コラム 2023.06.19. 07:44

「地域密着」から「都市型」への“東遷” 独立リーグ・ベイサイドリーグの現在地

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ベイサイドリーグの柳川洋平代表 [写真=阿佐智]

「ファーム拡大」が独立リーグにもたらす影響


 NPBのファームの拡大が話題になっている。

 東西2リーグに分かれているNPBの二軍リーグは現在、西のウエスタン・リーグが5チーム、東のイースタン・リーグが7チームというリーグ戦を円滑に行うことが難しい奇数チームで編成されている。

 両リーグの枠を越えた交流戦も行ってはいるが、偶数チームによるペナントレースが理想であることは間違いなく、NPBは「二軍のみの参戦」という条件で、新規参入球団を来シーズン以降に向けて公募する方針を示した。


 この話に、既存の独立リーグ球団をはじめとする様々な団体、企業体が反応。NPBが実施した説明会には10を超える団体が参加したという。

 すでにプロ球団を保有し、活動の実績がある独立リーグ球団から“昇格”する球団が現れる可能性は高いが、それは一方で既存の独立リーグから“脱退”する球団が現れることも示している。

 このことは、独立リーグ界で再編の波が押し寄せることを予想させる。


 そして、その波はすでに起こっていると言っていいだろう。

 北海道でのリーグ分裂、球団消滅、さらには関西での新球団設立……。中でも、2021年シーズン後に起こった日本最大の独立リーグ・ルートインBCリーグからの4球団の“独立”は、日本の独立リーグ界にも再編の波が着実に押し寄せてくることをファンに予感させた。


「まずは選手第一」…新生・ベイサイドリーグ代表に聞く


 「日本海オセアンリーグの移転ではないですね」

 こう主張するのは、ベイサイドリーグ代表の柳川洋平だ。

 自ら独立リーグ(BCリーグ)からNPB (ソフトバンク)入りを果たし、一昨年からは滋賀球団(オセアン滋賀ブラックス~滋賀GOブラックス/BCリーグ~日本海オセアンリーグ)の指揮を執って、チームを連続優勝(2021年=BCリーグ西地区/2022年=オセアンリーグ)に導いている。


 前述のように、2021年のオフにBCリーグから分立するかたちで発足したオセアンリーグだが、1年目のシーズンが終わり、2名の選手をNPBに送り出した直後の10月末に福井ネクサスエレファンツの活動休止と、千葉を本拠とする新球団の設立をアナウンスした。

 そして、その年末には神奈川県をフランチャイズとする新球団の加盟とリーグ名を「ベイサイドリーグ」と改めること、さらに滋賀球団が球団運営権を譲渡する方針と活動休止も立て続けに発表された。


 この一連の動きの中、滋賀球団監督をシーズン終了時に退任していた柳川はリーグ代表に就任している。

 オセアンリーグの公式ホームページには「2023年度よりベイサイドリーグとして始動いたします」とあるのだが、彼の言葉は旧リーグをひきずるのではなく、この神奈川・千葉という「湾岸地帯」で新たな独立リーグを運営していくのだというリーグ代表としての決意の表れと言っていいだろう。

 それもあってか、リーグを構成する千葉スカイセカイセイラーズ、神奈川球団・YKSホワイトキングスとも“新生球団”であって、旧リーグの福井、滋賀両球団の後継球団ではないことを、彼は強調する。


 「福井、滋賀の選手が各々半数ほど千葉、YKSに移籍しているんで、そういうふうに思われることがあるんですが、そうではないです」

 YKSホワイトキングスは、ベイサイドリーグの発足直前にオセアンリーグへの加入が発表された。

 この時点の加盟球団はYKSに加え、滋賀、石川、富山、そして千葉の5球団だった。

 しかし、これに先立って行われたリーグ合同トライアウト後、滋賀以外の3球団には選手が振り分けられたが、滋賀球団所属の選手が発表されることはなく、地理的にも孤立した滋賀が2023年シーズンに参加しないことは誰の目にも明らかだった。


 日本海側の2球団と首都圏の2球団の4球団構成となるであろうリーグは、同エリア球団同士の対戦を軸に、日本海側とベイエリア側による交流戦を組み込むというフォーマットを構想していたようだが、そもそも、BCリーグ西地区が“独立”した背景のひとつに遠征費の軽減あったこともあり、石川と富山の両球団はベイサイドリーグの発足と同時に「日本海リーグ」を設立して“再独立”し、交流戦の構想もいつの間にか立ち消えとなった。

 そして滋賀の活動休止もリーグ発足の翌日に発表となり、スタッフと所属選手の多くがYKSへ移籍することになった。


 今年のベイサイドリーグのペナントレースは、両チームによる40試合の対戦のみということになっている。

 しかし、柳川はいったん棚上げになったかたちの日本海リーグとの交流戦も、いくつかのハードルはあることを認めながらもやっていきたい意向を示す。

 それは、このリーグに夢をかけて集まってきた若い選手第一という彼のポリシーゆえのことだ。

 「もちろん、そんな簡単にはできないですけど。明日、明後日やりましょうっていうわけにはいかないでしょう。今後も話し合いながら、選手のためにどんどんやっていきたいなとは思います」





「ふるさと野球」との矛盾


 しかし、新生ベイサイドリーグに対しては、旧オセアンリーグのファンの一部から辛辣な意見も出ていることは確かだ。実際、消滅した福井球団のファン感謝祭は、直前の解散に対するファンの反発を考慮して中止されている。

 ファンの多くが抱いているのは、「ふるさと野球」を標榜しながら、たった1年で首都圏にその重心を移したその変節ぶりにあることは間違いない。


 オセアンリーグがBCリーグから分立する際、その仕掛け人であったスポンサーである中堅ゼネコン・オセアングループの若き総帥・黒田翔一は、元いたBCリーグがアイデンティティとも言える「ふるさと野球」から離れていってしまったことをその理由として挙げていた。NPB球団がない地域に野球の灯をともすはずだったBCリーグが、なぜNPB球団がひしめき合う首都圏に球団が存在するのかと。

 しかし、ベイサイドリーグの2球団はともに首都圏のNPB球団のフランチャイズ(正確には保護地域)に本拠を構えている。つまり、新リーグはその名称の変更とともに、黒田が言う「独立リーグの本来あるべき姿」である地方に根差した小規模プロリーグではなく、都市型リーグに変わってしまったのだ。


 マーケットは大きいが、すでにNPBという巨大プロ野球球団が腰を据えているエリアでの独立リーグの展開が難しいことは、2009年に発足したものの、5シーズンで事実上の解散に追い込まれた旧関西独立リーグの事例が示している。

 人口希薄な日本海沿岸から首都圏に重心を移したのは、やはり観客動員やスポンサー集め、NPBスカウトの招聘など考えると、地方での展開が難しかったのだろうか。

 しかし、この問いに柳川は「それは私、経営者じゃないんでわかりません」と口をつぐんだ。


単調な2チームによる「リーグ戦」


 ベイサイドリーグと日本海リーグの分立の結果、両リーグともペナントレースは2チームによる40試合制となった。この方式は、2年前に発足初年度の九州アジアリーグも採用している。

 その結果だが、社会人実業団チームを母体とした火の国サラマンダーズが、ゼロから選手をかき集めた大分B-リングスを圧倒。シーズン半ばには優勝を決めかけてしまうという、ファンにとっては興味をそがれるものとなってしまった。


 日本海リーグでは、前例を繰り返さないためにレギュラーシーズンを3タームに分け、タームごとに1ポイントを与えた上で、2ポイントを先取した方を年度優勝ということにしている。

 しかし、ベイサイドリーグは勝ち点方式(勝ち=2点/引き分け=1点/負け=0点)による40試合・1シーズン制でチャンピオンを決めることにしたという。

 そうなると、スリリングなペナントレースを期待するのはなかなか難しい。幸いにもシーズン中盤を過ぎた6月半ば時点ではゲーム差1と競った争いが続いているが、来季以降のリーグの持続発展のためには、将来的な球団数拡大は俎上にのぼってくるだろう。


 今後のリーグのあり方についても柳川代表は、話は進めていると言う。

 「選手にとってみれば、同じ相手と対戦ばかりじゃ単調じゃないですか。ファンの方から見ても『また同じチーム?』ってことになりますし」

 但し、リーグ選抜チームでの参入を目指している日本海リーグの他、独立リーグ数球団が興味を示しているNPBファームリーグへの参入は考えていないと断言する。

 「考えていない」というより、そもそも従来NPB球団が置かれていなかった都道府県の球団の参入を想定しているこの計画にはそもそも、千葉県と神奈川県の球団は参入できない。

 おそらくは来シーズン、おそくとも2025年シーズンから、既存の独立球団のいくつかがNPBファームリーグに加わることだろう。NPBは当面「2球団以上」の参入を予定しているというから、リーグ戦との兼ね合いを考えると、将来的にはファームリーグの加盟球団数はNPB球団の二軍を含め最大16球団まで増えることも考えられる。

 新規参入球団を考える場合、すでに選手・スタッフがそろっており、運営の実績もある独立リーグ球団が選ばれる可能性は高い。となればその分、既存の独立リーグからその球団が脱退することにある。その先には当然、「再編の波」が見えてくる。


 現在2球団しかないベイサイドリーグが、BCリーグと「よりを戻す」ことはあるのだろうか。これについては、柳川代表は明確には答えることはなかった。

 「今、NPB二軍構想でいろいろ動いているじゃないですか。じゃあ実際、だからBCリーグさんとやりましょうとかっていうのは……。現段階のリーグ戦と選手のことをどう考えるってことが、今現実の話ですね。それ以上のことっていうのは、話し出してちょっとの話なんで」

 一方で、NPB球団のファームと交流戦は今後積極的に取り組んでいくと言う。実際、すでにリーグ選抜チームが、中日、阪神、オリックスと対戦をしており、6月20日・21日には楽天との試合が控えている。

 しかし、これらは全てビジターゲームの遠征試合で、興行的にはまったくメリットはない。この点は、NPB球団ファームチームを招いて興行試合を行っている日本海リーグとは対照的である。


IPBL(日本独立リーグ野球機構)への加盟問題という懸案


 2005年のドラフト以来、毎年NPBへ人材を輩出している独立リーグの野球界における存在感は今や確固たるものになっている。

 当初あやふやだったその地位も、現在では「NPB以外のプロリーグ」と定義づけされるようになり、アマチュアとの関係も社団法人日本独立リーグ野球機構(IPBL)を窓口として、退団後のアマチュア球界復帰や高校・大学指導者への道筋が構築されている。

 しかし、ベイサイドリーグは前年のオセアンリーグ時代より、これへの加盟が認められていない。今シーズンの前にも加盟申請は行われたが、認められることはなかった。

 これについても話を向けたが、柳川は表情を崩さずにこう話してくれた。

 「どうもこうもないですね。こちらは書類を提出させてもらう側で、評価するのは第三者の方なんで。だから、加入できなかったからって、相手に対してネガティブな気持ちもないですし。入れないんだったら入れないなりの理由がやっぱりあるんでしょう」

 加盟の基準、審査の詳細については、IPBL側は一切口をつぐんでいる。

 しかし、オセアンリーグから分立した日本海リーグは加盟を承認されている現実を考えると、BCリーグからの“独立”を主導したリーグの親会社であるオセアンへのある種の意趣返しとどうしても見えてしまう。

 それでも、柳川はあくまで謙虚な姿勢で、加盟を目指すつもりでいる。

 「今後、どういう風にやっていけばいいですかっていう話もさせてもらっています。IPBLへの加盟は我々の目標というより、やっぱり選手のためですよね。指導者資格回復とかそういうのもありますし。だから、独立リーグのルールがあるんだったらそれを守っていきながらっていう話です。とりあえず我々が改善していくしかないじゃないですか。代表の立場として、自分に力があれば、通ってるかもしれないですし。そういうことを考えると、代表として選手には申し訳ない気持ちしかないですね」

 とは言え、IPBLに加盟が認められない現状にあっても、選手集めに苦労しているということは今のところないという。

 それは他リーグに比して高い額が設定されている契約形態ゆえのことなのかもしれないが、これを維持するためには、興行的な成功が前提となるはずである。

 しかし、この点において、こと神奈川球団YKSは大きな課題をかけている。





興行を行わないプロ野球


 今シーズンのYKSホワイトキングスは、主催公式戦に入場料を徴収していない。「地元企業の協賛による無料開放」というのが理由だが、20試合の主催試合を平日の昼間に行うとあっては、チケット販売をしても経費の方が上回るというのが現実だろう。

 実際に取材した試合でも、スタンドの観戦者は15人を超えることはなかった。球団発足からリーグ戦開始までの準備期間の不足は、プロ野球の根幹である試合興行を困難にした。


 もっとも、日本の独立リーグの現状はスポンサー収入が大黒柱というもので、YKS球団も試合の無料開放が収支に大きく影響を及ぼすということはないだろう。

 YKSが主催試合のほとんどを消化する「ホームグラウンド」は、横浜市中心部から20キロほど西方にある綾瀬市スポーツ公園野球場である。

 自衛隊の厚木飛行場に隣接しており、試合中も上空をひっきりなしに飛行機が行き来する。最寄の私鉄駅からは1時間に1本のバスに乗るか、徒歩20分。ナイター照明もなく決して集客に向いているとは言えない。「立派な球場ですよ」の言葉とは裏腹に、柳川の言葉からは球場の確保に苦労したことがうかがえる。

 「神奈川県で(独立リーグ球団を)やるって話になった時、まず考えたのは、高野連さん、それに(BCリーグの神奈川)フューチャードリームスさんとの関係ですね。それに中学生のクラブチーム、団体との話し合いもありました」

 BCリーグには、神奈川フューチャードリームスという球団がある。

 オセアンリーグがBCリーグから“分立”した経緯を考えると、ある意味因縁の相手でもある。そのためか、YKSは球場確保に際して相当の配慮をしたようである。

 「フューチャードリームスさんは、どっちかというと(県東の)平塚の方ですよね。後から来た我々がそっちの方へ行くわけにはいきません。だから我々は県央地区っていうか、厚木・海老名・綾瀬というエリアでいこうと。他の団体さんが使っているところに行けばやっぱり、『なんなんだ』ってなるじゃないですか。高野連さんとは、私が中学生の指導をしていたこともあって知らない間柄ではないんで、先生方ともお話をして、空いている球場を探さしていただいたということです。」

 あくまで共存共栄。これがベイサイドリーグの新球団YKSホワイトキングスの方針であるようだ。

 将来的には、NPB球団・横浜DeNAベイスターズのファーム、フューチャードリームスを交えた交流戦も頭にはあるという。


 取材した試合は、ロースコアの1点を争う緊張感あふれる熱戦だった。最後はホームチーム、ホワイトキングスのサヨナラ勝ち。平日の日中の閑散としたスタンドはあまりにももったいないように感じた。

 来シーズン以降に向けて、ファンの足が向きやすい環境を新生リーグには期待したい。それが選手のためでもあるのだから。


文=阿佐智(あさ・さとし)
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