していたので、みんな明るく元気に声を出そうという意識はすごく感じていました」と、連敗中のチームの様子を振り返った。
そして「奥村がすごく声を出してくれる。あいつがいっぱい声を出してくれるので、(チームのみんなも)頼っていた部分があった」と話す。
奥村は現在、ファームで再び一軍昇格を目指している。一軍帯同中は、自身の出番が少ない状況でもベンチで仲間を鼓舞し続けた。
「あいつがいなくなって、やっぱり僕ら周りがしっかり声を出さないとダメだなぁと感じていました」と川端。チームのムードメーカーが不在の中、気持ちをあらたにした。
川端いわく「その日その日、1試合1試合『何とか勝とう、何とか勝つぞ』みたいな感じでいました」と、チームは前を向き続けた。
自身も巧みな打撃技術で勝負強さを発揮。打率はここまで.455をマークし、存在感を放っている。
「打席に入るときは何も考えずに本当に打つことだけ集中して、いつも通りの準備をしっかりして入っている。打席だけに集中してという感じです」
途中出場でありながら、集中力を研ぎ澄まして打席に向かう。スタメン9人と変わらずゲームに入り込む「代打の神様」は、ベンチでも常に戦いに参加している。
12連敗のあとに3連勝と、チームは再び勢いに乗り始めた。ベンチ入りメンバー全員がそれぞれの役割を担いながら、苦難と戦ってきた。
チームがまたひとつになって臨んでいる6月。目の前の一戦に、最後まで諦めず立ち向かう。
取材・文=別府勉(べっぷ・つとむ)