野球ゲームの移り変わりから見るプロ野球史~第30回:燃えろ!!プロ野球 ’95 DOUBLE HEADER
90年代中盤まで、真夜中にプロ野球の結果や情報を知るのは難しかった。
夜のスポーツニュースを見逃してしまったら、ニッポン放送ショウアップナイターステーションの「プロ野球・ダイヤルQ2速報」に電話するしかない……といっても、通話代とは別に3分210円もかかるハードルの高さ。
下手したら請求書を見た母ちゃんから「ダイヤルQ2?色気づいてあんた!」なんつって勘違いされて小遣い減らされること必至。毎試合利用していたら月額6000円って、今のどんな動画配信サービスよりも高い。
さらにベッドでふと選手の成績や記録を知りたいと思っても、スポナビのプロ野球速報アプリはもちろんないし、ネットでNPBの公式記録を見ることもできない。ただひたすら朝刊の配達を持つのみ。
毎朝、スポーツ新聞で打率ランキングを確認するあのワクワク感はなんだったのだろうか?あの頃、今よりずっと「情報」は貴重だった。
だから、当時の野球ゲームは、やたらと公式記録類が充実している。中にはゲーム本編よりも、記録収録に力をいれてしまう頑張るベクトルが間違っているんじゃ……と思ってしまうソフトも存在した。1995(平成7)年11月22日発売の『燃えろ!!プロ野球 ’95 DOUBLE HEADER』のようにだ。
清々しいほどのクソゲー!?
本作は言わずと知れた、あのジャレコが誇る『燃えプロ』シリーズの新作で、当時の新世代ハードのプレイステーションとセガサターンで同時リリースされている。
野村ヤクルトが仰木オリックスを4勝1敗で一蹴して日本一に輝いたこの年、オープニングムービーでは実写とCGを駆使して往年の伊良部秀輝(ロッテ)やイチロー(オリックス)も登場。野村ヤクルトが仰木オリックスを4勝1敗で一蹴して日本一に輝いたこの年、どことなく当時のフジテレビナイター中継ぽい雰囲気に期待は高まるが、この映像がある意味ピークだということにユーザーはすぐに気付く。
説明書を開くと「新世代野球ゲーム、プレイボール!」なんて文言がまた胡散臭いわけだが、最初に断っておくと、『燃えプロ95』は完全なる、清々しいほどのクソゲーである。
投打のモッサリ感により爽快感ストロングゼロ、ファインプレー時には強制的にCGによるデジタルアニメが挿入されてテンポ台無し。
かと思えば一塁にランナーがいて、次打者が外野に抜けるヒットでも守備陣はサイヤ人レベルの強肩なので余裕で走者二塁憤死……というゲームシステムの崩壊。
往年の燃えプロ最大のウリだった、ドッド絵による選手固有フォームの再現も見る影もなく、今作からの「最先端ポリゴン技術 CGレンダリングが可能にした躍動感あふれるデジタルアニメーション」で全員キン肉マンのキューブマンのようにモコモコだ。
球場選択のジャレコドームは完全にメロンパンにしか見えないズンドコグラフィック。プレステ版のみ収録の「シナリオモード」は、『パワプロ』のように球団ごとの名シーンをクリアしていくわけでもなく、「宿敵」「好敵手」「狙え完全試合」と漠然としたジャンル分け。説明書もどこか投げやりだ。
「【宿敵】最多奪三振のタイトル争い。1回表から1試合戦います(投手にリリーフは出ません)。クリア条件:COM投手より三振を多く奪う」
ゴメン、単調すぎて全然やりたいと思えねぇ……。誰がどう見ても、スーファミ版どころか、ファミコン時代よりも著しく退化してしまったゲーム内容は、令和の今やっても哀しい。
当時の野球カードをデータで完全収録
では、なぜいまだにこのソフトを所持しているかと言うと、“ある機能”が図抜けて素晴らしいからだ。
本作は球場の外野フェンスに「週刊ベースボール」の広告が出ているように、ベースボール・マガジン社協力の“データベース”を完備している。しかも、成績一覧だけではなく、登場選手のベースボール・マガジン社「’95ベースボールカード」を搭載しているのだ。
なんと、当時のカードがデータ化され、選手ごとに写真と成績を確認することができてしまう(一部選手は写真なし)。落合博満(巨人)や清原和博(西武)という大物から、フランコ(ロッテ)やマック(巨人)といった懐かしの助っ人勢まで。
94年本塁打王のブライアントの出身校は、「アブラハムボールドウィン農大」という受験には絶対に役に立たない情報の深堀り度。2023年に南牟礼豊蔵(阪神)やリー・スチーブンス(近鉄)の野球カードが見れる仕様はほとんど感動すら覚えてしまう。もちろん、95年限りで現役引退した原辰徳(巨人)もしっかり収録されている。
ちなみに野球ゲームは、各権利関係から当時のデータのまま、今のオンライン配信でプレーするのは難しい。だから、中古のカセットやディスクを買うわけだが、現在『燃えプロ95』のプレステ版はだいたい500円前後で売られている。この値段で、「’95ベースボールカード」をたっぷり堪能できてしまうわけだ。
繰り返し言うが、ゲームそのものはファミコン版のバントホームランのようなネタにもならない、ガチのド直球クソゲー。だが、このカード機能だけで本ソフトを所持する資料価値は充分にある。
1995年秋、10月に原辰徳が現役引退して、11月に『燃えプロ95』が発売された。イチローやゴジラ松井の新スターが台頭してタツノリは去り、燃えプロも次世代機では通用せず実質的に役割を終えた半端ない喪失感。個人的に高校生になり、プロ野球がすべてだった少年時代が終わった時期として、記憶している。
あれから28年──。当時の高校生が中年男になり、ゲーム本編をプレーするわけでもなく、真夜中にただ缶チューハイ片手に「’95ベースボールカード」をぼんやりと眺める。それも、またレトロ野球ゲームの至福の楽しみ方なのである。
文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)