白球つれづれ2023・第37回
オリックスの山本由伸投手が今月9日のロッテ戦(ZOZOマリンスタジアム)でノーヒットノーランの快記録を打ち立てた。
自身2度目で、2年連続の快挙は戦後初。戦前の歴史を見ても沢村栄治(巨人)と亀田忠(イーグルスなど)以来、82年ぶりの記録である。
山本の特徴は155キロ近くの球威あるストレートと、多彩な球種をすべて「決め球」に出来る精密なコントロール。この日は1球たりとも安打に出来そうなボールはなかったとロッテの打者たちが一様に舌を巻いている。
7月25日のソフトバンク戦の9回から続く無失点記録は42イニングに伸び、8、9月は防御率0.00。勝利、防御率、勝率に奪三振を加えた投手四冠にも視界は良好で、達成すれば3年連続の偉業となる。
今や日本球界の至宝となった山本。今オフのポスティング移籍が有力視されているので早くからメジャーリーグ関係者も熱視線を送り続けている。
2度目の「ノー・ノー」を達成したロッテ戦には、MLB13球団の関係者が視察。中でも注目を集めたのが名門・ヤンキースのブライアン・キャッシュマンGMの姿だった。
日本時間10日現在(以下同じ)アリーグ東地区の最下位に沈むヤ軍は、来季に向けて早くも大幅なチーム改造に迫られている。中でも先発投手陣再建が急務で、現地紙では「最低でも2~3人の補強が必要」と報じられている。GM直々の来日は田中将大投手(現楽天)を獲得時以来のこと。いかにヤ軍が山本獲得に本腰を入れているかがわかる。
その山本が海を渡った時の契約金は5年をベースに2億ドル(約294億円)と予想されている。1年前にソフトバンクからメッツに移籍した千賀滉大投手が5年で7500万ドル(約111億円)と伝えられているから、破格の数字だ。
大谷の故障と大物FA投手の動向が山本の争奪戦に影響
山本株急騰の背景にはいくつもの要素が考えられる。
まず、今春に行われたWBCで世界一になった侍ジャパンのエース格として、レベルの高さが、広く認知されたこと。24歳の若さに加えて故障歴がないのも心強い。さらに、ここへ来て大谷の故障がメジャーのFA戦略に大きな変化をもたらしているからだ。
今オフのMLB最大の関心事がエンゼルス・大谷翔平の去就であることは今も変わらない。投打二刀流は唯一無二の存在、今季は打者として本塁打王が確実視され、MVPの受賞もほぼ間違いない。そんな大谷の商品価値は前代未聞の5億~6億ドル(約725億~870億円)と弾き出されていた。
しかし、8月下旬の「右肘靱帯の損傷」は全球団に衝撃を与えたばかりか、獲得への青写真まで修正を余儀なくされた。投打の二刀流だから超巨額の契約金も弾き出されていたが「投手・大谷」が手術から長期離脱などを考えれば獲得に二の足を踏む球団も現れる。ある球団関係者は「大谷と代理人はこれで1億ドル(約145億円)を失った」と語ったと言われる。
メジャーで今オフのFAの目玉は大谷とドジャースの左腕エース、フリオ・ウリアスと目されてきた。だが、大谷の故障に加えて、ウリアスは今季途中に家庭内暴力で逮捕されるなど問題を抱えている。すでに保釈済みとは言え、再犯のため来季の出場制限も予想されている。つまり、FAの超目玉2選手の異変によって皮肉なことに山本へのラブコールはさらに過熱することになったのである。
すでに山本の獲得にはヤンキース以外にもドジャースやメッツ、パドレスらも名乗りを挙げている。この先、どこまで熱さを増していくのか?
今季は千賀(メッツ)、吉田正尚(レッドソックス)に藤浪晋太郎(オリオールズ)ら日本人ルーキーの活躍が目覚ましい。そこに「ノー・ノー男」の山本が参戦なら、いよいよ日本野球がメジャーを席巻する日も近い。
ラグビー、バスケットのW杯に、サッカー日本代表のドイツ撃破。時代は世界での勝負に目が向けられている。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)