白球つれづれ2023・第26回
西武のエース・髙橋光成投手が24日の楽天戦に8回4安打無失点の快投で5勝目を挙げた。
5月13日に4勝目を記録して以来、実に42日ぶりにたどり着いた白星だった。この間の4連敗も大半の試合は、好投しながら味方打線の非力さに泣いたもの。防御率1.92はパリーグのトップで、いかに安定した働きを続けてきたかがわかる。
そんな髙橋がピッチング以外で話題を集めたのは今月21日に開かれた親会社・西武ホールディングスの株主総会でのことだった。
主要議題が終了後、“物言う株主”のターゲットは球団に。
女性に対する強制性行容疑で書類送検中の山川穂高選手に対して「即刻解雇せよ」と言う声や「一刻も早い復帰を」と言った発言には奥村剛球団社長も陳謝に追われたが、その直後には思わぬ方向に“飛び火”する。
髙橋や今井達也投手が長髪をなびかせてプレーする“チーム・ロン毛”に「メシがまずくなる!」と一部株主から改善要求まで飛び出したのだ。
これまでも株主総会では、球団や選手に対して、注文をつけるケースは、しばしば見られたが、髪の毛が話題になるのは珍しい。
スポーツ選手が験を担ぐのは、良く見られる光景だ。
グラウンドに足を踏み入れる時は右足からと決めている選手や、白星を挙げた直後の試合から同色の「勝負パンツ」をはき続ける指揮官など理由は様々。
髙橋の場合もスタートは験担ぎからだったと言われる。最初は肩口辺りだった長さは、徐々に長くなり金髪になった。これに同調したのが2年後輩の今井でエース格2人の髪型はいつしか“チーム・ロン毛”と呼ばれるようになった。
スポーツの世界は不成績ならどんな些細な事でも批判を浴びる
「スポーツ選手は、さわやかであれ」という風潮は高校野球の丸刈りに代表されるように古くからある。大リーグのヤンキースや巨人などの伝統球団では、今でも長髪やひげを禁止している。
だが、時代は変わり、「さわやか」の価値観も多様化している。現に今季のパリーグではソフトバンクの柳田悠岐選手もロン毛なら、数日前にばっさりと切ったが、ロッテ・澤村拓一一投手も長髪をなびかせてプレーしている。
髪の毛で野球をやるわけではない。容姿や身なりの判断は個人差もあり、一概にどれが正しいとは言えない。では、一方で今回の騒動はどうして起こったのだろうか?
考えられる理由はいくつかある。
まず、山川の不祥事でファンの不満がたまっていること。次にチームも下位を低迷していて、浮上の見通しすら立たない重苦しい現状がある。さらに、親会社である西武ホールディングスもコロナの影響などで、鉄道やホテル部門の苦戦が続いている。株主とすれば、せめて野球だけでも、という思いがエースの長髪批判に向けられたとしてもおかしくはない。
スポーツの世界は結果がすべて。不成績ならどんな些細な事でも批判を浴びる。髙橋がこの先、勝利を積み上げていけば、ロン毛騒動も快勝され、逆に格好良く見えてくることもあるだろう。
不振にあえぐチームは25日の楽天戦で楽しみな未来像が見えた。
ドラ1ルーキーの蛭間拓哉選手がプロ1号の先制3ランを放てば、渡部健人選手が追撃の3号。投げては隅田知一郎投手が3勝目と期待のドラフト1位トリオがチームに4連勝を呼び込んだ。
高橋と今井の“チーム・ロン毛“もドラフト1位組だ。“物言う株主”を黙らせるには圧倒的な投球を見せ続けるしかない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)