白球つれづれ2023・第30回
今月19日(バンテリンドーム)、20日(マツダスタジアム)の2日にわたってオールスターゲームが行われた。
結果は全パが8-1、6-1でいずれも圧勝。ゲームの盛り上がりも、もう一つだったせいか、後日発表された平均視聴率は第1戦が9.6%で、第2戦が7.7%と低調のまま推移した。(テレビ朝日系列、ビデオリサーチ調べ、関東地区)
ちなみに昨年の初戦は9.7%だから大差はないが、剛腕・佐々木朗希投手の先発やWBC世界一の余熱を期待した関係者には落胆の声も聞かれた。
球宴前から物議を呼ぶ出来事も多かった。
ファン投票による猛虎党の“球宴ジャック”により、11人の大量選出(その内、湯浅京己、近本光司選手は辞退、大竹耕太郎投手は監督推薦)は全セのメンバー編成にも影響を及ぼし、前年三冠王のヤクルト・村上宗隆選手は落選。
全パでは中嶋聡監督(オリックス)がWBC組の疲労を考慮して山本由伸、宮城大弥両投手(いずれもオリックス)や甲斐拓也捕手(ソフトバンク)らの実力者を選考から外している。(山本は「ラストワン投票」で最後に選出)これらの要素も盛り上がりに水を差した一因と言えるだろう。
近年の球宴では「楽しく、仲良く」の風潮が主流を占める
だが、近年のオールスターはなぜ、低調に映るのだろうか?
確かにMVPに輝いた柳田悠岐(ソフトバンク)や万波中正(日本ハム)らの本塁打には一流選手の“華”があった。個人的には第1戦に登板した和田毅投手(ソフトバンク)の投球に目を奪われた。42歳4カ月の最年長左腕は全球ストレート勝負で三者凡退に料理。中でも岡本和真選手(巨人)からは145キロながら、キレのある直球で空振り三振を奪っている。これぞプロ、これぞ一級品の凄みを感じた。
一時代前の球宴と言えば、人気で劣るパ・リーグ勢が目の色を変えて、全セに襲い掛かった。看板投手は3イニングを投げるのが当たり前。そんな中から江夏豊(阪神)の9連続、江川卓(巨人)の8連続奪三振などの伝説が生まれた。
ところが、今では「楽しく、仲良く」の風潮が主流を占め、交流戦もあるからセ・パの対決色も薄らいでいる。
「楽しければそれでいい」と言う野球ファンも数多くいるだろう。しかし、曲がり角に立つ球宴と感じているファンも少なくないはずだ。スポーツの原点は互いが競い合う真剣勝負。それをスポイルしているのは旧態依然とした運営にもある。
オールスターを主催しているのは、コミッショナー事務局(以下NPB)でその収益の多くは同事務局の運営資金に回される。年2回の開催もこうした事情によるものだが、全パの中嶋監督は日程上から疑問を投げかけている。
今年を例にとれば、公式戦を中断してオールスターに充てられるのは移動日を含めて4日間。もし第2戦のマツダスタジアムが雨天順延となれば、翌日に試合が行われるため、選手はペナント再開当日に移動しなければならない。加えて、WBCの余波も考えれば、佐々木に3イニングの奪三振ショーなど期待できるわけがない。
メジャーの球宴とは天と地ほどの開きがある
加えて、メジャーのオールスターへの関心が、大谷翔平選手の活躍と共に高まっている。ここでも球宴に対する意識や運営法には天と地ほどの開きがある。
今年のメジャーオールスターは22年ぶりにシアトルで行われた。30球団持ち回りで年1試合だから、開催都市はお祭りムードにあふれかえる。
オールスターウィークには各種の催し物が開催され、前日のホームランダービーや当日に選手が市内を練り歩く「レッドカーペット」は選手にとっても一世一代の晴れがましい舞台となる。現地でも試合前までは和気藹々のお祭りムードだが、ひとたびゲームになると、真剣勝負で目の色を変えて戦っている。
こうした催しは、日米ともにスポンサーや広告代理店が介在するが、メジャーではMLB事務局も積極的に参画して、新たな魅力を発信し続けているのに対して、NPBが大きな改革に乗り出しているとは思えない。
最たる例が、ホームラン競争だ。優勝賞金が1億円のMLBに対して日本は100万円。額はさておいても、今年の球宴を見る限り、ホームラン競争の勝者である岡本よりも、スポンサーが設定した「日産EV No.1賞」を獲得した牧秀悟選手(DeNA)の方が、マスコミの扱いは大きい。これではスポンサー任せの弊害と指摘されても仕方ないだろう。
今年から就任した榊原定征コミッショナーは元経団連会長も歴任した経済人。これまで法曹界出身者の多かったコミッショナーにあって、積極的な改革の期待出来る人物だ。財政難に苦しむNPBなら、経済界への広い人脈を使って新たなスポンサー探しも可能だろう。
渡米して、本場のベースボールビジネスに学ぶのもいい。野球界のファン離れが叫ばれる今の時代だからこそ、改革に舵を切る時である。
たかがオールスター、されどオールスター。
「ファンあってのプロ野球」と叫ぶなら、その覚悟を示す時が来ている。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)