不安を払拭した愛知での招待試合
例年以上に「豊作」と言われている今年のドラフト候補たち。
高校生は、前田悠伍(大阪桐蔭・投手)や真鍋慧(広陵・一塁手)、大学生では常広羽也斗(青山学院大・投手)、細野晴希(東洋大・投手)、社会人では度会隆輝(ENEOS・外野手)が春先から結果を残し、「1位候補」としての地位を固めつつある。
その一方で、プロ注目のスラッガー・佐々木麟太郎(花巻東・一塁手)は少し静かな最終学年のスタートとなった印象を受ける。
昨年秋の東北大会では初戦で鶴岡東に敗れて選抜出場を逃し、4月1日に行われた「きたぎんボールパーク」(岩手県盛岡市)のオープン記念試合となった早稲田実との招待試合でも待望の一発が出なかった。
また、5月13日から2日間にわたって行われた沖縄での招待試合では、日本ウェルネス沖縄戦で背中を痛めて途中交代。それ以降の3試合を欠場した。春の県大会も最初の2試合は大事をとって出場していない。
練習試合ではホームランを積み重ねているとはいえ、注目が集まる招待試合や公式戦で欠場が続いたことで、佐々木の状態を不安視する声も次第に大きくなっていった。
ところが、こうした不安は一気に払拭される。
5月27日の岩手県大会・準決勝で推定飛距離130メートルの特大ホームランを放つと、圧巻だったのが6月3日と4日に行われた愛知での招待試合だ。
対戦相手は前年秋の愛知県大会でベスト4に進出した強豪4校であり、レベルの高い相手にどんなバッティングを見せるかに注目が集まっていた。その中で佐々木は4試合で17打数7安打・4本塁打と圧倒的な成績を残したのだ。
しかも、4本のホームランは全てが場外まで届くものであり、打った瞬間にそれと分かるものだった。強豪校がひしめく愛知県内のレベルの高い投手を相手にここまでのバッティングを見せられるというのは見事という他ない。
筆者は、2日目の至学館戦と中京大中京戦を現地で取材している。センター右へ運んだホームランもライト前に弾き返したヒットも、とても高校生が放った打球ではないという印象を持った。高校通算本塁打数は、あくまで参考記録ではあるが、ホームランを打つことに関しては、やはり“高校野球史上最高の選手”と言えるだろう。
“対応力”に成長を見た
では、なぜ佐々木はここまでホームランを量産できるのだろうか。
大きな要因は、やはりスイングスピードの速さであることは間違いない。
1年夏の岩手大会で初めてプレーを見た時もスイングスピードに驚かされたが、それから2年が経ち、さらにスピードアップしているように見える。
もちろん、バットを速く振っているわけではなく、ホームランになる軌道の打球を放つ“コツ”を既に持っているというのが大きな長所と言えるだろう。
そして、愛知での招待試合では“対応力”にも成長が感じられた。
至学館との試合では第1打席から3打席連続で空振り三振に倒れたものの、どちらかと言えば相手のバッテリーが高低と緩急を上手く使ったものであり、スイング自体は大きく崩されてはいなかった。
以前と比べて上半身の力みがない自然体で構えることができており、ボールを呼び込む意識の強さが感じられる。
前日の愛工大名電戦でサウスポーの外角高めのボールを、左中間に運ぶことができたのも、しっかり体を残してボールを呼び込んでスイングできていたからだ。
もう一つ大きな成長が感じられたのが、速いボールへの対応である。
2年春に出場した選抜高校野球では、市和歌山の米田天翼(現・東海大)の140キロ台のボールに完全に差し込まれていた。
だが、至学館戦の第5打席ではプロ注目投手の伊藤幹太が投じた141キロの内角のストレートをとらえてライト前に運んでいる。
まだタイミングをとる時のバットの動きは大きいものの、ヘッドの下がりが小さくなったことで、速いボールに間に合うようになった。以前に比べて少し体は引き締まったように見え、これもプラスに働いていると言えそうだ。
佐々木を巡っては、「体重100㎏を超える巨漢」、「ファーストしか守れない」、「怪我が多い」、「高校通算111本塁打を放った清宮幸太郎(日本ハム)もプロで苦戦している」と言ったマイナスを指摘する声が相変わらず少なくない。それでも、やはり打撃に関してはなかなか出てこないスケールを持った選手であることに疑う余地はない。
当然、プロのスカウト陣もそのことを理解しており、将来の中軸候補が欲しい球団は必ず高く評価してくるはずだ。
最後の夏も、あらゆる不安を吹き飛ばすような豪快なホームランを数多く放ってくれることを期待したい。
文=西尾典文(にしお・のりふみ)
☆記事提供:プロアマ野球研究所