第46回:ルーキーの飽くなき向上心
豪快なスイングから放たれる打球が、大器を予感させる。ヤクルトのドラフト3位ルーキー・澤井廉は、未来の中心選手として確実に成長を進めている。
ファームでは4番を務め、前半戦終了時点で打率.261、13本塁打、34打点をマークした。本塁打はリーグトップの成績だ。
それでも、「もっともっと上を目指していかなければいけないと思っている。全然満足できる数字ではないので、これから伸ばしていきたい」と、澤井の向上心は揺らがない。
「たくさん課題はあるので、そういうところを潰していって、打率も3割に乗せられるように。終わったあとに出た結果が3割以上になっているようにやっていく」
後半戦に入っても、7月25日の楽天戦(森林どり泉)では5打数4安打の固め打ち。打率は現在のところ2割7分近くまで上昇している。
初めての一軍で感じた「実力不足」
2月の春季キャンプは二軍スタートだった。「自分のフォームに課題が残っている」と話し、「毎回同じようなスイングで振れるように、自分の中で練習を繰り返していきたい」と、闘志をみなぎらせた。
しかし、目標にしていた開幕一軍は叶わなかった。5月11日になって初めて一軍登録され、僅かな期間だったが、初めて一軍の舞台を経験することはできた。
そのときのことを「周りの方とのコミュニケーションや雰囲気、ナイターとデーゲームでボールの見え方も全然違う。違うことだらけ」と振り返り、ファームとの違いを痛感したという
「実力不足」を感じ、「一軍の戦力にはなれないなと感じた」という澤井。一方で、その経験が打席での変化につながっていった。
これまで「対自分」で打席に立っていたのが「今はどういうピッチャーがきて、どういう戦略を立てて崩しにくるのか。そういう『対相手』というのが、少し見えてきた」と、手応えを得ている。
課題に挙げていたフォームについても、「だいぶ自分のフォームというのを再現できるようになってきた」と話す。
それでも、「だだ、やっぱり毎打席毎打席(相手は)違う攻め方でくる。そこに対しての崩され方とか、次の打席とかが、未完成なので」と、決して満足はしていない。再現性をさらに高めるつもりだ。
「一軍でやってこその世界」そのために
ファームで指揮を執る池山隆寛二軍監督は、澤井について「練習ではパワー、数字通り出ている。非常に楽しみと興味を持っています。プロに入ってきている以上はそこを伸ばしていって、『村上2世』になってもらいたい」と語る。
春季キャンプのときからチームの主砲・村上宗隆と重ね、大きな期待を寄せていた。
澤井が「バットに当たらない」と悩んだときには、現役時代に通算304本塁打を記録した指揮官から「もっとボールの下を叩いて打球を上げることを考えろ」という助言を送り、次世代の大砲はその言葉を心に留めている。
また、チームを支える2人の選手とも貴重な交流を果たした。
ファームに調整に来ていた青木宣親からは「股関節の動かし方や一歩目の切り方とか、体の使い方を丁寧に1対1で教えてくださいました」と言い、同じ外野手の大先輩から守備面で貴重なアドバイスを授かった。これが青木との初めての会話だったという。
「(青木からは)体の基礎はできていると風に言われていて、あとは可動域とコントロールの仕方というのをもうちょっとやった方がいいと。そこから体の動かし方のメニューも増やしてやってきたら、今いい感じで。技術は全然ないんですけど、体を使うという面では少しいい方向にきているというのがあります」
さらに、下半身のコンディション不良で一軍を離れた山田哲人とも、戸田で初めてキャッチボールを行った。
特に言葉を交わすことはなかったというが、チームのキャプテンとボールで交わした“会話”は、「さすがにちょっと緊張しました」と笑顔で振り返っていた。
「一軍でやってこその世界だと思う」と話す澤井。中京大学から将来を期待されて入団した23歳は、二軍で鍛錬を重ね、一軍での活躍を誓う。
「前半戦でまず自分の力をつけるということに取り組んできて、今も満足はできていないですけど、それなりに長所である長打力というのもつけてきている。それを一軍で自分の力を100%出せるように準備して、いつ呼ばれても結果を出せるように準備していきたいと思います」
飽くなき向上心を持つ左のスラッガーが、チームの未来を背負う主軸として成長を続けていく。
取材・文=別府勉(べっぷ・つとむ)