コラム 2023.06.09. 06:44

あとは「単打」でサイクルなのに…“記録達成”目前で交代させられた男たち

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阪神・村上頌樹 (C) Kyodo News

序盤のハイライトシーンのひとつ


 今年の交流戦も折り返し地点を過ぎ、各チームが50試合以上を消化。1カ月後にはオールスターゲームを控えている。

 日々更新されているファン投票の中間発表を見ると、パ・リーグの先発投手部門では昨年も1位で選出された佐々木朗希(ロッテ)が首位に君臨している一方、セ・リーグの方は昨年トップ10に名前がなかった男が頂点にいる。村上頌樹(阪神)である。

 今季開幕前の時点で通算の一軍登板は2試合だけ。0勝1敗だった男が今季はここまで9試合の登板で5勝2敗、防御率1.83をマーク。4月12日の巨人戦では7回までパーフェクトに抑える好投を見せながら、「あとは後ろの勝ちパターンのピッチャーでね」という岡田彰布監督の判断で降板したことは大きな話題を呼んだ。


 過去にも日本シリーズで完全試合まで「あと1イニング」とした中日の山井大介が降板となったことが物議を醸したことがあったが、記録よりも勝利を優先するプロ野球では、記録継続中に交代させられた選手もいる。

 今回はそんな快挙まで“あと一歩”のところで「交代」を告げられた男たちのエピソードを振り返ってみたい。


サイクルヒットにリーチも……


 サイクル安打まで「あとシングルヒット1本」というリーチの状態で交代を告げられたのが、中日ルーキー時代の福留孝介だ。

 1999年4月28日の阪神戦。1回の第1打席で四球を選んだ福留は、1点を追う3回の第2打席で反撃の口火を切る3号同点ソロ。さらに5回の第3打席では、バットを折りながらも右翼線に三塁打を放ち、6回の第4打席でも右翼フェンス直撃の二塁打を記録した。

 8回にもう1打席回ってくるのが確実とあって、「次はセーフティバントでもしようかな」とサイクル達成に意欲を燃やした福留だったが、4-1とリードした7回の守りに就こうというときに、守備固めの久慈照嘉と交代してベンチに下がる羽目になり、プロ1年目でサイクル達成の快挙は幻と消えた。

 「アマチュア時代もチャンスはなかったし、悔しいですよ。最後まで出られない自分に」(福留)。


 交代の理由は、福留のショートの守備にまだ全幅の信頼が置けないこと。この日も3回二死三塁のピンチに、坪井智哉の中前に抜けそうなゴロをダイビングキャッチしながら一塁送球が遅れ、先制点を許していた。

 ひとつのミスが致命的になりかねない試合終盤は、チームの勝利のためにも久慈の守備力が不可欠という星野仙一監督の判断からだった。なお、久慈は交代直後の7回に2つのゴロを無難にさばいて、勝利に貢献している。

 試合後、星野監督は「福留の記録?あと10何年もやるんだから、そんなチャンスはまだまだある。それよりオレに最後まで守らせてもらえるような自信をつけんとな」と語った。

 その言葉どおり、福留は2003年6月8日の広島戦と、阪神時代の2016年7月30日の中日戦で、2度にわたってサイクル安打を達成している。


11年ぶりの完封勝利が……


 11年ぶりの完封勝利まで「あと1人」という9回二死に交代を告げられたのが、西武時代の横田久則だ。

 1998年6月28日のダイエー戦。横田は8回までダイエー打線を2安打無失点に抑え、三塁も踏ませぬ好投。8-0とリードした最終回も二死無走者となり、プロ2年目の1987年8月28日のロッテ戦以来の完封も目前となった。


 ところが、東尾修監督はこの場面で、同年から先発に転向し、5月までに4勝を挙げた石井貴をリリーフに送る。

 実は、この継投は当初からの予定で、東尾監督は「(9回に)二死を取ったら、石井に投げさせてくれ。貴は(一軍登板は)久しぶりだし、上の雰囲気に慣らさないとね」と事前に言い聞かせていた。横田も「完封?それもチラッと考えたけど……。ケガして投げられなくなるわけじゃない」と気持ちを切り替え、後輩にマウンドを譲った。

 その後の横田は、打線の援護に恵まれず、1勝5敗と苦闘が続くが、待てば海路の日和あり。9月6日のダイエー戦で見事3安打完封勝利を達成。

 「あれ(9回二死で降板)があったから、今日は何としても(完封したい)と思ってました」と笑顔を見せた。

 ちなみに、同年はオリックスの金田政彦も、9月26日のダイエー戦でプロ初完封まであと1人としながら、通算500試合登板を区切りに現役を引退する大先輩・佐藤義則に500試合目のマウンドを譲っている。


“非情采配”で交代


 最後はDeNA・三浦大輔監督の現役時代で、交代によって途切れた快記録を紹介する。横浜エース時代の1997年7月29日の中日戦。三浦は4四死球を許したものの、5回まで無安打無失点に抑えた。

 ところが、1-0とリードした6回、一死満塁のチャンスで打順が回ってきたことから、「三浦、すまん。代わろう」と大矢明彦監督に呼び止められ、ビル・セルビーを代打に送られた。

 「1点だけでは勝てない」とチームの勝利を第一に考えてのやむにやまれぬ非情采配だったが、皮肉にも結果は裏目に出る。

 セルビーは三邪飛、次打者・石井琢朗も一ゴロに倒れ、追加点ならず。さらに7回、3番手・西清孝が山崎武司に同点ソロを被弾し、勝利投手まで消えてしまった……。

 だが、三浦は「申し訳ない。最善を尽くしたつもりだが、まさか追いつかれるとは」と詫びる指揮官に、「仕方ないですよ。それに無安打無得点といっても、5回じゃないですか。気にしていません」と神対応を見せている。


 その後、三浦は2012年5月12日の阪神戦で、8回まで無安打無失点に抑えながら、9回の先頭打者・桧山進次郎に安打を許し、「あと3人」というところで記録を逃している(2安打1失点で完投勝利)。

 ノーヒットノーランの夢は実現できずに終わったが、「常に完全試合を狙っていますし、四球やエラーが出たらノーヒットノーラン、安打が出れば完封、点を取られれば完投というようにやっていた」という“投球哲学”に徹し、現役25年間で通算172勝を挙げた。


文=久保田龍雄(くぼた・たつお)

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