1日にスペイン代表との初戦に臨む
侍ジャパンU-18代表が出場する「第31回 WBSC U-18ベースボールワールドカップ」が8月31日に台湾で開幕した。
今回の代表選手には、「高校四天王」と呼ばれた4選手のうち、佐々木麟太郎(花巻東)、真鍋慧(広陵)、佐倉俠史朗(九州国際大付)のスラッガー3人が選ばれなかった。
一方で選手20人のうち、夏の甲子園に出場できなかった選手も5人招集されている。
例年、夏の聖地に届かなかった選手の中に逸材がいる。
昨年は夏の甲子園に出場できなかった広陵・内海優太が4番を務めた。2015年は代表選手の中で唯一、夏の甲子園に出場していなかったのが大分商・森下暢仁だった。その後、明大に進学し、2019年のドラフト1位で広島に入団した。
そこで今回は、夏の甲子園ではチェックできなかった「今見ておくべき夏の甲子園未出場組の逸材」を紹介したい。
緒方漣(横浜)
・内野手・169センチ/69キロ
・右投右打
緒方は内野守備なら世代No.1と評される守備の名手だ。
堅守を買われ、甲子園春夏通算36度の出場を誇る名門・横浜で1年夏から正遊撃手を務めてきた。
ただし、守備の人ではない。打撃も非凡なセンスを兼ね備えている。
緒方の名を全国に知らしめたのが1年夏の甲子園だった。
1回戦の広島新庄戦に「1番・遊撃」で先発。0-2の9回二死一・三塁の土壇場で打席が回り、左翼席に逆転サヨナラ3ランを放ってヒーローとなった。
身長169センチと小柄ながら持ち前の打撃技術で安打を積み重ねる巧打者で、国際大会で求められる勝負強さも兼ね備えていると言える。
今夏は、守備で「話題の人」となった。
慶応との神奈川大会決勝でのことだった。5-3の9回無死一塁。二塁へのゴロで併殺を狙った遊撃の緒方が二塁ベースを踏まなかったと判定された。この微妙なワンプレーをきっかけとし、サヨナラ負けにつながった。その悔しさを侍ジャパンで晴らそうとしている。
そして、今大会は本職の遊撃手ではなく、二塁手として起用されそうだ。
今回招集された選手20人の中には、二塁を本職とする選手がいない。それは、緒方なら不慣れな二塁も苦にしないだろうと馬淵監督から高く評価されている証とも言える。
「周りは全国トップレベルですけど、自分は“守備あっての緒方”なので、どこでも守れることをアピールしたいです」と守備で世界を驚かそうとしている。
武田陸玖(山形中央)
・投手・174センチ/77キロ
・左投左打
武田は、馬淵史郎監督がほれ込んだ投打二刀流の選手である。
東北では知られた存在だった武田が一躍全国区となったのが、4月上旬に行われたU18日本代表候補選手の強化合宿だった。
最速147キロ左腕としてブルペンで切れのある直球を投じたかと思えば、フリー打撃では木のバットを苦にせずに鋭い打球を連発した。
この姿を見た馬淵監督からは「ちょっと(ものが)違うなと思ったのが山形中央の武田くん。瞬発力の凄さは目につきましたね。投手としても素晴らしいですけど、打者としては一級品ですよ。体が小さいですけど、構えてからインパクトまでのスピードはNo.1だと思います」と絶賛された。
こうして、わずか3日間の合宿で評価を急上昇させ、夏の甲子園に出場できずとも今回の代表選出につなげた。
また、馬淵監督が「球数制限があるので、投手と打撃を両方できる選手を多めに入れた」と説明しているように、今大会は投打二刀流を担う選手が重要な役割を担うことは間違いない。というのも、球数制限の条件が細かく設定されているのだ。
1日の最多投球数は105球で、1日41球以上を投じた場合は、球数に応じて中1~4日を空ける必要があるため、投手10人を柔軟に運用しなければならない。
武田は、打撃が得意な投手としてではなく、投打ともにプロ注目する逸材だ。投打の中心選手として、世界一の鍵を握るキーマンの一人になりそうだ。
前田悠伍(大阪桐蔭)
・投手・180センチ/76キロ
・左投左打
もはや説明不要の世代No.1左腕ではあるが、前田の現状について最後に触れておきたい。
夏の大阪大会は登板2試合のみと不完全燃焼に終わった。体力を温存しつつ迎えた決勝の履正社戦で先発を託されたものの、8回6安打3失点とリードを許した状態でマウンドを譲って準優勝に終わった。
投球内容を見れば、決して本調子ではなかった。
NPBスカウトのスピードガンでは最速143キロにとどまった。さらに4四死球を与えたように、武器である制球も不安定だった。
しかし、予選敗退から日本代表が始動するまでの約1カ月間で状態をきっちりと仕上げた。
8月28日に行われた大学代表との壮行試合(東京ドーム)では、先発を任されて2回3奪三振で無失点に抑える好投を披露。最速145キロを計測した直球には切れがあり、大学生が次々に差し込まれた。さらに勝負球のチェンジアップはブレーキが効いており、格上相手の打者もバットが止まらなかった。
前田自身も「決勝戦よりも状態はいい」と手応えをつかんでいる。侍エースは、万全の状態で本番に臨めそうだ。
夏の甲子園に出場できなかった残りの2人もプロが注目する好選手だ。霞ヶ浦・木村優人は、春から夏にかけて成長した最速150キロ右腕で、今秋のドラフト上位候補に挙がっている。
さらに、左の巧打者である明徳義塾・寺地隆成は、捕手登録ながら一塁など内野も守れる万能選手だ。大学代表との壮行試合では「1番・一塁」で先発し、初回先頭で左前打を放つなど日に日に存在感を高めている。
甲子園期間にコツコツと準備を進めていた選手たちがチームの屋台骨となり、初の世界一を目指す。
文=河合洋介(スポーツニッポン・アマチュア野球担当)