白球つれづれ2023・第38回
阪神優勝が決まった翌日の15日、中日球団は立浪和義監督の来季続投を発表した。
現状は球団史上初の2年連続最下位に沈む確率は高く、「お先真っ暗」なチーム状態に立浪監督の退団も一部でささやかれた。だが、球団は3年契約の3年目である事、「道は険しいが、新しい芽も出ている」(加藤宏幸球団代表)として続投を決めたものだ。確かに春先には中継ぎエースのジャリエル・ロドリゲスが亡命騒ぎを起こして退団。左腕エースの大野雄大が左肘遊離軟骨の除去手術で早々と戦列離脱と大きな誤算が生じたのも事実だが、記録的な最下位はそれだけが理由ではない。
18日現在(以下同じ)50勝78敗4分けの数字はセリーグどころか、両リーグワーストの成績。残り11試合を考えれば1964年以来の球団最多敗(83)まで見えて来る。
救いようのない惨状を象徴したのが17日の広島戦。偉大なOBである杉下茂氏の追悼試合と銘打たれた一戦も今季23度目の完封負けでなす術なく敗れた。先発した柳裕也投手は8回を2失点と責任は果たしたが、後半戦9試合に登板して援護は4点だけ。防御率2.57の先発投手が4勝11敗では浮かばれない。
「みっともない試合をしてしまった」と試合後に語った指揮官だが、その後の談話には首を傾げる。
「後半戦(柳の登板の時)はずっとそう。打てないなら意識を変えないといけない」
確かに散発5安打無得点に終わった打線の責任は重いが、この日に限ったことではない。それを指導して変えていくのが首脳陣の務めである。どこか、評論家のように聞こえる敗戦談に、このチームの抱える病巣の深さを感じてしまう。
大幅なチーム刷新と若返りを目指して、立浪監督が誕生したのは21年オフのこと。かつて「ミスタードラゴンズ」と呼ばれた打撃の職人に期待が集まった。
だが、現実は大きく乖離している。
チーム防御率はリーグトップなのに、同打率は最下位のアンバランスさ。その打撃陣のテコ入れに躍起となる指揮官だが、本人の打つ手も不発続きだ。
就任前の評論家時代から即戦力の大砲としてブライト健太や鵜飼航丞選手らを挙げてドラフト上位指名したが、未だに戦力になっていない。昨オフには新外国人探しに、自ら中南米に足を運んでいる。そこで獲得した4番候補のアリスティデス・アキーノも看板倒れで終わった。
一方で昨年まで主力を張っていた阿部寿樹(楽天)や京田陽太(DeNA)選手らを放出するが、打線の強化には至っていない。今季の活躍が目立つ細川成也選手は現役ドラフトでの成功組。勝負強い打撃を発揮する宇佐見真吾選手も正捕手である木下拓哉選手の故障により緊急トレードで獲得するなど、決して計画通りに進んだわけではない。
そんな体たらくの中で、8月に入ると立浪バッシング゛は激しさを増して行く。同月25日のDeNA戦では3年目の近藤廉投手を1イニング10失点の“さらし者”にして批判を浴びると“米騒動”まで引き起こしている。
試合前のサロンで提供されていた白米が突如、立浪監督の指示で消えたと言う。指揮官からすれば、試合前には消化の良いものを食べろ、と言う親心かも知れないが、選手たちにしっかり意図を説明すれば、ここまで騒ぎが大きくなってはいなかっただろう。コーチ陣も含めて監督にモノを言えない空気があったのだとすれば、チーム一丸などあり得ない。
監督にすべてを託す球団の姿勢も疑問符
すでにチームは来季へ向けて舵を切っている。
18日の広島戦前には福田永将、堂上直倫ら4選手の退団会見が行われ、ゲームには5年目のドラ1、根尾昂投手が今季初の一軍先発。その根尾は6回まで無失点の好投を見せるが7回につかまり、勝利投手の権利まで失ってしまう。延長にもつれ込んだ接戦はサヨナラ勝ちをおさめたが、6点リードの根尾を勝利投手にしてやれないドタバタぶりも今季のチームを象徴していた。
「改革と共に勝負にこだわって欲しい」と加藤球団代表は3年目の立浪監督に要求する。しかし、監督にすべてを託す球団の姿勢も疑問符がつく。ここまでの不振をどう分析して、指揮官と打開策を詰めるのもフロントの役目である。
加藤代表は球団本部長や編成担当も兼務するGM職に近い立場だが、現場の問題点をどこまで把握して、改革しようとしているのか、部外者には見えて来ない。
負けても、負けてもファンは球場に足を運び、今季の観客動員は4年ぶりに200万人を突破したと言う。仏の顔も何とやら。いつまでもファンを泣かせるわけにはいかない。進むも地獄の中で、立浪中日の3年目はもう始まっている。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)