球団7年ぶりの快投まであと一歩
ベンチを見て笑っていた。少し照れて、かといって恥ずかしいわけではない。
7月7日の七夕の夜。中日・小笠原慎之介は広島打線を牛耳った。
100球未満での完封「マダックス」が見ていた9回。一死を奪い、次打者・羽月へのこの日98球目。ファウルにされた。
「落合ヘッド(兼投手コーチ)を見ました。顔を隠していました(笑)。マダックスいけるかな、いきたいな、と思いながら、ベンチで話をしていたんです」
結果は102球の完封勝利。球団では2016年の小熊凌祐以来、7年ぶりの快投とはなかなかった。
マウンドに上がる際に流れた曲の意味
中5日での次回登板が決まっていたマウンドだった。
スイスイ投げて60球。7回を終えて74球。射程範囲内だった。8回で92球。点差は8点。十分なリードがあった。
左腕はベンチ内で落合ヘッドと会話したという。
出した走者の数や、打たれたヒットの数、シミュレーションしながら「半分は冗談で半分は本当だと思いますけど、結局はボクが“マダックス”をやりたかったんです」。
羽月のファウルでベンチを見たのは、そんなやりとりがあったから。
日本ハムからトレード加入し、初めてコンビを組む宇佐見真吾とのコンビで3併殺を奪い、三塁を踏ませなかった。
完封はプロ3年目だった2018年7月28日の巨人戦(東京ドーム)以来、実に5年ぶりだった。
こだわりは9回、マウンドへ上がる時の曲にあった。
シンガーソングライター・あいみょんの名曲「マリーゴールド」。球団スタッフに「9回、マウンドに上がるときは、マリーゴールドでお願いします」と頼んでいた。
「流れたとき、曲をかけてくれて嬉しかったです。そして、花言葉は、良いのと悪いの両方あるんですよね」。“悲嘆”、“絶望”、一方で“勇者”ともある。
「綯い交ぜになっているところも、お気に入りなんです」。完封へつなげた。
“中5日”が続く勝負の夏場
マダックスは1990年代から2000年代にメジャーで355勝を挙げたグレッグ・マダックスに由来している。
少ない球数で投げきることから、100球未満の完封として一般名詞化して球界に定着した。ちなみに本家は13度、達成している。
7月は13日のヤクルト戦(神宮)、初選出されたオールスターで、本拠地・バンテリンドームナゴヤで登板するのは19日、そして25日の本拠地・DeNA戦と中5日の3連発となる。
夢はメジャー移籍。「中5日が続いて、“はいダメだった”では話になりません。コンディションを整えて、登板間隔に関係なく、いいピッチングをできるように頑張ります」。
昨季までの2年間で中5日は6度あり、5勝1敗。勝ち負けがつくまでマウンドに立ち続け、白黒はっきりさせてきた。
竜のエース左腕・大野雄大は左肘手術で9月の復帰が濃厚。開幕投手を務めた小笠原の役割は大きい。
「勇者」として7月は中5日をこなし、8月も力強く投げて、エースのカムバックを待つ。
文=川本光憲(中日スポーツ・ドラゴンズ担当)