ついに、阪神に優勝マジック「29」が点灯した。
当連載をスタートした8月上旬には首位を行く阪神と2位・広島の差は1ゲーム。3位のDeNAと5.5差、4位の巨人でも射程圏内の6ゲーム差だったのに、わずか2週間あまりで大きく様変わり。この間に10連勝で独走態勢を築いた猛虎に対して、ライバルたちはズルズルと後退していった。
16日現在(以下同じ)広島とは8差、DeNAと11ゲーム差で、巨人とは実に12.5ゲーム差と圧倒的な数字が並ぶ。勝負事はゲタを履くまでわからない、とは言うものの岡田阪神が「アレ」をぐっと手元に引き寄せたことは間違いない。
「どこと優勝争いしてるの? 俺らは一つずつ勝って行くだけやんか。別に優勝争いなんかしてないで」
16日の広島戦に勝利してマジック点灯後に報道陣からコメントを求められた岡田彰布監督の談話だ。もはや、眼下の敵など存在しないと言いたげな自信がにじみ出る。勝負所の8月を迎えて、何が阪神をここまで走らせたのか?
昨年までのエース格、青柳晃洋と西勇輝の不振に、新守護神に予定した湯浅京己の故障離脱に始まり、新外国人選手たちの機能不全。さらには主砲格である佐藤輝明選手のスランプや近本光司選手の死球禍に直近では正捕手である梅野隆太郎の骨折離脱など、これまでの戦いは誤算も相次いでいる。それでいてチームの成績が落ちないのは、そつのない戦いを繰り広げるベンチワークと、それを可能にした総合力のたまものだ。
青柳と西の代わりには村上頌樹と大竹耕太郎投手が台頭。クローザーの穴は岩崎優が埋めていく。夏場からは中継ぎ陣に桐敷拓馬、島本浩也、加治屋蓮投手らが加わり厚みを増していった。
打撃陣では主軸頼みではなく、脇役たちの働きが際立っている。特筆すべきは中野拓夢、木浪聖也選手の新二遊間の活躍だ。守りが安定しただけでなく2番の中野と8番の木浪が打撃成績でも上位で気を吐いている。近本、大山悠輔と言ったチームの顔に加えて、2番と8番打者が働くことで切れ目のない打線が出来上がる。
16日の広島戦では佐藤輝がスタメン落ちした。前日の同カードでチャンスに凡退、その内容が悪すぎると指揮官の怒りをかったもの。クリーンアップだろうと、中心戦力だろうと悪いものは糾弾する岡田采配がチームに刺激を与えて全員野球を加速させているなら、これも見事なベンチワークと言うしかない。
ライバルたちを見てみると、広島は10連勝後に、森下暢仁、秋山翔吾選手ら主力の故障もあって減速、DeNAは宮﨑敏郎、牧秀悟選手らに凄みはあるが、前後を託す選手層が薄い。巨人では年間を通して投手陣の整備が出来ていない。中でも終盤の勝負所で実績のない田中千晴、鈴木康平やルーキーの船迫大雅投手らに託しているようでは競り勝てない。個人の資質と言うよりも、この時期に試行錯誤を繰り広げている首脳陣の責任は重い。
残り40試合弱。この時期になると優勝が難しくなったチームは、クライマックスシリーズを睨んだ戦いも視野に入って来る。要は3位以内を死守してポストシーズンに一発をかける戦略だ。ベテランの再調整に、若手戦力の見極め。それはそれで重要なことだが、肝心のペナントレースを実験台にだけで使われては興趣もそがれる。
プロである以上、最後の最後まで岡田阪神を苦しめる戦いを願いたい。
まだ、消化ゲームにするには早すぎる。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)
当連載をスタートした8月上旬には首位を行く阪神と2位・広島の差は1ゲーム。3位のDeNAと5.5差、4位の巨人でも射程圏内の6ゲーム差だったのに、わずか2週間あまりで大きく様変わり。この間に10連勝で独走態勢を築いた猛虎に対して、ライバルたちはズルズルと後退していった。
16日現在(以下同じ)広島とは8差、DeNAと11ゲーム差で、巨人とは実に12.5ゲーム差と圧倒的な数字が並ぶ。勝負事はゲタを履くまでわからない、とは言うものの岡田阪神が「アレ」をぐっと手元に引き寄せたことは間違いない。
「どこと優勝争いしてるの? 俺らは一つずつ勝って行くだけやんか。別に優勝争いなんかしてないで」
16日の広島戦に勝利してマジック点灯後に報道陣からコメントを求められた岡田彰布監督の談話だ。もはや、眼下の敵など存在しないと言いたげな自信がにじみ出る。勝負所の8月を迎えて、何が阪神をここまで走らせたのか?
ベンチワークと総合力でライバルを突き放す
昨年までのエース格、青柳晃洋と西勇輝の不振に、新守護神に予定した湯浅京己の故障離脱に始まり、新外国人選手たちの機能不全。さらには主砲格である佐藤輝明選手のスランプや近本光司選手の死球禍に直近では正捕手である梅野隆太郎の骨折離脱など、これまでの戦いは誤算も相次いでいる。それでいてチームの成績が落ちないのは、そつのない戦いを繰り広げるベンチワークと、それを可能にした総合力のたまものだ。
青柳と西の代わりには村上頌樹と大竹耕太郎投手が台頭。クローザーの穴は岩崎優が埋めていく。夏場からは中継ぎ陣に桐敷拓馬、島本浩也、加治屋蓮投手らが加わり厚みを増していった。
打撃陣では主軸頼みではなく、脇役たちの働きが際立っている。特筆すべきは中野拓夢、木浪聖也選手の新二遊間の活躍だ。守りが安定しただけでなく2番の中野と8番の木浪が打撃成績でも上位で気を吐いている。近本、大山悠輔と言ったチームの顔に加えて、2番と8番打者が働くことで切れ目のない打線が出来上がる。
16日の広島戦では佐藤輝がスタメン落ちした。前日の同カードでチャンスに凡退、その内容が悪すぎると指揮官の怒りをかったもの。クリーンアップだろうと、中心戦力だろうと悪いものは糾弾する岡田采配がチームに刺激を与えて全員野球を加速させているなら、これも見事なベンチワークと言うしかない。
ライバルたちを見てみると、広島は10連勝後に、森下暢仁、秋山翔吾選手ら主力の故障もあって減速、DeNAは宮﨑敏郎、牧秀悟選手らに凄みはあるが、前後を託す選手層が薄い。巨人では年間を通して投手陣の整備が出来ていない。中でも終盤の勝負所で実績のない田中千晴、鈴木康平やルーキーの船迫大雅投手らに託しているようでは競り勝てない。個人の資質と言うよりも、この時期に試行錯誤を繰り広げている首脳陣の責任は重い。
残り40試合弱。この時期になると優勝が難しくなったチームは、クライマックスシリーズを睨んだ戦いも視野に入って来る。要は3位以内を死守してポストシーズンに一発をかける戦略だ。ベテランの再調整に、若手戦力の見極め。それはそれで重要なことだが、肝心のペナントレースを実験台にだけで使われては興趣もそがれる。
プロである以上、最後の最後まで岡田阪神を苦しめる戦いを願いたい。
まだ、消化ゲームにするには早すぎる。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)