進路に注目が集まる佐々木麟太郎
慶応の107年ぶり2回目となる優勝で幕を閉じた『第105回全国高校野球選手権記念大会』。夏の大舞台が終わり、いよいよ秋の“運命の日”も近づいてきた。
今夏の甲子園はドラフト候補が“不作”であると一部のメディアで指摘されたこともあったが、その中でキラリと光るものを見せた選手が多くいた。今回はその中でも特に目立った野手を紹介したい。
ドラフト候補として最も注目を集めたのは、やはり佐々木麟太郎(花巻東・一塁手)だ。期待された本塁打こそ出なかったものの、初戦の宇部鴻城戦と3回戦の智弁学園戦でいずれも3安打を放つ活躍を見せた。
スイングと打球は、他のドラフト候補と比べてみても圧倒的に速い。宇部鴻城戦は全て逆方向のレフトへの打球だったが、2本はあっという間に外野に抜け、3本目も三塁手のグラブを弾く強烈な当たりだった。
また、智弁学園戦では1本目が緩い当たりのレフト前で、2本目と3本目はセンター前に鋭く弾き返している。少しでもボールが甘く入れば本塁打や長打が出る雰囲気が漂っており、長距離砲としての素質の高さは疑いようがない。
今後の進路については明言を避けているが、プロ志望届を提出すれば複数球団が1位で指名する可能性が高いだろう。
スラッガーの真鍋慧と佐倉侠史郎も甲子園で躍動
一方、佐々木と並んで下級生の頃から注目を集めた真鍋慧(広陵/一塁手)と佐倉侠史郎(九州国際大付/一塁手)も甲子園で存在感を示した。
真鍋は初戦の立正大淞南戦で2安打3打点と活躍。6回裏二死満塁で打席が回ってくると、レフトへ走者一掃となる適時二塁打を放った。
相手の左翼手が目測を誤り、ボールを捕り損なうという一打だったとはいえ、逆方向への打球の勢いと角度はさすがという他ない。
また、この試合では見逃しのストライクが1球もなく、厳しいマークの中で数少ない打てるボールを狙おうという姿勢も好感が持てた。
敗れた3回戦の慶応戦は最終打席がバント失敗で終わり、少し不完全燃焼な印象も残ったが、その悔しさはプロの舞台で晴らしてもらいたい。
佐倉はチームが初戦の土浦日大に敗れ、自身も1安打に終わったが確かな成長は見せた。
下級生の頃の極端に体を沈み込ませるスタイルから自然体の構えになり、ボールを長く見ることができるようになった。スイングスピードとインパクトの強さもさすがで、体が絞れたことで守備の動きも改善されている。
もう1人、スラッガーとして注目を集めた仲田侑仁(沖縄尚学/一塁手)は、太ももを痛めた影響もあって3試合で2安打に終わったものの、準々決勝の慶応戦でレフトスタンドへ先制の2ランを放つなど、こちらも存在感を示した。
遊撃手に“プロ注目”がズラリ
スラッガータイプの選手以外では遊撃手に好素材が多かった。横山聖哉(上田西)や百崎蒼生(東海大熊本星翔)、山田脩也(仙台育英)といった名前があがる中、特にスケールの大きさを見せたのが横山だ。
肩の強さは抜群で、さらにハンドリングも巧み。平凡な遊ゴロをさばいたプレーでも、そのスピード感に甲子園のスタンドがどよめくほどだった。
打撃では力みが目立ったものの、最終打席には鋭い当たりのヒットを放つなど、素材の片鱗を見せている。希少な大型遊撃だけに、上位指名の可能性もありそうだ。
百崎は熊本大会直前の練習試合で自打球を受けて左脚を痛め、万全の状態ではなかったが、それでも2安打を放った。140キロ台のストレートを強く弾き返すバットコントロールは天才的。相手の隙を突く走塁も見事だった。
山田は6試合で5安打、打率.200と打撃は振るわなかった。だが、遊撃守備では再三軽快な動きを見せてチームの決勝進出に貢献した。安定感とスピードを兼ね備えた守備は高校生でもトップクラスだ。
甲子園で最も評価を上げた選手は?
そして最後に触れたい選手が、今大会で最もプロからの評価を上げたであろう履正社の主砲・森田大翔(三塁手)だ。
初戦の鳥取商戦では内角高めのストレートをレフトスタンドに運ぶと、続く高知中央戦でも高めのボールを見逃さずにセンター左へ叩き込んだ。
パワーはもちろんだが、体の近くからスムーズに振り出し、鋭く体を回転させて内角をさばく技術の高さは見事。三塁守備でも1つエラーはあったものの、動きの良さと強肩が光っていた。
今回の記事ではプロ志望と見られる選手を中心に紹介したが、筆者は夏の甲子園の取材を通じて、目玉候補の佐々木以外にもレベルの高い選手が多かったという印象を受けた。
特に真鍋や横山、森田らはプロから高い評価を受けていることが予想される。10月26日に開かれるドラフト会議では、早い段階で彼らの名前が呼ばれる可能性も大いにありそうだ。
文=西尾典文(にしお・のりふみ)
☆記事提供:プロアマ野球研究所